◇SH0974◇第三者委員会の役割と機能 第3回 久保利英明(2017/01/20)

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第三者委員会の役割と機能

第三者委員会とは何か――その概要と役割 (第3回)

日比谷パーク法律事務所代表

弁護士 久保利 英 明

 

Ⅱ 日弁連ガイドラインの解説

 次に、先ほど申しました日弁連ガイドラインについて少し解説したいと思います。商事法務から『「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」の解説』という本が日弁連の弁護士業務改革委員会編で出ております。これをご覧いただければ、解説もすべて付いていますので、内容をご理解いただけると思います。それでも、やや難解かなと思うところについて若干補足してお話しします。

 この本ができたのは今から約6年前、2011年3月です。第三者委員会は法律に根拠があるわけではないので水準がバラバラで、会社を弁護するような趣旨をわきまえないものもありました。ガイドラインを作り、解説書によって周知をはかれば、弁護士はその趣旨を踏まえて正しく第三者委員会の活動をやってくれるだろうと期待していました。ところがその後も、その期待を裏切るような第三者委員会報告書が次々と出てきました。作成者である我々としては、これはいかんと思いました。

 そこで、ガイドラインを策定した以上、日弁連として、個々の第三者委員会がそれに沿っているかどうかを評価する必要があるだろうという議論をしました。しかし、日弁連はすべての弁護士が強制加入している団体です。出来が悪いと感じるような報告書を作成した人も日弁連の会員ですし、逆に、立派な報告書を作った人も会員です。その中で差をつけて、この人は良い、この人は悪いという評価を下すことを、日弁連として行うには無理があるのです。

 しかし、何もしないままでよいのか、このガイドラインを策定した弁護士メンバーは作ったままで後は知らん顔でよいのかという問題意識から、國廣正さんたちと相談して、任意の格付け委員会を作ろうということになりました。もちろん、私たちの評価を悪口だ、名誉毀損だと受け取る弁護士の方もいらっしゃるかもしれません。ですが、このガイドラインを策定した以上はモニタリングにより第三者委員会の健全な発展を確保する責任があると感じ、最終的には、ガイドライン策定に関わらなかった多様な方々もメンバーに入れて立ち上げたのが第三者委員会報告書格付け委員会なのです。

 

1. 基本原則 (第1部)

 さて、ガイドラインの解説に戻ります。冒頭の「基本原則」は、第三者委員会とはどういう役割を持つ存在かを説明するものです。それは先ほど申し上げたとおり、事実調査をし、認定・評価し、その真因にたどり着いたならば、再発防止のためにどのようなことをすればよいかを提言するということ。これが役割のすべてです。そして、それをわかりやすく報告書に書いて、かつ説得力があるように、証拠も付けながら説明をして社会に公表する。すなわち、オールステークホルダー、社会そのものが真の依頼者ですから、内部向けに作成するだけでお仕舞いにしない。これが最も大事です。

 この基本原則は2016年2月に公表された日本取引所自主規制法人の「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」の内容とも共通するものだと思います。そして、プリンシプルの副題には「確かな企業価値の再生のために」とあります。第三者委員会は、まさに確かな企業価値の再生を目標とするものです。

 

2. 独立性、中立性についての指針 (第2部・第2)

 プリンシプルの②を見ますと、繰り返し、第三者委員会に対し、独立性・中立性・専門性に十分な配慮をしてくださいという文言が出てきます。第三者委員会と言いながら独立性がない、中立性がない、専門性もないような調査であるのに、あたかもそれらがあるように装う事態を招かないよう留意しましょうとも書いてあります。

 実は、第三者委員会で最も注意すべきなのがこの点です。会社と水面下で調整をとりながら、あたかもコンサルタントのような立場で第三者委員会“的な”報告書を書いても、社会からは相手にされません。そもそも会社が不信感をもたれている状況にあるのですから、本質を見抜かれてしまいます。本当に社会から、マーケットから信頼を取り戻し、企業価値を再生するための厳しい提言をするには、第三者委員会に独立性、中立性が必要です。

 そこで、ガイドラインの第2部として「独立性、中立性についての指針」を掲げています。具体的には、報告書の起案権は第三者委員会が持つ、今の経営陣に不利な内容であっても書く、報告書を公表する前は会社に対して情報を非開示にする。調査途中での横やりを避けるためです。

 それから、第三者委員会として会社や従業員から集めた資料等については報告書の公表後、できるだけ早く処分します。たとえば、従業員の方が、第三者委員会に対して回答・提出したアンケートが漏れたらどうしよう、人事に見つかれば左遷されるかもしれないという危惧を持つことがあり得ます。そのような不安・不利益が生じることを防ぎ、安心して調査に協力していただくため、早く処分してしまうことを考えたのです。もちろん刑事捜査や行政処分のための調査の妨害をしてはなりませんから、第三者委員会が主体的に集めたものに限られます。

 

3. 企業等の協力についての指針 (第2部・第3)

 企業がどうしても協力をしてくれず、協働作業にならない場合には、企業価値の再生をもたらす報告書を作れません。そうである以上、残念ですが委員を辞任するしかないと私は考えます。そのような最悪の事態を避けるため、また、社会に対してその経緯をきちんと説明するために設けた指針です。

 

4. 公的機関とのコミュニケーションに関する指針 (第2部・第4)

 公的機関とは、たとえば特捜部、証券取引等監視委員会といったところです。こういった機関とのコミュニケーションをどこまでやるかはガイドラインの策定時に大変議論になりました。

 第三者委員会は、刑事捜査や行政処分のお手伝いをするわけではありません。真因を発見して、その再発防止策を報告書の形でまとめ、公共財として社会に広く知ってもらうことに存在意義があります。ただ、公的機関に対して弓を引いたり、相手にしなかったりということではありません。できれば役には立ちたいが、真因の発見と再発防止が何より大事である。アメリカでは、航空機事故や大きな鉄道事故が起きたときに、事実が何だったのかを知るための特別委員会があり、そこで得られた情報を捜査機関に渡さないというルールがあります。このルールと肩を並べるものとまでは言えないですが、我々は、誰が犯人かを特定する、そして処分するという組織ではありませんので、一線を確保しようとする趣旨で設けた指針です。

 本日は全体を網羅できませんが、このガイドラインの策定に当たってはさまざまな面に配慮したつもりです。ただ、策定から6年以上経って、再検討が必要かもしれません。プリンシプルも公表されましたし、コーポレートガバナンス・コードができて企業のガバナンスも日々進化している。取締役会、社外取締役や社外監査役、あるいは監査委員会といったものと第三者委員会との関係はどのように考えればよいのかという新たなテーマも突きつけられていると思います。

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