二弁、社外役員候補者名簿情報の公開について
岩田合同法律事務所
弁護士 笹 川 豪 介
先般、第二東京弁護士会(以下「二弁」といいます。)が社外役員候補者名簿情報を公開した。
そこで、本タイムラインでは、社外役員の意義や弁護士が社外役員となること、当該名簿は企業としてどう活かせるのかについて説明を行う。
1.社外役員とは
社外役員とは、一般に、社外取締役・社外監査役のことを指していう。社外取締役とはその会社の業務執行をせず、かつ、就任前10年間その会社の業務執行をしたことがない等の一定の要件を満たした取締役をいい(会社法2条15号)、社外監査役とは、就任前10年間その会社の業務執行をしたことがない等の一定の要件を満たした監査役をいう(同条16号)。
社外役員に関しては、以下の通り、会社法等で一定の義務が課されている。
法令等 |
社外役員の種別 |
義務の内容 |
会社法327条の2 |
社外取締役 |
(社外取締役を置かない場合)定時株主総会における、社外取締役を置くことが相当でない理由の説明 |
有価証券上場規程436条の2 |
独立役員(社外取締役又は社外監査役) |
独立役員1名以上の確保 |
コーポレートガバナンスコード原則4-8 |
独立社外取締役 |
上場会社について、独立社外取締役2名以上の選任 |
会社法328条1項、335条3項 |
社外監査役 |
大会社である公開会社(委員会設置会社以外)について、社外監査役2名以上の選任 |
社外役員には、株式会社の「執行と監督の分離」のうち監督の役割を果たすため、業務執行機関を監督すること(経営へのモニタリング機能の強化)が期待され、コーポレートガバナンスコードでも、独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであるとされている(原則4-8)。
社外役員については、取締役会等で議案の審議を尽くすことに関して、上記の通り監督的な立場から、また、社内のしがらみを離れて議論・指摘を行うことにより、経営判断の品質を高める役割が期待される。また、内部統制システム(リスク管理体制)の整備や危機発生時の対応に関しても、業務執行者から独立した客観的な立場から、株主・債権者・従業員等の会社のステークホルダーに理解されるものとなるよう、当該企業に適正な対応を行わせる役割が期待されている。
よって、会社の業務に精通していることがより望ましいものではあるが、上記の役割を果たすことができるのであれば、会社の業務に精通していること自体は必須ではないものと考えられている。
2.社外役員を弁護士とする意義
弁護士は、職業上、以下の点で社外役員への適性があると考えられる。
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このことから、弁護士は、東証上場会社(のうち監査役設置会社)全体における社外取締役の9.8%、社外監査役の18.7%の比率を占めており、これは公認会計士や税理士、学者などと比較しても高い比率となっている。
【社外役員の属性と比率(「東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2015」[1]より)】
他の会社の 出身者 |
弁護士 | 公認会計士 | 税理士 | 学者 | その他 | |
社外取締役 |
74.4% |
9.8% |
3.6% |
0.8% |
7.4% |
4.1% |
社外監査役 |
55.6% |
18.7% |
13.1% |
6.5% |
2.3% |
3.8% |
3.二弁の社外役員候補者名簿
以上の通り弁護士が社外役員となることについては一定の意義があるものと考えられるが、一方で、企業としては顧問弁護士以外の弁護士を多く知っているわけではないケースもある。そこで、顧問弁護士以外の弁護士を社外役員とする際の選定に資することもあり、弁護士会で社外役員候補者名簿を作成しているケースがある。
今般の二弁の名簿公開についても、企業における(弁護士である)社外役員の選定に資するものとして、社外役員候補者名簿情報を公開されたものと考えられる。
名簿には、120名余の二弁に所属する弁護士の登録がされており、弁護士としての経験年数や所属する法律事務所の情報、経歴、特に取り組んでいる業務・分野、社外役員・上場企業顧問・社内弁護士・公職の経験、著書等に関する事項が掲載されている。
なお、今回公開された名簿の登録に当たっては、懲戒歴がない(あるいは懲戒から一定期間が経過している)こと、弁護士会の指定研修を受講していること、一定以上の弁護士賠償責任保険の被保険者となっていることが要件とされている。
4.企業における社外役員候補者名簿の活用
企業において弁護士である社外役員を選定する際には、独立性の観点から顧問弁護士以外の弁護士から選定することが多く、その場合、顧問弁護士などからの紹介によることが多いものと思われる。そのような状況下で、社外役員候補者名簿については、社外役員の候補検討の方法の選択肢を増やすことが期待されるものである。
一方で、記載事項については一定の事項に限られ、厳しい登録要件が課せられるものではないこともあり、名簿の情報だけでは、上記1で触れた社外役員として期待されることを中心とした、企業が社外役員に求める役割を充足するかどうかを判断することは困難である。
よって、企業としては、名簿に記載されている情報は参考にしつつも、その情報に必要以上に依拠することなく、それ以外の情報、たとえば、顧問弁護士などからも、名簿に記載された弁護士に関する情報収集を行うことが重要であると考えられる。また、選定に当たっては、短時間の面談だけではその弁護士の働き方について十分把握できないことも踏まえ、何かしらの案件に(たとえば監督的立場から)関与してもらう、一定期間監督的立場からの助言を受けたうえで判断するというような工夫も考えられる。
企業としては、まずは「自社が求める社外役員の役割」を十分議論したうえで、必要に応じて社外役員候補者名簿も参考にしつつもその他からも情報収集を行い、「自社が求める社外役員の役割」に適合する弁護士を選ぶことが肝要である。
以 上