ブラジル税務の基礎 (2)
西村あさひ法律事務所
弁護士 清 水 誠
3 ブラジルにおける主要な社会負担金
ブラジルにおいては、租税に加えて、国民の年金や弱者救済等の原資とすることを目的として様々な社会負担金が課される。その主要なものは以下のとおりである。
(1) 法人所得に対する社会負担金(CSLL)
ブラジル企業の課税対象所得に対しては、IRPJに加え、CSLLが課される。CSLLは社会保障の原資となる。
CSLLにおける課税対象所得の算定方法は、IRPJにおいて選択されたものと同じものを用いなければならない。現在のCSLLの賦課率は、原則として9%であり、金融機関、保険会社等については20%(2019年1月1日に15%に戻される予定)である。CSLLの金額は、IRPJの課税標準である帳簿上の課税対象所得の計算上、控除可能な費用にはならない。
(2) 社会統合計画分担金(PIS)及び社会保障融資負担金(COFINS)
PIS[1]及びCOFINS(社会保障等の原資となる。)は、①ブラジル企業の収益並びに②製品の輸入及び非居住者が提供されるサービスに対して支払う対価に対して課されるものである。但し、輸出取引その他一定の取引による収益は賦課標準から除外される。
収益に対するPIS及びCOFINSの算定方法には累積方式と非累積方式が存在し、前者はIRPJ及びCSLLの課税対象所得の算定方法について推定利益方式を選択した企業及び金融機関その他一定の企業に対し適用され(但し、金融機関等については一定の特則が存在する。)、後者はIRPJ及びCSLLの課税対象所得の算定方法について実質利益方式を選択した企業に対し適用される。累積方式においては収益の額が賦課標準となり、非累積賦課方式においては法令上のルールに基づき算出される付加価値のみが賦課標準となる。COFINSの賦課率は、累積方式の場合3%(金融機関については4%)、非累積方式の場合7.6%である。PISの賦課率は、累積方式の場合0.65%、非累積方式の場合1.65%である。なお、金融取引に基づく収益に対するPIS及びCOFINSの賦課率は一定の例外を除き0%とされていたが、2015年7月から非累積方式が適用される企業については0.65%のPIS及び4%のCOFINSが課されることとなった。
輸入取引に対するPIS及びCOFINSの賦課率は、それぞれ2.1%及び9.65%である。
(3) 特別財源負担金(CIDE)
CIDEには、国産技術開発促進負担金及び燃料負担金が存在する。国産技術開発促進負担金は、著作権、商標権及び特許権に対するロイヤリティ、技術提供、技術支援、管理部門支援などの支払いに関する外国送金について、ブラジル企業に対し、国外に対して支払われる金額に対して最大10%の賦課率で課されるものである。燃料負担金は、石油・ガス関連製品の輸入及び国内販売に対し課されるものである。
(4) 社会保険院(INSS)に対する社会負担金
INSSに対する社会負担金は、雇用主及び労働者の双方が負担するものである。雇用主に対しては、労働者に対する支払給与額の20%(一定の業種については上乗せがある。)が課せられるほか、様々な名目の社会負担金が課せられ、雇用主に対する総賦課率は、労働者に対する支払給与額に対し25.5%から30.8%程度となる。
4 投資インセンティブ
企業又はその株主は、一定の場合に政府機関から税務上のインセンティブを受けることができる。これらのインセンティブは、補助金付き融資、税額控除及び関税の免除(その内容は随時変更され得る。)からなる。これらのインセンティブの多くは、ブラジル人/企業によって支配されているか、外資に支配されているかにかかわらず適用されるが、一部のインセンティブはブラジル人/企業に支配されている企業に対してのみ適用される。これらのインセンティブは、ブラジル国内における一定の地域の経済発展の促進、又は一定の経済活動に対する投資の誘導を目的として設定されたものである。
投資計画は、管轄する当局により、ケース・バイ・ケースで承認される。当該投資計画に対する政府の相当程度の関与が承認の条件とされることも一般的である。
インセンティブは、一定期間における所得税その他の間接税の減免、政府開発銀行による補助金付き融資及び輸入資本財の非課税措置又は関税率の大幅な低減を含む。
近時、政府当局は投資インセンティブの再評価及び追加研究を行っている。これにより、将来のインセンティブは、より発展途上の地域及びブラジルの経済発展に寄与する経済活動を対象としたものになると考えられる。
5 マナウス・フリーゾーン(ZFM)
ZFMは、1957年6月6日法令第3173号及び1967年2月28日命令第288号により創設され規律されている。ZFMは、ZFM監督庁により管理されている。
ZFMは、輸入自由取引地域であり、特別な税務上のインセンティブが提供されている。ZFMは、アマゾン地域における工業、貿易及び農業の中心であり、ZFMがアマゾン地域における経済状況を救済するとともに生産地と消費地のギャップを埋める役割を果たすことで、アマゾンの発展に寄与するものと考えられている。
6 移転価格税制
ブラジルにおける移転価格税制は、経済協力開発機構(OECD)モデルに準拠したものではないことから、他国の移転価格税制とは異なる点が多く存在する。そのため、ブラジルにおいて事業展開を行う日本企業は自社の移転価格に関する「グローバル・ルール」を適用するのではなく、ブラジルの移転価格税制を十分に踏まえた対応をする必要がある。
7 REFIS
ブラジルにおいては、支払いが滞っている租税債務など、連邦もしくは州政府に対する債務の「リファイナンス」のためのREFISと呼ばれる恩典プログラムが講じられる場合がある。これは、政府に対する債務の分割払い、未払いによる罰金や遅延利息について一定の減免を認めるものである。本稿執筆時点において有効なREFISは存在しないが、未払い租税債務などを有する企業はREFISの実施状況を定期的に確認するべきである。
(注)本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。