インドネシア:FinTechに対する新規制の動向⑴
決済サービス事業に関する中央銀行規則の制定
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 前 川 陽 一
近時FinTechという言葉が耳目を集めているが、インドネシアにおいてもまた例外ではなく、情報通信技術を利用した利便性の高い新たな金融サービスが勃興している。2013年に12%だったスマートフォン普及率は2016年上半期には35%に達したが、カバーエリアの拡大、通信速度の高速化、端末価格の低廉化に伴い、スマートフォン市場は引き続き活況を呈していくものと思われる。スマートフォンの一層の普及は、FinTech系事業のさらなる創出と浸透を後押しすることになるだろう。
このような背景のもとで、決済サービス事業に関する中央銀行規則No.18/40/PBI/2016(以下「本規則」という。)が制定された。本規則は、FinTech系の決済サービス事業に対する許認可等について規定したもので、2016年11月9日から施行されている。
従前の中央銀行規則のもとでは、決済サービス事業者として、クレジットカード等のカード型支払手段や電子マネーのプリンシパル(決済システムの管理を行う者)、発行者、アクワイアラー(加盟店契約事業者)、クリアリング事業者及び最終決済事業者、並びに資金移動事業者に対する規制がなされていた。本規則は、これらの事業者に加えて、スイッチング事業者(決済データを転送するネットワーク設備の運営者)、決済ゲートウェイ事業者(銀行送金、クレジットカード等又は電子マネーを利用した電子的決済手段の提供者)、電子ウォレット事業者(支払手段に関する電子的データの保管サービスの提供者)、その他中央銀行が決定する事業者が新たに規制の対象となった。これらの決済サービス事業を営もうとする者は、中央銀行から当該事業にかかる許認可を取得しなければならない。本規則施行以前から、スイッチング事業、決済ゲートウェイ事業又は電子ウォレット事業を行っている者は、本規則施行後6か月以内に当該事業にかかる許認可を取得しなければならない。ただし、30万ユーザー未満の電子ウォレット事業者は、許認可の対象外である。
ビットコイン等のいわゆる仮想通貨は、インドネシアにおいて有効な決済手段として認められておらず、本規則は決済サービス事業者が仮想通貨を取り扱うことを禁止している。
プリンシパル、クリアリング事業者、最終決済事業者及びスイッチング事業者に対しては、本規則により新たに外資規制が課せられ、外国資本は直接又は間接に20%を超えて出資することはできない。ただし、本規則施行前から外国資本が20%を超えて出資しているプリンシパル、クリアリング事業者及び最終決済事業者については、出資比率の変動がない限り、従前の外資出資比率を維持することができる。なお、上記以外の事業であっても、ネガティブリスト上外資規制の対象となっている事業についてはネガティブリスト所定の外資規制が課せられる。例えば、クレジットカードの発行は、ファイナンス業として外資出資比率は上限85%に制限されている。