インドネシア:ベンチャーキャピタル会社に関する金融庁規則
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 福 井 信 雄
2015年12月末に金融庁はベンチャーキャピタル会社に関する規則(2015年第35号)(以下、「金融庁規則35号」という。)を制定・施行した。今回の新規則の施行は、ベンチャーキャピタルによる投融資を活発化させることで特に中小零細企業の資金需要を満たすことを企図するものであると説明されている。外国資本にとっても、いわゆるフィナンシャルインベスターとしてインドネシア国内での投資機会を探る際には利用可能な事業体であることから、本稿においてその概要を紹介したい。
1. ベンチャーキャピタル会社の設立
ベンチャーキャピタル(VC)とは、一般的にはハイリターンを狙ったリスクマネーを供給する投資会社(投資ファンド)を意味し、潜在的に高い成長率を有する未上場企業に対して投資を行い、同時に経営コンサルティング等を行うことで投資先企業の価値向上を図り投資の回収を図る事業体である。インドネシアではベンチャーキャピタル事業は従来から金融業と位置付けられており、監督官庁は投資調整庁ではなく金融庁である。外資規制上、外資の出資比率の上限は85%とされており、外国資本が独資でベンチャーキャピタル事業を行うことは認められていない。外国資本が利用できる株式会社の形態で設立する場合、最低払込資本金は500億ルピア(約4.3億円)と設定されている。(シャリアでのベンチャーキャピタル事業を行う場合の最低払込資本金は200億ルピア(約1.7億円))
ベンチャーキャピタル事業に関する事業許可の取得に際しては、株式会社の法人格を取得後に、金融庁に対して以下の書類を揃えて申請を行うことになる。
- ① 会社の設立証書
- ② 会社の所有者(株主)に関する情報
- ③ 取締役会、コミサリス会の構成員のリスト
- ④ 払込資本金を支払ったことを証する書面
- ⑤ 業務開始の準備が整っていることを証する書面(固定資産その他資産のリスト、事務所を所有又は占有していることを示す書面、納税者登録番号等)
- ⑥ 直近5年間の業務計画
- ⑦ 会社の組織構成図
- ⑧ グッドコーポレートガバナンスに関するガイドライン
金融庁は申請を受けてから30営業日以内に事業許可を発行するか、拒絶するかの判断をしなければならない。事業許可が発行された場合、会社は6ヶ月以内に業務を開始しなければならない。
2. ベンチャーキャピタル会社の事業内容
金融庁規則35号では、ベンチャーキャピタル会社が行う事業として、以下の4類型を規定している。
- a. ベンチャーキャピタル事業(個人、組合(cooperatives)又は中小零細企業に対して投融資を行うこと。
- b. ベンチャーファンドの管理運営
- c. 経営、会計、総務に関するコンサルテーションサービスや金融商品のマーケティング事業を含むフィービジネス
- d. 金融庁が承認するその他の事業
第一に、a.で規定するベンチャーキャピタル事業としての投融資の手段として以下のものを挙げているが、これに限定される趣旨ではなく、実務的には種々の投融資の形態が考えられるであろう。
- (ⅰ) 資本参加
- (ⅱ) 準資本参加(転換権付き社債等による投融資)
- (ⅲ) 手形の引受けを通した資金提供
- (ⅳ) 生産性の高い事業に向けた資金提供
b.やc.もベンチャーキャピタル会社が通常想定している事業内容であるが、これら以外の業務を行う場合には、事前に金融庁の承認を取得しなければならない。これについては金融庁の裁量判断に委ねられるところであり、具体的に可能な業務は今後の実務を通じて明らかになっていくものと思われる。
以 上