ブラジルの新しいタックス・プログラムについて
西村あさひ法律事務所
弁護士 古 梶 順 也
1. はじめに
2017年1月、ブラジルにおいて、暫定措置令2017年第766号が発行され、新しいタックス・プログラムとして税調整プログラム(Programa de Regularização Tributária – “PRT”)が制定された。当該PRTは、債務の分割払い等を認めることで連邦税や社会負担金の支払いを容易にすることを目的としたものであり、ブラジルに投資を行い、ブラジルで納税義務を負う日本企業にとってもその活用が期待されることから、本稿においてその概要を紹介する。
2. PRTの内容
PRTは、上記のとおり、債務の分割払い等を認めることにより、連邦国税庁(Receita Federal do Brasil – “RFB”)や大蔵省検察総局(Procuradoria Geral da Fazenda Nacional – “PGFN”)が管理する連邦税や社会負担金の支払いを容易にすることを目的としている。PRTは、租税債務そのもの、その未払利息や罰金の金額を減額するものではない。
当該PRTの対象となる債務は、2016年11月30日までに期限の到来する債務である。当該対象債務には、以前の分割払いプログラムの対象となった未払債務、行政手続や司法手続の対象となっている債務、PRTに係る暫定措置令が発令されてからPRTの申請期限までの期間に出された新たな租税請求から発生する債務も含まれる。
当該PRTの下では、法人がRFBが管理する債務を支払う場合に、当該法人は繰越欠損金やその他の連邦税控除を利用することが認められている。他方、PGFNが管理する債務については繰越欠損金やその他の連邦税控除の利用は認められていない。そこで、繰越欠損金やその他の連邦税控除を利用する場合と利用しない場合に分けて、PRTの下で認められる支払方法について以下で説明する。
(1) 繰越欠損金やその他の連邦税控除を利用する場合
PRTの下では、RFBが管理する債務の支払いのために繰越欠損金やその他の連邦税控除を利用する法人につき、その債務の清算のために以下の2つの支払方法が認められている。
- オプション1
- ‐ 債務の合計額のうち20%以上を頭金として現金による支払い
- ‐ 残額を繰越欠損金やその他の連邦税控除との相殺
- ‐ 相殺後の残額を、25ヵ月目から始まる60ヵ月以内の月額払いによる支払い
- オプション2
- ‐ 債務の合計額のうち24%以上を頭金として24ヵ月間の月額払いによる支払い
- ‐ 残額を繰越欠損金やその他の連邦税控除との相殺
- ‐ 相殺後の残額を、25ヵ月目から始まる60ヵ月以内の月額払いによる支払い
- ・ 繰越欠損金については、当該法人又はブラジルに所在する当該法人の親会社、被支配会社若しくは兄弟会社により、2015年12月31日までに計上され、2016年7月29日までに適切な納税申告書により報告されたもののみが相殺の対象となる。
(2) 繰越欠損金やその他の連邦税控除を利用しない場合
他方、PRTの下では、繰越欠損金やその他の連邦税控除を利用しない法人の支払いや個人の支払いにつき、その債務の清算のために以下の2つの支払方法が認められている。
- オプション1
- ‐ 債務の合計額のうち20%を頭金として現金による支払い
- ‐ 残額を96ヵ月以内の月額払いによる支払い
- オプション2
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‐ 120ヵ月以内の月額払いによる支払い(頭金なし)。但し、以下の条件を充たさなければならない。
a) 初年度(1ヵ月目から12ヵ月目まで)においては、各月債務額の0.5%の支払い
b) 二年目(13ヵ月目から24ヵ月目まで)においては、各月債務額の0.6%の支払い
c) 三年目(25ヵ月目から36ヵ月目まで)においては、各月債務額の0.7%の支払い
d) 37ヵ月目以降においては、残額を84ヵ月以内の月額払いによる支払い
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・ PGFNが管理する債務については、当該分割払いの対象となる債務の合計金額が15百万ブラジルレアルを超える場合には、保証状等の担保の提出が必要となる。
3. 申請期限
PRTへの申請期限は、RFB及びPGFNがPRTに関する規範的ルールを制定してから120日間とされている。RFBについては、2017年2月1日にそのルールが制定されているため、RFBが管理する債務については、同年5月31日が申請期限となる。また、PGFNについては、2017年2月3日にそのルールが制定されているため、PGFNが管理する債務のうち、連邦税については、同年6月5日が申請期限となる。他方で、PGFNが管理する債務のうち、社会負担金については、申請期間が、2017年3月6日から同年7月3日までとされている。
4. 留意点
PRTに関しては、以下のような留意点が存在する。
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・ PRTへの申請は、PRTの対象となる債務についての撤回不能・取消不能な承認とみなされる。
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・ PRTへの申請のためには、PRTの対象となる債務に関する不服申立て、司法手続又は行政手続を撤回しなければならない。
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・ PRTの対象となる債務を事後のいかなる分割払いプログラムの対象とすることは禁止される。
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・ 以下に該当する場合、PRTの適用が排除され、その結果、PRTの対象となっている未払いの債務の即時の支払いを求められる。
ⅰ) 3回連続で又は連続しないで6回分割払いの履行を遅滞した場合
ⅱ) PRTの終了時点で未履行の分割払いがあった場合
(たとえ、その他の全ての分割払いの履行が完了している場合であっても)
ⅲ) 納税者がその資産を濫用していると税務当局が認定した場合
ⅳ) 当該法人について破産又は清算による消滅命令がなされた場合
ⅴ) 当該法人が資産の差押えを求める命令の対象となった場合
ⅵ) FGTS(失業保険基金)に対する義務を履行しなかった場合
ⅶ) 2016年11月30日後に期限の到来する連邦税の支払いを行わなかった場合
以 上
- (注) 本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地法弁護士の適切な助言を求めていただく必要があります。また、本稿記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。