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本件は、共同保証人の1人であり、主たる債務者の借入金債務を代位弁済したX(信用保証協会)が、他の共同保証人であるYに対し、民法465条1項、442条(共同保証人間の求償権)に基づき、求償金残元金と遅延損害金の支払を求めた事案である。
Y(当時はA株式会社の取締役であったが、後に辞任)は、A株式会社から委託を受け、平成元年4月、B銀行との間で、A株式会社がB銀行に対して負担する一切の債務を連帯保証する旨の契約を締結した。A株式会社は、平成2年8月、B銀行から2口合計8,490万円を借り入れたが、その際、Xは、A株式会社からの委託に基づき、この借入金債務を連帯保証した。
Xは、平成6年2月、B銀行に対し、上記借入金の残債務全額を代位弁済し、A株式会社は、同年12月から平成13年5月までの間、Xに対し、この代位弁済により発生した求償金債務を一部弁済した。
Xは、平成14年5月、A株式会社に対し、求償金の支払を求める訴訟を提起し、同年9月、請求認容判決が言い渡され、その後同判決は確定した。
Xが、上記代位弁済から18年以上経過した平成24年7月に本件訴訟を提起したところ、Yが求償権の時効消滅を主張した。これに対し、Xは、共同保証人間の求償権は主たる債務者に対する求償権を担保するためのものであるから、主たる債務者に対する求償権の消滅時効の中断事由がある場合には、民法457条1項の類推適用により、共同保証人間の求償権についても消滅時効の中断の効力が生じていると主張して争った。
2
原審は、保証人の主たる債務者に対する求償権と共同保証人間の求償権との間に主従の関係があるとはいえないから、A株式会社に対する求償権の消滅時効の中断事由がある場合であっても、Yに対する求償権について消滅時効の中断の効力が生ずることはないなどとして、Xの請求を棄却した。
これに対し、Xが上告受理の申立てをしたところ、第一小法廷は、上告審として事件を受理した上、判決要旨のとおり判示して、上告を棄却した。
3
共同保証人の1人が自己の負担部分を超えて代位弁済をした場合、当該共同保証人は、主たる債務者に対して求償権(民法459条、462条)を取得するほか、民法465条1項、442条に基づき、他の共同保証人に対しても求償権を取得する。この場合、主たる債務者に対する求償権と共同保証人間の求償権との間に、一方について弁済がされて消滅した限度において他方も消滅するという関係があることは事柄の性質上明らかであるが、主たる債務者に対する求償権の消滅時効の中断事由が生じたときに共同保証人間の求償権の消滅時効が中断するか否かについては、学説上議論された形跡がなく、裁判例も公刊物上は見当たらないようである。
共同保証人間の求償権は、主たる債務者の資力が十分でなく、主たる債務者に対する求償では満足できない場合に、出捐をした保証人だけが損失を負担しなければならなくなっては共同保証人間の公平に反することから(我妻栄『新訂債権総論』(岩波書店、1964)505頁、西村信雄編『注釈民法(11)』(有斐閣、1965)286~287頁〔西村信雄〕、内田貴『民法Ⅲ〔第3版〕』(東京大学出版会、2005)360頁)、共同保証人間の負担を最終的に調整するためのものであると解される(八木良一「判解」判解民平成7年度(上)10頁、野田恵司=横田典子「共同保証人の弁済と求償、代位の要件」佐々木茂美編『民事実務研究Ⅰ』(判例タイムズ社、2005)7頁、佐久間弘道「共同連帯保証人相互の求償と弁済による代位」金法1677号(2003)37~38頁)。そうすると、共同保証人間の求償権が、論旨のいうように主たる債務者に対する求償権の担保という性格を有するものとは解されない(於保不二雄『債権総論〔新版〕』(有斐閣、1972)285~286頁は、主たる債務者に対する求償権と他の共同保証人に対する求償権とは、別に優劣はなく、請求権競合又は不真正連帯的に、自由に選択して行使することができると述べる。林良平ほか『債権総論〔第三版〕』(青林書院、1996)459頁〔高木多喜男〕も同旨)。
4
共同保証人の1人が自己の負担部分を超えて代位弁済をした場合、当該共同保証人は、共同保証人間の求償権を取得するほか、債権者が他の共同保証人に対して有していた保証債権をも取得する。論旨は、この2つの債権が債権者・債務者を同じくするものであることから実質的に同じであり、上記保証債権が、主たる債務者に対する求償権を確保する目的で代位弁済をした共同保証人に移転するものであるから、共同保証人間の求償権も主たる債務者に対する求償権の担保という性格を有する旨をいう。しかし、代位弁済をした共同保証人は、求償権ではなく原債権の担保権として上記保証債権を取得するものであること(最三小判昭和59・5・29民集38巻7号885頁等参照)などに照らし、共同保証人間の求償権と上記保証債権とが実質的に同じであるということはできない。また、代位弁済をした共同保証人は、共同保証人間の求償権の範囲でのみ他の共同保証人に対し保証債権を行使することができるものと解される(八木・前掲9~10頁、15頁(注4)、野田ほか・前掲24~27頁、我妻・前掲262頁、奥田昌道『債権総論〔増補版〕』(悠々社、1992)548頁、佐久間・前掲38~39頁、山田誠一「求償と代位――担保提供者相互間の法律関係-」民商107巻2号(1992)188~189頁。塚原朋一「判解」判解民昭和61年度468~469頁も参照)。したがって、上記保証債権は、これを代位行使することができる範囲が共同保証人間の求償権によって画されるという限度で上記の求償権と関連性を有するとはいえるものの、それ以上に同求償権と実質的に同じであるということはできない。なお、第189回国会に提出された「民法の一部を改正する法律案」においても、改正後の民法501条2項として、保証人の1人が他の保証人に対して債権者に代位する場合には、自己の権利に基づいて当該他の保証人に対して求償をすることができる範囲内に限り、債権者が有していた権利を行使することができる旨の規定が設けられている(その基礎となる考え方については、法制審議会民法(債権関係)部会の第80回会議における部会資料70B・12~15頁参照)。
5
本判決は、以上のような共同保証人間の求償権の制度趣旨等を踏まえ、主たる債務者に対する求償権の消滅時効の中断事由がある場合であっても、共同保証人間の求償権について消滅時効の中断の効力が生ずることはない旨の法理を示したものである。
本判決は、主たる債務者に対する求償権の消滅時効の中断事由が生じた場合に共同保証人間の求償権の消滅時効が中断するか否かという点について、最高裁が初めて判断を示したものであり、実務的に重要な意義を有するものと考えられることから、紹介する次第である。