ブラジルの企業結合規制
西村あさひ法律事務所
弁護士 根 立 隆 史
1 根拠法
ブラジル企業結合規制の根拠法は、2011年法律第12,529号(競争保護法)及び後述するCADEの一連の決議(Resolution)である。
2 執行機関
ブラジルの企業結合の執行機関は、経済擁護行政委員会(The Administrative Council for Economic Defence (CADE)である。
CADEは、経済擁護裁定評議会(The Administrative Tribunal for Economic Defence)、総監督局(The General Superintendence)及び経済調査局(The Department of Economic Studies)の3つの部署で構成されているが、企業結合審査は総監督局が担当する。
3 届出の対象
合併、株式・資産等の取得、ジョイントベンチャーやコンソーシアムの組成、業務提携協定など(本件企業結合)がブラジルに影響を及ぼすものであり、かつ届出基準を満たす限り、本件企業結合は届出が義務付けられる(当局からクリアランスを取得する前にクロージングをすれば制裁金の対象となる。)。
本件企業結合における対象会社が資産又は法人(legal entities)をブラジル国内に所有している場合、又はその額にかかわらず対象会社がブラジル国内から生じた売上高を有する場合、本件企業結合はブラジルに影響があると解されている。
なお、日本を含め主要国における企業結合規制とは異なり、期間が2年以上であり、かつ一定の経済活動から生じるリスク及び損益を分配することを目的とする業務提携も企業結合審査の対象とされている点には留意が必要である。
4 届出基準
届出基準は次の通りである。
- ① 当事会社グループの少なくとも1グループのブラジルにおける直近事業年度の売上高が7.5億ブラジルレアル以上;かつ
- ② 当事会社グループのその他の少なくとも1グループのブラジルにおける直近事業年度の売上高が7500万ブラジルレアル以上
売上高については、当事会社単体の数値ではなく当事会社グループに属する会社すべての数値を合算した数値に基づき届出基準を満たすか否かが判断される。
また、当事会社グループに属するか否かの判断は、諸外国におけるグループの見方と異なり、①当事会社と共通の支配下にある会社及び②当事会社と共通の支配下にある会社が直接・間接にその20%以上の持分を保有している会社を当事会社グループに属するとみている点に留意が必要である。
なお、届出基準を満たさない企業結合であってもそのクロージングから1年以内であれば、CADEは当該企業結合について届出を要求することができる。
5 少数出資(Minority Interest)の取扱い
いわゆる支配権の取得に至らない少数出資であっても次の場合には届出義務が発生する。
- ・ 取得会社グループと対象会社が水平又は垂直関係にない場合は、①対象会社への20%以上の直接・間接の新規の出資、又は②その後の20%以上の出資の増加(ただし、単一の売主から取得する場合に限る)
- ・ 取得会社グループと対象会社が水平又は垂直関係にある場合は、①対象会社への5%以上の直接・間接の新規の出資、又は②その後の5%以上の出資の増加
6 外国会社同士の企業結合
ブラジル国内で設立された会社同士の企業結合ではなく、ブラジル国外で設立された会社同士の企業結合であっても、それがブラジルに影響を及ぼすものであり、かつ届出基準を満たす限り届出が必要とされる。
7 届出免除
企業結合が届出基準に該当する場合であっても、公共入札に参加するためのジョイントベンチャーやコンソーシアムの組成、業務提携協定は届出義務が免除されている。
8 届出義務等違反の場合の制裁
届出義務に違反した場合やクリアランス前にクロージングを実施した場合(いわゆるガン・ジャンピング)には、当該企業結合は無効とされるほか、6万ブラジルレアルから6000万ブラジルレアルまでの制裁金が賦課され得る(実際に制裁金が賦課されたケースも存在する)。
9 届出義務者及び届出手数料
両当事会社が届出義務者となり、届出手数料は2016年1月現在8万5千ブラジルレアルである。
10 審査期間
最長240日の審査期間があり、この期間は当事会社の請求で60日の延長又は当局の裁量で90日の延長がなされ得る(よって、審査期間は最大で330日となる。)。当該期間を経過しても審査が終了しない場合は当局から承認がなされたものと見做される。
届出書には、通常の事案に用いられるAnnexⅠ(Non-Fast-Track Procedures)と競争法上の問題を生じさせない簡易な事案の場合に用いられるAnnexⅡ(Fast-Track Procedures)がある。実務上、簡易な事案であれば、届出書の提出から30日程度で審査が終了し、通常の事案であれば、届出書の提出から60日から90日程度で審査が終了する(2014年における簡易な事案の平均審査期間は20日、通常の事案の平均審査期間は84日であった)。
なお、AnnexⅡ(簡易な事案)による届出は、市場シェア20%未満の水平型企業結合の場合又はいずれの当事会社の市場シェアも30%未満の垂直型企業結合の場合において、①典型的なJVを組成する場合、②新規参入の場合、③市場集中度が50%未満であり、かつHHIの増分が200未満である場合に、当局の裁量により認められる。
11 審査基準
競争保護法上、①本件企業結合が市場の大部分において競争を制限することが示唆される場合(競争制限テスト)、又は②本件企業結合の結果、市場における支配的地位が形成又は強化される場合(市場支配的地位テスト)に本件企業結合が禁止される。
(以上)
- (注) 本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地弁護士の適切な助言を求めていただく必要があります。また、本稿記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。