ブラジル税務の基礎(1)
西村あさひ法律事務所
弁護士 清 水 誠
1 はじめに
ブラジルの税制は、非常に複雑であること及び実質的な税務負担が大きいことで知られている。すなわち、PwCなどの調査[1]によれば、ブラジルにおける企業に対する総税率(税引前利益に対する税負担の割合)は69.2%(日本は51.3%である。)と、G7及びBRICs諸国の中で最高水準にある。また、ブラジルにおいて企業が税務処理に要する時間は2600時間であり(日本は330時間である。)、調査対象である189の国と地域の中で最も長い[2]。これらの事実からも示唆されるように、ブラジルの税務は、ブラジルにおいて事業活動を行う企業にとって大きな負担となっており、労働者保護的色彩の強い労働法制や治安の問題等と併せ、しばしば「ブラジル・コスト」と言われている。
ブラジルにおける租税及び租税に準じた社会負担金の種類は多岐に亘るため、本稿では、法人に対して課されるもののうち特に重要なものについてのみ解説する。
2 ブラジルにおける主要な租税
⑴ 法人所得税(IRPJ)
IRPJは、法人所得に対して課される連邦税であり、原則として、各事業年度の課税対象所得に対し15%の税率で課される。また、課税対象所得中四半期ごと6万レアルを超える部分については、さらに10%の付加税が課される。これに加え、後述のとおり、法人所得に対して課される租税・社会負担金として後述の法人所得に対する社会負担金(CSLL)が存在するため、法人所得に対して課される租税・社会負担金の率は合計34%(金融機関等については45%)となる。
課税対象所得の算定方法は、原則として実質利益方式が用いられるが、最終事業年度における収益の金額が78百万レアル(又は稼働月数に6.5百万レアルを乗じた金額)以下である企業(金融機関を除く。)は推定利益方式を選択することもできる。実質利益方式においては、年ごと又は四半期ごとに算出される帳簿上の課税対象所得が課税標準となる。帳簿上の課税対象所得とは、企業の帳簿上の純利益に対し、法令に従い、加算、控除及び減算の調整を行ったものであり、原則として企業の収益から費用を減算する方法で算出される。但し、費用は、その性質及び金額により、必ずしも全額が減算対象となるわけではない。また一定の項目は、企業の帳簿上の課税対象所得の算定上非課税とされる。繰越欠損金は期限の制限なく繰り越すことができる。但し、繰越欠損金により収益を相殺できる範囲は、各事業年度について課税対象収益の30%までである。また、営業損失は営業利益に対してのみ相殺することができる。他方で、推定利益方式においては、四半期ごとの収益に一定割合(業種により異なる。)を乗じた金額が課税標準となる。
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