◇SH0812◇ブラジル税務の基礎(1) 清水 誠(2016/09/26)

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ブラジル税務の基礎 (1)

西村あさひ法律事務所

弁護士 清 水   誠

 

1  はじめに

 ブラジルの税制は、非常に複雑であること及び実質的な税務負担が大きいことで知られている。すなわち、PwCなどの調査[1]によれば、ブラジルにおける企業に対する総税率(税引前利益に対する税負担の割合)は69.2%(日本は51.3%である。)と、G7及びBRICs諸国の中で最高水準にある。また、ブラジルにおいて企業が税務処理に要する時間は2600時間であり(日本は330時間である。)、調査対象である189の国と地域の中で最も長い[2]。これらの事実からも示唆されるように、ブラジルの税務は、ブラジルにおいて事業活動を行う企業にとって大きな負担となっており、労働者保護的色彩の強い労働法制や治安の問題等と併せ、しばしば「ブラジル・コスト」と言われている。

 ブラジルにおける租税及び租税に準じた社会負担金の種類は多岐に亘るため、本稿では、法人に対して課されるもののうち特に重要なものについてのみ解説する。

 

2  ブラジルにおける主要な租税

(1) 法人所得税(IRPJ)

 IRPJは、法人所得に対して課される連邦税であり、原則として、各事業年度の課税対象所得に対し15%の税率で課される。また、課税対象所得中四半期ごと6万レアルを超える部分については、さらに10%の付加税が課される。これに加え、後述のとおり、法人所得に対して課される租税・社会負担金として後述の法人所得に対する社会負担金(CSLL)が存在するため、法人所得に対して課される租税・社会負担金の率は合計34%(金融機関等については45%)となる。

 課税対象所得の算定方法は、原則として実質利益方式が用いられるが、最終事業年度における収益の金額が78百万レアル(又は稼働月数に6.5百万レアルを乗じた金額)以下である企業(金融機関を除く。)は推定利益方式を選択することもできる。実質利益方式においては、年ごと又は四半期ごとに算出される帳簿上の課税対象所得が課税標準となる。帳簿上の課税対象所得とは、企業の帳簿上の純利益に対し、法令に従い、加算、控除及び減算の調整を行ったものであり、原則として企業の収益から費用を減算する方法で算出される。但し、費用は、その性質及び金額により、必ずしも全額が減算対象となるわけではない。また一定の項目は、企業の帳簿上の課税対象所得の算定上非課税とされる。繰越欠損金は期限の制限なく繰り越すことができる。但し、繰越欠損金により収益を相殺できる範囲は、各事業年度について課税対象収益の30%までである。また、営業損失は営業利益に対してのみ相殺することができる。他方で、推定利益方式においては、四半期ごとの収益に一定割合(業種により異なる。)を乗じた金額が課税標準となる。

 ブラジル法上、IRPJについては全世界所得課税が採用されている。

 以上の税務上の取扱いは、外国企業のブラジルにおける支店に対しても適用される。かかる支店における所得はみなし所得とされ、当該金額が外国に送金されるか否かにかかわらず当該企業の所得と見なされる。また、企業に対する上記の税務上の取扱いは、当該企業がブラジルの個人・企業によって支配されているか、又は外資に支配されているかにかかわらず適用される。

(2) 外国法人に対する源泉所得税

 ブラジルを源泉として外国法人が稼得する配当、利子、ロイヤリティ、役務対価、キャピタルゲイン等の所得については、15%(税務上の恩典を提供している地域[3]に所在する外国法人に対する支払については25%)の源泉所得税が課される(一定の例外あり。)。

 但し、同税率は、日伯租税条約により、日本企業に対しては原則として12.5%(不動産及び一定の動産以外の財産の譲渡により得られたキャピタルゲインについては非課税である。)に軽減されている。

(3) 売上税

 製品及びサービスについての売上税として、取引の性質に応じ、連邦税である工業製品税(IPI)及び州税である商品流通サービス税(ICMS)の2種類が存在する。

 IPIは、製品の国内生産及び外国製品の輸入について、それぞれ製造業者及び輸入業者に対して課される連邦税である。IPIは、非累積的な付加価値税であり、原料、仕掛品及び包装材に関して支払われたIPI相当額は、税額控除の対象となる。

 IPIの税率は製品によって異なる。たばこ、酒、化粧品などの嗜好品に対してはより高い税率が適用される。

 ICMSは製品の販売、州間又は市間の輸送サービス及びコミュニケーションサービスに対して課される州税であり、非累積的な付加価値税である。ICMSの税率は州によって異なり、各州はしばしば投資誘致のため税務上の恩典を設けている。

(4) サービス税(ISS)

 ISSは、ICMSの対象とならないサービスに対して課される市税であり、課税対象及び税率(サービスの対価に対し2%から5%)は市ごとに異なる。

 外国のサービス提供者に対しISSを直接課すことができない場合、サービスの受領者がISSの支払義務を負う。

(5) 輸入税(II)

 IIは、製品の輸入に対して課される連邦税であり、税関手続において徴収される。IIの金額は、CIF価格、つまり、製品価格+保険料+輸送費に製品の分類及び輸出地に応じて決定される一定の税率を乗じて算出される。IIの金額は税額控除の対象とならないため、IIは実質的に輸入コストの増加要因となる。

 輸入取引に関しては、社会統合計画(PIS)、社会保障融資負担金(COFINS)、商品流通サービス税(ICMS)及び工業製品税(IPI)も課され得る。

(6) 輸出税(IE)

 ブラジルには輸出に係る連邦税としてIEも存在するが、本稿執筆時点において、その税率はほとんどの製品について0%である。

(7) 金融取引税(IOF)

 IOFは、以下の取引に対して課される連邦税である。

  1. •  金融機関による信用取引
  2. •  与信に関する助言、市場調査、与信管理、リスク選別、売掛金及び買掛金の管理又はファクタリングに伴うサービスを継続的に行う企業による信用取引
  3. •  企業間貸付け又は企業と個人の間の貸付け
  4. •  為替取引
  5. •  保険会社による保険取引
  6. •  債券取引
  7. •  金融資産又は取引通貨としての金の取引

 IOFの税率は取引の性質により異なり、また市場環境などに応じて増減されることがある。

(8) その他

 以上のほか、都市不動産所有税(IPTU)、農地所有税(ITR)、相続・贈与税(ITCBD)、不動産譲渡税(ITBI)等が存在する。

 

(注)本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。



[2]  総税率及び税務処理に要する時間の前提や算定根拠等については、前掲注[1]の資料参照。

[3]  課税所得が認識されない又は最大税率が20%未満である地域や情報開示に一定の制限がある地域。

 

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