キューバ投資の拡大への期待と課題
西村あさひ法律事務所
弁護士・ニューヨーク州弁護士 松 平 定 之
去る2017年2月にキューバを訪れる機会を得た。キューバについては、2015年7月の米国との国交正常化をきっかけとして、今後の投資機会の拡大が期待されている[1]。米国人も含め観光客は多数来訪しており、南国情緒も相俟って社会主義国特有の暗さを感じさせない。治安も概ね良好であり、米国への地理的なアクセスの良さや教育水準が比較的高いことなどを考慮すると、今後の環境整備により投資機会の拡大は期待できるものと考えられる。
他方で、今回の訪問において現地に進出済みの日本企業のご厚意により機会を頂いたヒアリング結果によれば、日本企業の本格的な進出には以下のような課題も存する。
1 国内市場の未発達
一般キューバ国民の平均月収は20米ドル程度にとどまるとされる。近時はレストラン業や民泊など自営業が認められる範囲が拡大され、自営業を営む国民の所得は向上しているといわれるが、都市部や観光地に限られ、また米国にいる親戚等からの送金によりレストラン等の開業資金を準備できる者に限られる。首都ハバナ市内には外国製の家電製品等を扱う店があるが、その需要の広がりはまだ途上段階である。人口が約1100万人に止まることからも、インフラ関連等を除き、現状においてキューバ国内消費市場の投資先としての規模・魅力は限定的であると考えられる。
2 労働者雇用の難しさ
キューバへの進出企業は、キューバ人労働者を直接雇用することはできない。キューバ政府の指定する公営人材会社と契約し、当該会社から労働者を派遣してもらうことが必要となる。企業から公営人材会社への支払額は小さくないが、公営人材会社から労働者に支払われる金額は上記1に記載した一般キューバ国民の平均月収と大きな差異はないとされる。このため、優秀な労働者に対しその価値に見合う生活レベルを実現させるためには、公営人材会社への支払いとは別に、労働者に対して特別の手当を給付する必要がある。なお、派遣された労働者は、企業から直接支給される特別な手当については、国に申告し、納税する必要が生ずる。
このように、公営人材会社への支払いと労働者本人への特別な手当の両方を負担する必要があるため、労働者の人件費が同様の発展段階における国のそれと比較して小さくないことも、進出にあたっての課題となる。
3 通貨や支払制度に関する課題
キューバには、外貨との交換の対象となるCUC(兌換ペソ)という通貨と一般国民に利用されるCUP(人民ペソ)という二種類の通貨が存しており、両者の兌換の比率はCUC1ペソ=CUP24ペソである。この経済実勢を反映しない二重通貨制度は、現地との資金のやりとりや支払いを複雑にしている。
また、支払サイトが360日など全般的に長い傾向にあるのも特徴である。
これらの通貨や支払制度の現代化・国際標準化も、日本企業が本格的に投資を行うにあたっての課題である。
4 その他の課題
支店の登録手続きにあたり提出すべき必要書類等について、政府側の担当者によって運用が一貫していない面がある。
また、現地に赴任する日本人のビザ取得や居住環境の改善も課題である。現状では現地代表者クラスについて居住地に制限が課せられるなど、特有の不自由さが残っている。
これらのほか、外貨準備高等の国の基本的な経済関連情報や契約の相手方となる公社の財務情報等の開示不足、新車購入への過大な課徴金、不十分なインターネット環境等も、日本企業が本格的に投資を行うにあたって改善が望まれる課題である。
5 おわりに
以上のように、キューバ投資には実務上様々な課題があるが、これまでに日本企業が投資を拡大してきたアジアの途上国等でも投資に関する課題のない国はなかったことに照らしても、インフラ関連を中心に、キューバへの投資機会は徐々に増えることが期待される。この点につき、中国企業等は自国政府の積極的な支援を受けつつキューバへの進出を試みており、日本企業についても、各企業の自助努力に加えて、JBIC・NEXIなどの政府系金融機関等を通じた国のより積極的な関与が日本企業の進出への有力なきっかけとなることが期待される。
以上
- (注) 本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地弁護士の適切な助言を求めていただく必要があります。また、本稿記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。