◇SH0721◇ペルーにおける紛争解決手段 ~ペルー進出企業が知っておくべき司法制度の概要~ 齋藤 梓(2016/07/04)

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ペルーにおける紛争解決手段

~ペルー進出企業が知っておくべき司法制度の概要~

西村あさひ法律事務所

弁護士 齋 藤   梓

 

 多様な鉱物資源に恵まれたペルーは、日本にとって従来から主要な鉱産物供給国である。「経済上の連携に関する日本国とペルー共和国との間の協定」(日・ペルー経済連携協定(EPA))は、我が国が中南米ではメキシコ、チリに次いで3番目、全世界では13番目に締結した協定であり、2012年3月に発効した。近年日本においてその重要性がますます高まってきているペルーの司法制度について、以下概観する。

 

1.  ペルーの裁判所制度

 ペルーの裁判所は、最高裁判所、高等裁判所、一審裁判所(専門裁判所)、治安裁判所の4段階から構成される(治安裁判所には、事案及び係争額に応じて、法曹資格を有する裁判官による場合と、かかる資格を有しない市民裁判官による場合があり、これらを区別して5段階と説明することもある。下図参照。)。基本的には3審制が保障されており、陪審員による裁判は採用されていない。なお、ペルーでは、民事訴訟(商事事件を含む)を提起する前に調停による解決を試みなければならず、司法府により資格を与えられた専門家である調停員(ないし治安裁判官)により、提訴前の調停手続が執り行われる。

[ペルーの裁判制度概要]

 

2.  ペルーの司法制度の問題点

 2012年度の市民を対象とする調査によると、ペルーの司法機関は最も腐敗した機関の一つとしてとして認識されているとの結果を示した。世界経済フォーラムの国際競争力レポート(2014-2015)によると、ペルーの司法機関の独立(政府、市民または企業の構成員による影響からの独立性)のスコアは144カ国中124位でスコアは2.5(重篤な影響を受けている=1~完全に独立=7)と著しく低く、今回取り上げた中南米諸国の中でも最下位であった(チリ:27位/144カ国・5.2点/7点、ブラジル:76位/144カ国・3.6点/7点、メキシコ:98位/144カ国・3.2点/7点、コロンビア:112位/144カ国・2.8点/7点)[i]。米国務省の調査結果[ii]によると、経済界のペルーの司法制度に対する信頼は低く、個々の裁判官の能力は区々であり、腐敗、政治的介入等外部からの司法権に対する介入が日常化しており、外国投資家もこれらの司法府の腐敗等により直接の不利益を受けていると報告されている。また、裁判所の審理を受けて判決を得るまでに長期間を要し、訴訟遅延策として上訴手続が濫用されることもしばしば見受けられ、裁判所の判決及び執行手続については予測可能性が担保されておらず、手続が非効率的であるという意見も出されている。そこで、2004年に投資紛争について判断をする2つの控訴裁判所を含む商事裁判所(commercial court)が設けられ、商事裁判所(特に控訴審の段階)における専門裁判官により、当該商事裁判所に限っては審理期間を大幅に短縮することに成功しているとも報告されている。

 

3.  裁判外紛争解決制度

(1) 商事仲裁

 ペルーでは、ビジネス上の紛争に関しては、訴訟手続によることを避けて仲裁により解決される事案が増えている。ペルーの仲裁法は、2008年にUNCITRALモデル法に準拠して制定された近代的な仲裁法である。同仲裁法は、国際仲裁と国内仲裁を区別して、その双方について規律する。国際仲裁とは、①仲裁合意の当事者が、その合意時に異なる国に営業所を有する場合、②仲裁合意で定められているか、仲裁合意によって定まる仲裁地が当事者が営業所を有する国の外にある場合、あるいは、③商事関係の義務の実質的な部分が履行されるべき地、もしくは紛争の対象事項と最も密接に関連を有する地が、当事者が営業所を有する国の外にある場合のいずれかに当たる場合をいうものと規定される。

 ペルー仲裁法は、当事者による別途の定めがない限り、国内仲裁・国際仲裁を問わず、仲裁人の国籍は要件とならない。同様に、国内仲裁・国際仲裁を問わず、外国弁護士による仲裁手続の代理を認めている。

 ペルーは1988年にニューヨーク条約を批准しており、1993年にはICSID条約も発効している。2008年の仲裁法が施行されて以降、ペルー経済の発展にも伴って、仲裁件数、その請求金額の規模ともに増加の一途をたどっており、裁判所による親仲裁的な態度も相まって、ペルーでは仲裁手続の利用が広く浸透してきている。

(2) 投資仲裁

 ペルーの1993年憲法は、外国投資家と国家ないし国営企業の間の紛争について、国際仲裁により解決することを許容した。それ以前は、ペルー政府は仲裁事件を裁判所に控訴し、相手方の外国企業が和解をするまで、手続を遅延するという策を採っていたと報告されている。さらに、ペルーの最高裁判所は、2005年7月に、全ての仲裁判断は終局的なものであり控訴できないものと判示し、親仲裁的な立場を明示するに至った。

 日本とペルーの間では、2009年に投資協定が締結され(2008年11月署名、2009年12月発効)、さらに、2012年に経済連携協定が結ばれた(2011年5月署名、2012年3月発効)。ペルーはTPP参加国であり、日本とペルーの間で、今後もより一層の経済連携が進むと考えられる。ペルーの司法制度が抱える問題点はなお多いものの、投資仲裁という手段によって、公正かつ迅速に紛争を解決することがますます期待されるところである。

以 上

 


[ii]       http://www.state.gov/documents/organization/241914.pdf

 

(注)本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。

 

 

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