◇SH0945◇メキシコの企業結合規制 根立隆史(2016/12/26)

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メキシコの企業結合規制

西村あさひ法律事務所

弁護士 根 立 隆 史

 

1 根拠法

 メキシコ企業結合規制の根拠法は、連邦競争法(The Federal Economic Competition Law)である。

 

2 執行機関

 メキシコの企業結合の執行機関としては、連邦競争委員会(The Federal Economic Competition Commission)と連邦電気通信機関(The Federal Institute of Telecommunications)の2つが存在する。

 連邦電気通信機関が電気通信及び放送分野における企業結合審査を担当し、連邦競争委員会がそれ以外の分野についての企業結合審査を担当するという役割分担がなされている。

 

3 届出の対象

 「企業結合」(concentration)が生じる場合にクロージング前の届出が義務とされるところ、連邦競争法第61条によれば、「企業結合」とは、「合併、支配権の取得その他の企業等が競争事業者等と合体する一切の行為」と極めて広く定義されており、「企業結合」が届出基準を満たす限り、すべて届出対象とされる(第61条)。

 なお、ジョイント・ベンチャー(JV)の組成については法令上明確には「企業結合」に該当する旨の規定はないものの、JVの組成も「企業結合」に該当するとするのが実務上の取扱いである。

 

4 届出基準(第86条1項~第3項)

 以下の3つのいずれかに該当する場合に届出義務がある。

  1.  •  メキシコにおいて生じる対象取引の価値がメキシコシティの最低1日賃金(MGDW)の1800万倍(1,314,720,000メキシコペソ)超
  2.  •  MGDWの1800万倍(1,314,720,000メキシコペソ)超のメキシコ所在の資産又はメキシコへの売上を有する当事会社の資産又は株式の35%以上の取得
  3.  •  2つ以上の当事会社が単独又は合算で、MGDWの4800万倍(3,505,920,000メキシコペソ)超のメキシコ資産又は売上を有しており、かつ、MGDWの840万倍(613,536,000メキシコペソ)超のメキシコ所在の資産又は払込資本(paid-in-capital)を取得する場合

 なお、総資産や売上については、当事会社の直近年度の数値で判断される。また、当事会社単体の数値ではなく、当事会社グループに属する会社すべての数値を合算して判断される点に留意が必要である。

 

5 少数出資(Minority Interest)の取扱い

 当事会社が少数出資を取得するに過ぎない場合であっても届出基準を満たせば届出が必要とされる。

 

6 外国企業同士の企業結合

 メキシコ国内で設立された企業同士の買収ではなく、メキシコ外で設立された企業同士の企業結合であっても、届出基準を満たす限り、届出が必要とされる。

 

7 届出免除

 企業結合が届出基準に該当する場合であっても、一定の場合には届出義務が免除されている場合がある。例えば、企業結合に参加する当事会社のいずれも同一の企業結合グループに属する場合には、届出義務が免除されている点には留意が必要である。

 

8 届出義務違反の場合の制裁

 企業結合の修正又は取消し、統合された事業の一部又は全部の譲渡、当事会社の売上高の最高10%までの罰金が科され得る。

 

9 審査期間

 連邦競争委員会は、当事会社による届出書提出後15日以内に追加の情報提供要請ができ、当事会社は追加の情報提供要請15日以内に連邦競争委員会に回答を提出しなければならない(ただし、事案に応じて40日間の延長が可能)。

 当事会社から追加の情報提供がなされた後、連邦競争委員会は60日以内に企業結合に異議がないか判断することとされている。当該期間内に連邦競争委員会による判断がない場合は、連邦競争委員会は企業結合に異議がないものと見做される(ただし、事案に応じて40日間の延長が可能)。

 以上が通常のケースであるが、例外的に企業結合が競争を減退、毀損、妨害しないことが明白であることを当事会社が示すことによって、簡易審査(Fast Track)を要求することができる。その場合、連邦競争委員会は15日以内に判断することとされている。審査期間の延長がなされずに15日が経過しても連邦競争委員会の判断が下されない場合には、連邦競争委員会は企業結合に異議がないものと見做される。

 連邦競争委員会から速やかなクリアランスを得るためには、連邦競争委員会との密接なコミュニケーションが推奨される。

 

10 クリアランスの基準

 企業結合が競争を減退、毀損、妨害するか否か基準であり、これは企業結合の競争促進的な影響と競争阻害的な影響を比較考量のうえ判断される。具体的には、企業結合が市場における価格水準の決定や供給量の制限ができる程度の市場支配力の取得につながるか、企業結合に競争者を排除する意図又は効果があるか、企業結合に当事会社による独占的行動を促進する意図又は効果があるかといった観点から判断される。

 なお、2015年5月、連邦競争委員会は、水平的企業結合について、以下のいずれかの場合に該当する場合は企業結合を問題とならないとする、いわゆる「セーフハーバー基準」を採用している点が注目される。

  1.  •  HHI(Herfindahl-Hirschman Index)の増分が、100未満の場合。
  2.  •  企業結合後のHHIが2000未満の場合。
  3.  •  企業結合後のHHIが2000以上2500以下の場合であり、かつHHIの増分が100以上150以下の場合において、企業結合後の当事会社が市場におけるトップ4に該当しない場合

以上

 

(注)本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地弁護士の適切な助言を求めていただく必要があります。また、本稿記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。

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