◇SH0922◇メキシコの不動産制度とエネルギー事業のための活用手法(1) 松平定之/フェリックス・ポンセ・ナバ・コルテス(2016/12/12)

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メキシコの不動産制度とエネルギー事業(石油ガス・電力)のための活用手法(1)

弁護士・ニューヨーク州弁護士 松 平 定 之

メキシコ弁護士 フェリックス・ポンセ・ノバ・コルテス

 

1 はじめに

 メキシコでは、2013年12月に憲法改正が行われ、民間事業者が同国のエネルギー産業における様々な活動に参加することが可能となった(憲法25条、27条及び28条の改正)。

 この憲法改正以前は、石油ガス事業について、国有の石油公社であるPEMEX(Petróleos Mexicanos)が独占し、民間事業者は、PEMEXから業務の委託を受けることは可能であったが、石油ガスの生産活動から得られる生産物や利益の共有を受けることは認められていなかった。また、電力事業についても、国営のCFE(Comision Federal de Electricidad)が独占し、民間事業者は、CFEの入札への参加を通じて発電事業への参入が限定的に認められるのみで、送配電・小売への参加は認められていなかった。

 憲法改正により、石油ガス事業については、民間事業者は、サービス契約、利益分配契約、生産物分配契約又はライセンス契約を通じて、石油ガスの商業生産に参加することが認められることとなった[1]。また、電力事業についても、民間事業者は、発電事業への参入が原則として自由になり、大口需要家向けの小売供給への参入も認められ、また、送配電事業についてもCFEとの契約を通じて限定的な参加が認められることとなった[2]

 このメキシコにおけるエネルギー市場の開放により、民間事業者にとって、自らの事業の実施に必要となる土地の利用権の確保の必要性が一層高まっている。例えば、石油ガス事業におけるパイプラインや、電力事業における発電設備・電源線の敷設のための土地の利用権の確保である。2014年8月に制定された炭化水素法(LH)及び電力事業法(LIE)には、エネルギー事業に関する許認可等を取得した民間事業者の義務に関する規定とともに、土地の利用に関する規定が設けられている[3]

 本稿では、民間事業者が自らのエネルギー事業(石油ガス・電力)のために第三者の土地を利用するための制度的手法の概要を論ずる。

2 メキシコの不動産制度の概要

 メキシコにおいて、公有地以外の土地は基本的に3つのカテゴリーに分かれる。具体的には、①私有地、②エヒード(ejido)及び③共同体不動産である。①私有地は不動産登記簿への登記対象となるのに対し、②エヒードと③共同体不動産は国家農地登記簿(Registro Agrario Nacional)の登記対象となる。それぞれのカテゴリーの特徴は次の通りである。

  1. ① 私有地
     個人又は法人によってその使用のために所有される土地である。私有地に関する権利は、自由に譲渡、担保設定その他の処分を行うことが可能である。権利の譲渡等については不動産登記簿に登記される。
  2. ② エヒード
     エヒードは、集落その他の共同体によって保有される土地であり、歴史的に農業のために設定されたものである。
     通常、エヒードには3種類の土地がある。共同利用のための土地、居住利用の土地及び区分土地である。共同利用のための土地及び居住利用の土地については、共同体の通常の活動のためのものであることから、譲渡、担保設定その他の処分は認められていない。これに対して、区分土地は、エヒードの構成員の利用のために区分された土地である。そのため、区分土地は譲渡可能であるが、共同体総会の承認等の手続きを要する。
     また、エヒードが設定される(複数のエヒードが統合される場合を含む)際に、エヒードの構成員にsolares(共同利用のための土地が個人所有に変更されたもの)が付与されることがある。solaresはエヒードの一部ではあるが、共同体総会の承認なく、構成員個人の判断により第三者へ譲渡可能である。
     一方、エヒードから分離された土地については、不動産登記簿に登記される必要がある。
     組織としてのエヒードは、3つの機関からなる。共同体総会、エヒード委員会及び監視委員会である。エヒードの最高意思決定機関はエヒードの構成員(ejidatarios)の全員から成る共同体総会である。共同体総会の決議は、原則として構成員の過半数が出席し、出席者の過半数の賛成を要する。但し、上記3つの各カテゴリーの土地の区割りの変更や、エヒードの分割・統合などの重要な案件については、構成員の4分の3以上が出席し、出席者の3分の2以上の賛成が必要となる。エヒード委員会はエヒードの法的な代表であり、共同体総会の招集を含む執行機能を有する。監視委員会はエヒード委員会の活動を監視する役割を有する。
  3. ③ 共同体不動産
     共同体不動産は、エヒードと同様の性質を有する土地であるが、エヒードと異なり構成員のために区分土地が配分されることはない。すなわち、共同体不動産は、共同利用のためにのみ存在する。共同体不動産は、譲渡等の処分の対象とすることができず、また、国家農地登記簿に登記される。共同体不動産の譲渡その他の処分のためには共同体総会の承認等の手続きを要する。

 2015年に行われた調査[4]によれば、②エヒードと③共同体不動産の広さの合計は約1億500万ヘクタールにのぼり、メキシコ全土の約52%を占めている。そのため、エネルギー関連のプロジェクトを円滑に実施するためには、エヒード及び共同体不動産の利用に関する規制の内容が重要となる。

(つづく)

 

(注)本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地弁護士の適切な助言を求めていただく必要があります。また、本稿記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。

 


[2]  詳細については、松平定之「メキシコの電力事業規制の改革」(西村あさひ法律事務所・中南米ニューズレター2015年4月号)参照。

[3]  LHの100条から117条、LIEの71条から89条。

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