タイ:外国人事業法改正に関する法制審議・最新情報
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 箕 輪 俊 介
タイにて事業を行うにあたり必ずといっていいほど問題となる法規制が外資規制であり、その外資規制を規律する重要な法令の1つが外国人事業法(Foreign Business Act B.E. 2542(1999))である。この外資規制がどのように変更されるかは常に注目される。そして、先日、外国人事業法の一部改正案が7月12日の閣議で承認された。本改正案はまだ国家立法議会(クーデター政権下における国会に代わる立法機関)による審議を経ていないため、今後変更が加えられる可能性はあるものの、近時の外資規制緩和の流れを組むものとして、いくつか重要な論点が含まれているので、本稿にて紹介したい。
駐在員事務所及び地域事務所に関する規制の緩和
現行の法制度では、駐在員事務所や地域事務所は、業務開始に先立ち、商務省事業開発局長から外国人事業許可を受ける必要がある。今回の改正案では、これらについては外資規制の対象外とし、外国人事業許可を受けることなく業務を行うことができるよう提案されている。これは、外資規制の趣旨のひとつとして内国産業の保護があるところ、駐在員事務所や地域事務所の活動はタイ国内で収益を上げる活動ではないため内国産業と競合せず、外資規制の対象とする必要がないためと考えられる。
政府系プロジェクトに関する規制の緩和
現行の法制度では、国家的な入札案件に応札し、政府系プロジェクトを請け負う場合も、当該事業がサービス事業等の外資規制対象業務である限り、外国資本の参入は制限される。今回の改正案では、政府を当事者とする契約に関する事業や国営会社を当事者とする契約に関する事業(主に国家的インフラプロジェクトを想定)については、外資規制の対象外とし、外国人事業許可を受けることなく業務を行うことができるようにすることが提案されている。これは、国家的な入札案件等については外国資本がタイ資本と公平に競争できる環境を整え、より良質なインフラプロジェクトを推進できるようにすべきとの考えに基づくものと考えられる。
銀行業に対する規制緩和
現行法制上、「商業銀行業」自体は、外資規制の対象となる「その他のサービス」から除外されている。この「商業銀行業」は、預金を預かり、貸付等を行う、いわゆる伝統的な銀行業務を意味する。しかしながら、現在の国際的な銀行・金融機関が行っている業務はこれに留まらず、アセットマネジメント業務やアドバイザリー業務等も含まれる。かかる業務は現行法上外資規制の対象となる「その他のサービス」に該当し得るため、外資系の銀行が行うための支障となり得る。
現在の銀行は、そのビジネスモデルが複雑化しており、必ずしも伝統的な「銀行業」が主たる収益源とはならない。そこで、外国人事業許可を受けることなく伝統的な銀行業以外の関連業務を行うことができるようにするために、アセットマネジメント業務やファクタリング業務等を外資規制の対象から除外することが提案されている。