タイ:規制業種の緩和
~グループ会社へのサービス提供~
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 奥 村 友 宏
タイにおいては、外国人事業法により、「外国人」による一定の事業が制限されている。2018年6月に、グループ会社への一部のサービスがこの外国人事業法の規制から除外されることの報道がなされるなど、グループ会社を対象としたサービスの提供の規制緩和の議論が活発化していた。そして、2019年6月25日に施行された商務省令において、グループ会社への一部のサービス提供が除外されることとなった。今回は、その商務省令について、紹介したい。
1. タイの外国人事業法上の規制の概要
タイにおいて、外国人事業法上の「外国人」に該当する場合、外国人事業法のリスト1から3までに記載の規制業種に従事することが制限される。リスト3に記載された事業のうち、「その他のサービス」は広範に解釈されており、いわゆるグループ会社間におけるバックオフィス業務の提供等も、「その他のサービス」に含まれることと解釈され、外国人による事業が制限されている。
2. 新商務省令の内容
2019年6月25日に外国人事業法の規制業種に関する新たな商務省令(Ministerial Regulation re: Prescribing Service Businesses Which Do Not Require a Foreign Business License (Vol.4) B.E. 2562 (2019)、以下、「新商務省令」という。)が施行された。新商務省令により、規制対象業種リスト3から、グループ会社又は関連会社に対する以下の事業が除外されることとされた。
- ① タイ国内の金銭貸付業務
- ② 場所・施設の賃貸業務
- ③ 経営、マーケティング、人事及びITに関するアドバイザリー業務
なお、新商務省令におけるグループ会社又は関連会社とは、以下の関係を有する場合を意味するとされている。
- (ⅰ) ある一つの法人の株主又は組合員の数の過半数以上が、他の法人の株主又は組合員の過半数以上を構成する場合
- (ⅱ) ある法人の資本の全体の価値の25%以上を保有する株主又は組合員が、他の法人の資本の全体の価値の25%以上を保有する株主又は組合員である場合
- (ⅲ) 法人が、ある法人の資本の全体の価値の25%以上を保有する株主又は組合員である場合
- (ⅳ) ある法人の経営権を有する取締役又は組合員の数の過半数が、他の法人の経営権を有する取締役又は組合員の数の過半数である場合
一定割合の直接の資本関係を有する場合や兄弟会社は、このグループ会社又は関連会社の定義に該当することとなるが、間接的な関係(例えば、孫会社)の場合には、この定義に該当しない点は要注意である。
3. 新商務省令による影響
このグループ会社への一部のサービスが外国人事業法の規制から除外されることに関しては、2018年6月に報道されて以降、タイ国内において注目がなされているものであった。上記のとおり、「その他のサービス」の意味は広範に解釈されているため、新商務省令の施行以前においては、例えば、タイ国内におけるグループ会社間の貸し付けを行うような場合であっても、貸付を行う会社が外国人にその株式の50%を保有されているという場合(外国人事業法上の「外国人」に該当する場合)には、原則として商務省事業開発局長から許可(Foreign Business License、以下、「FBL」という。)の取得が必要であった。外国人事業法のリスト3記載の業務に関するFBLの発行については当局が広範な裁量を有しているが、実務上グループ会社間のサービス提供の場合には取得できる可能性がある。しかしながら、FBLの取得の可能性があるグループ会社間のサービスの提供の場合であっても、(a)特定の会社に対するサービスのみ許可される等、そのサービス内容に限定が付される場合があること、(b)FBLの申請準備から取得まで期間を要すること、(c)FBLを取得する場合、3百万バーツ(又は3年間の平均年間経費の25%の提供の場合でいずれか高い方)の資本金又は増資が必要となること、(d)負債比率を7倍以内に維持する必要があること等、様々な制約もある。そのため、今回の新商務省令の施行により、グループ会社への上記サービスの提供がFBLを取得せずに行うことができるようになったことは、今後の実務に影響を与えるものと考えられる。
なお、グループ会社に対する一部の事業が外国人事業法の規制業種から除外されたものの、除外された事業は一定の限定(貸付は「タイ国内」、グループ会社に孫会社は含まれない)が付されたものであるため、具体的にどのような場面であれば、FBLの取得が不要なのかという点については、さらに検討を要する。実際に新商務省令により除外された事業を実行する場合には、実務上の取り扱いを確認する等、慎重な検討が必要であろう。