◇SH0895◇冒頭規定の意義―典型契約論― 第31回 冒頭規定の意義―制裁と「合意による変更の可能性」―(28) 浅場達也(2016/11/25)

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冒頭規定の意義
―典型契約論―

冒頭規定の意義 -制裁と「合意による変更の可能性」-(28)

みずほ証券 法務部

浅 場 達 也

 

Ⅳ 小括

(2) 契約文言に対する影響

 上の「冒頭規定」「よくわからない規定」「任意規定」という3つの分類は、リスクの高低に基づくものである。「リスクの高低」はいわば理論的な尺度だが、契約書作成の過程において、実際上、上の3つ(特に「よくわからない規定」と「任意規定」)を区別する必要が生ずる場合がある。以下で具体的な文例をもとにこの点について検討してみよう。

 強行規定とされる規定があるとき、それに対応する契約文言の作成は、どのようにすべきだろうか。例えば民法678条について考えてみよう。以下は、ネット上で公開されている「組合契約」の「組合員の脱退」の文言に、若干手を加えたものである。

 

【契約文例6】 第○条 (組合員の脱退)

  1. 1. 組合員は、やむを得ない理由のある場合を除いて、本組合を脱退することができない。
  2. 2. 前項に定める場合のほか、組合員は、次の事由により脱退する。
      ① 死亡

      ② 破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、その他これに類する倒産手続開始の決定を受けたこと
      ③ 後見開始、保佐開始、補助開始の審判を受けたこと

      ④ 除名
  3. (下線は引用者による)

 

 「ヨットクラブ事件最高裁判決」では、「やむを得ない事由がある場合に、常に組合から任意に脱退することができる旨を規定する部分は強行規定である」とされた。では、組合契約において、「脱退」の項目を契約書作成者はどのように書くべきだろうか。最高裁判決は、「やむを得ない場合」がどういう場合かについて、それ以上の詳細を語っていない。従って、その内容を契約書作成者が恣意的に推測することは、リスク増大の可能性を伴う。そして、このリスク増大の可能性を回避するために、契約書作成者は、条文の文言をそのまま採用することになるだろう。上の【契約文例6】の第1項で、「やむを得ない理由のある場合を除いて」と条文の表現がほぼそのまま用いられているのも、その趣旨であるといえよう。そうすることで、「リスク増大の可能性の回避」が達成されるからである。これは、冒頭規定の要件をそのまま採用することが「リスク増大の可能性の回避」に繋がるという考え方(「ポイント(3)」)と類似した対応である[1]

 このように、ある規定が強行規定であるとされた場合、それに関する契約文言の書きぶりへの配慮は、任意規定の場合とは決定的に異なってくる[2]

 では、上の「よくわからない規定」(「無効」という制裁を課される可能性がゼロより大)に関連する契約文言については、どのように考えるべきだろうか。今後の課題というほかはないが、ここでも、契約書作成者がリスクの増大を考慮した場合にどのように行動するかとの観点から考えることが重要であろう。そして、「ポイント(3)」でみたように、変更・修正による利点・メリットが無い場合、契約書作成者が、条文に規定される文言をそのまま使う可能性が高くなるだろう。「無効」という制裁を課されるリスク増大の可能性を回避するという観点からは、「よくわからない規定」に対応する契約文言に関し、「条文の文言をそのまま採用する」という選択肢が望ましいものとなるからである[3]

 このように、「よくわからない規定」については、その規定に関する契約文言に対して、冒頭規定及び任意規定とは異なる影響がありうる点に留意する必要がある。



[1] また、【契約文例6】の第2項は、「やむを得ない場合」以外の脱退要件を挙げている。これは、民法679条と同様の趣旨で、「やむを得ない場合」以外の妥当とみられる脱退事由を列挙したものである。

[2] 民法の条文において、その条文の規定内容のどの部分をどのような形で合意により排除できるかは、可能な限り一般国民に周知されていることが望ましい。それなしに、契約書を作成することは、難しいからである。仮に、法文上、どの程度排除できるか明らかでないとすれば、注釈書等は、まずそのことを論じなければならない。前稿で、「注釈書等では、まず強行規定か否かを論ずべき」としたのは、その趣旨である。

[3] 契約書作成者は、個別条文の規定それぞれに対し、それが強行規定なのか任意規定なのかをまず(無意識的にせよ)判断し、その判断に沿った契約文言を作成していくことが多いことに留意する必要があろう。

 

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