◇SH0884◇日本企業のための国際仲裁対策(第13回) 関戸 麦(2016/11/17)

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日本企業のための国際仲裁対策(第13回)

森・濱田松本法律事務所

弁護士(日本及びニューヨーク州)

関 戸   麦

 

第13回 国際仲裁手続の序盤における留意点(7)-被申立人の最初の対応その4

5. 仲裁手続の停止

 第3回で述べたとおり、仲裁手続においては当事者自治が広く認められている。仲裁手続の停止(stay)もその一環であり、当事者双方が合意すれば、基本的に、仲裁手続は停止し、進行しなくなる。

 停止をする目的は、通常は、和解交渉である。和解交渉は、仲裁手続を申し立てる前にも当然行うことができるが、仲裁手続を申し立てた後に、停止をして、和解交渉を行うことには、申立人の側から見ると、①出訴期限(statute of limitation)が徒過することを避けられる、②被申立人にプレッシャーがかかり、その譲歩の可能性が高まるといったメリットが考えられる。

 被申立人の側から見ると、和解による解決を望む場合には、申立人の同意を得て仲裁手続を停止することができれば、応訴のための労力やコストを回避できることがメリットとなる。申立人の側としても、手続進行によって生じる労力やコストを回避できることから、停止に応じることにメリットを見いだす可能性がある。そのため、被申立人としては、和解による解決を望む場合には、申立人に停止を提案することが、一つの選択肢となる。

 停止を合意する際には、例えば1ヶ月間といった期限を定めることが通常である。和解交渉という目的に照らしても、期限を定めなければ、仲裁手続が進行する可能性というプレッシャーがかからず、和解交渉が停滞すると思われることから、通常は期限を定めることが合理的である。

 もっとも、仮に期限が到来しても、当事者双方が合意すれば、更に停止を一定期間延長することができる。

 

6. 仲裁手続の欠席

 この対応方法は、被申立人が、仲裁手続では応答せず、その後の、裁判所における強制執行の段階で争うというものである。しかしながら、第10回で述べたとおり、裁判所の強制執行段階で争っても認められない可能性が高く、この対応方法は極めてリスクが高いことから、一般的ではない。

 

7. 請求の早期却下

(1) 概要

 請求の早期却下(early dismissal of claims)は、米国民事訴訟における訴え却下の申立て(motion to dismiss)に相当するものである。仲裁手続をいわば門前払いのような形で、実質的な審理に入る前に、終わらせようとするものである。仮にこれが認められて仲裁手続が終了すれば、被申立人としては、迅速に、かつ労力及びコストを抑えた上で勝利を得るということで、いわば最高の勝ち方ということになる。

 この制度は、少なくとも主要な仲裁機関の規則上では今まで見られなかったが、2016年8月1日に施行されたSIACの規則改正で、導入されるに至った。

 SIACの規則上は、請求の早期却下とともに、防御の早期却下(early dismissal of defences)についても定めている(29.1項)。すなわち、申立人及び被申立人のいずれからも申し立てることができ、却下を求める対象は、請求の却下と、防御の却下の双方である。被申立人が主張する防御について、早期却下が認められると、申立人としては、請求の認容に向けて大きく前進すると期待できる。

(2) 申立ての理由

 請求の早期却下と、防御の早期却下のいずれについても、申立ての理由となるのは、次の2点である(SIAC規則29.1項)。そのうち一つあれば、申立の理由となる。

  1. ① 請求又は防御に、明らかに根拠がないこと。
  2. ② 請求又は防御が、明らかに仲裁廷の管轄外であること。

 上記①は、請求又は防御がおよそ成り立ち得ないということで、日本法でいうところの、主張自体失当に相当する。

 上記②は、仲裁廷の管轄の根拠が仲裁合意にあることから、請求又は防御が、明らかに仲裁合意の範囲外である場合である。

(3) 手続

 請求又は防御の早期却下の申立てに際しては、上記①又は②について、根拠となる事実と法的主張を詳細に述べる申立書を提出しなければならない(SIAC規則29.2項)。この申立てを行った当事者は、申立書を仲裁廷に提出するとともに、写しを他の当事者に送付し、この送付を行ったことを、仲裁廷に連絡しなければならない(SIAC規則29.2項)。

 この申立てを受けた後、仲裁廷の判断は二段階となっている。

 まず第一段階の判断として、(i)この申立てについて審理を進めるか、あるいは、(ii)この申立てについては審理を進めることなく、申立てを認めない(却下しない)こととするかを判断する。これは仲裁人の裁量による判断である。

 請求又は防御の早期却下というのは、申立ての理由である上記①及び②について、「明らかに」という限定が付されていることからも分かるとおり、申立てを行う側からすると、かなりハードルの高い申立てである。そのため、仲裁人の裁量で、審理を進めることなく、申立てを認めない(却下しない)という判断を行いうるとされている。

 但し、申立てを認めないという判断であっても、早期却下を認めないということで、申立てを行った当事者の主張を排斥し、相手方当事者の主張を認めたということではない。いずれの主張が採用されるかは、通常の審理手続、すなわち、主張書面、書証、陳述書等の提出や、ヒアリング手続における証人尋問等を通じて、時間をかけて判断されるということである。

 仲裁廷が、第一段階の判断として、請求又は防御の却下の申立ての審理を進めるとの判断をした場合、当事者双方に主張及び立証の機会が与えられ、その上で、仲裁廷が、申立てを認めるか否か、換言すれば、請求又は防御を却下するか否かを判断する(SIAC規則29.3項)。仲裁廷は、申立ての一部のみを認めて、請求又は防御の一部分についてのみ却下することもできる。

 仲裁廷は、この判断を、仲裁判断(Award)の形式で、理由を付して示さなければならない(SIAC規則29.4項、但し、理由は簡略な形式で足りる)。

 また、仲裁廷がこの仲裁判断を示す期限であるが、申立日から60日以内とされている(SIAC規則29.4項)。但し、特別な事情がある場合には、SIAC事務局がその期限を延長することができる(SIAC規則29.4項)。

以 上

 

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