ベトナム:労働契約における保険料負担についての記載方法
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 澤 山 啓 伍
ベトナムでは、労働契約において社会保険等の強制保険に関する規定を設けることが必要とされている。これについて、具体的にどう記載すればいいのか、というご質問を最近よくお受けする。この点、以前は「適用法令に従う」とのみ書けば足りると考えられていたが、現行法令に基づくと、そのような記載では要件を満たさず、違法だと判断されるリスクがある。以下詳しくご紹介する。
2013年に施行された現行の労働法第23条1項(i)号は、労働契約に記載すべき事項(必要的記載事項)として、「社会保険」及び「医療保険」を挙げている。他方、労働法の施行細則を定める政令第05/2015/ND-CP号(「政令5号」)第4条9項においては、「社会保険」及び「医療保険」に加えて「失業保険」についても労働契約の必要的記載事項であるとし、さらに、①法令に基づき雇用者及び従業員が負担すべき各保険の保険料の月給に対する負担率、並びに②雇用者及び従業員による保険料の支払方法及び支払期間についても明記する必要があると定められている。
政令5号の施行前は、実務上多くの企業において、労働契約における保険に関する条項は、単に「適用法令に従う」と規定していることがよく見受けられた。当時の法令においては、それで足りるものと考えられていたが、政令5号の施行後は、その規定に従えば、労働契約には、現行の社会保険法、医療保険法及び職業法に定められた以下の保険料率を記載する必要があると考えられる。
保険料率 | 労働者 | 雇用者 |
社会保険 | 8% | 18% |
医療保険 | 1.5% | 3% |
失業保険 | 1% | 1% |
なお、2016年5月15日に公布された政令37/2016/ND-CP号には労災・職業病保険に関する保険料として雇用者が1%を負担するという規定があるが、これは社会保険料の負担率18%に含まれるものである。
社会保険等の保険料率は、これまでのところ2、3年に一度変更されてきた。今後法改正により保険料率が変更された場合に、都度労働契約を修正する必要があるのか、というご質問も多く受ける。これについては、法的に厳密に考えれば、その必要があると言わざるを得ない。
確かに、製造業企業の場合、数百から万単位の数の従業員との労働契約を全て修正するためには相当な時間と労力を要し、現実的ではない場合も多いだろうと思われる。しかし、政令第88/2015/ND-CP号による改正後の政令第95/2013/ND-CP号に基づき、雇用者が労働契約の必要的記載事項を十分に規定せずに労働契約を締結した場合、最大4千万ドンの過料を科せられることになっている。社会保険、医療保険及び失業保険の保険料率を明記しないことはこれに該当することになる。
現実的な対策としては、賃金改定のために労働契約の変更契約を締結する際に、併せてこの点についてもその時点の適用法令に即した内容に修正すること等が考えられる。