◇SH0477◇「株主総会プロセスの電子化促進等に関する研究会」の設置 松田貴男(2015/11/17)

未分類

「株主総会プロセスの電子化促進等に関する研究会」の設置

岩田合同法律事務所

弁護士 松 田 貴 男

 

 経済産業省は、平成27年11月4日、「株主総会プロセスの電子化促進等に関する研究会」(以下「本研究会」という)を設置する旨を公表し、同月9日に本研究会の第1回研究会が開催された。今後は月1回のペースで開催され、今年度内のとりまとめを目指すとの方針が示されている。

 本研究会について、検討事項と現行法制度の対比、及び予想される今後の方向性は以下の通りである。

 

1.主な検討事項と現行法制度上の規律

 本研究会における主な検討事項は以下の3点である。

  (1)株主総会招集通知等の提供の原則電子化に向けた課題と方策
  (2)議決権行使プロセス全体の電子化を促進するための課題と方策
  (3)株主総会関連の適切な基準日設定に向けた対応策

 これらの主な検討事項についての具体的な検討事項案(第1回研究会において事務局から提出された資料【資料5-1】に記載されたもの)及びそれについての現行法制度における規律の対比は以下の表の通りである。

研究会の検討事項(案)

現行法制度上の規律

  1. ⑴ 招集通知等の提供の原則電子化に向けた課題と方策
  2. ① 早期(発送前)Web開示の円滑な実施に何が求められるか。
  3. ② 招集通知関連書類(計算書類・事業報告等)の提供を原則電子的に行い、希望する株主には書面で送付するという米国の「Notice & Access」制度と同様の対応を採用する上での課題や必要な措置は何か。
  1. ► コーポレートガバナンスコード上、招集通知記載情報は招集通知発送前にTDnetや自社ウエブサイトで電子的に公表すべきとされる(補充原則1-2②)
  2. ► 株主総会の招集通知、総会参考書類、計算書類、事業報告等の招集通知関連書類は原則として書面で株主へ交付する(会社法299条1項2項、301条1項外)
  3. ► 上記の書面交付の例外として、以下の2つの制度あり

(i)  株主の個別承諾を得た場合は、招集通知関連書類を電子メールやウエブサイト上での掲載などの電磁的方法により提供可能(会社法299条3項、301条2項)

(ii) 株主の個別承諾がなくとも、個別注記表記載事項など一定の事項は、定款の定めによりインターネット上に掲載することが可能でありこの場合は書面提供不要(いわゆるWEB開示・会社法施行規則94条1項・133条3項、会社計算規則133条4項・134条4項)

  1. ⑵ 議決権行使プロセス全体の電子化を促進するための課題と方策
  2.   議決権行使電子プラットフォームを活用しやすくするなど、機関投資家による議決権行使プロセス全体の電子化に向けた課題と対応策は何か。
  1. ► 株主総会に出席しない株主による電磁的方法による議決権行使を認めることは可能(会社法298条1項4号・4項)
  2. ► コーポレートガバナンスコード上、機関投資家や海外投資家比率等を踏まえ、議決権の電子行使を可能とするための環境作り(議決権行使電子プラットフォームの利用等)や招集通知英訳を進めるべきとされる(補充原則1-2④)
  1. ⑶ 株主総会関連の適切な基準日設定に向けた対応策
  2.   決算日・招集通知から株主総会日までの期間を十分に確保するとともに、総会日に近接する時点の株主による議決権行使を実現するために、決算日でない日を基準日と定めることが期待される。そのような取り組みの円滑化に向けどのような対応があるか。
  1. ► 株主の株主総会議決権及び配当受領権の基準日を定めた場合には、当該基準日の効力は3か月間に限る(会社法124条1項2項)
  2. ► 定時株主総会は毎事業年度終了後一定の時期に招集する必要がある(会社法296条2項)
  3. ► 決算日を基準日とすることは法的義務ではなく、したがって、決算日から3か月以内に定時株主総会を開催することは義務的でない

 

2.予想される今後の方向性

 本研究会の検討事項のうち、(1)(招集通知等の提供の原則電子化)については、既に明確に方向性が示されているとおり、米国における制度と同様に、電子提供を原則とする方向で、そのための課題や措置が検討されることが予想される。仮にかかる方向性に沿って本研究会の検討結果がとりまとめられる場合には、現行法制度における情報提供媒体の原則(現状は書面が原則)と例外(例外的に株主個別承諾により電磁的方法)を逆転させる内容の法制度改正へと発展する可能性がある。

 (2)(議決権行使プロセス電子化)及び(3)(株主総会関連の適切な基準日設定)の各検討事項については、本研究会の事務局が示す方向性を実現するための基本的な法制度自体は既に手当済みと考えられるため、実務運用をどのように円滑に変更できるかという観点からの種々の方策が議論されることが予想される。

 本研究会における検討は、平成27年6月に閣議決定された「日本再興戦略改訂2015」が、企業の情報開示・株主総会プロセス等を取り巻く諸制度や実務を横断的に見直し、全体として実効的で効率的な仕組みを構築すべく検討を進める旨を盛り込んだことを背景とするものであり、本研究会における検討結果は法制度改正も含めて実現化へ向けたステップが早期にとられる可能性が高い。また、招集通知関連情報や議決権行使の電子化の促進のみならず、基準日を決算日より遅らせることにより、現状6月末に集中する3月決算期の会社の株主総会の開催時期をより拡大させる(と同時に基準日と総会開催日のギャップ期間は短縮化)という日程も含めた株主総会プロセス全体の見直しまで検討の範囲に含まれている。

 したがって、本研究会におけるとりまとめ結果は、株主総会実務の様相を短期間に一変させる可能性がありその動向には高い関心が払われるべきである。

 

タイトルとURLをコピーしました