◇SH1007◇実学・企業法務(第23回) 齋藤憲道(2017/02/09)

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実学・企業法務(第23回)

第1章 企業の一生

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

(3) 物(モノ)

3) 機械装置
 機械装置の性能は、企業の生産・販売・利益に直結する。コスト力・性能・生産能力等が競争相手より劣る機械装置を用いて生産を続けると、商品の価格・特性・品質・供給力等の面で市場競争力を失っていく。
 一般に、同一商品が大量販売され、かつ大口顧客が多い市場では、製品のコスト力・品質力・供給力の面で、材料加工工程から完成工程まで一貫して大量生産できる大型機械が有利だが、多品種・少量かつ小口顧客が多い市場では、生産品に応じて機械の設定を容易に変更できる小ロット生産対応型の小型機械の方が有利なことが多い。

  1. (参考) 大型機と小型機の使い分けは、生産以外の分野でも行われる。例えば、航空機についてみると、日本航空はジャンボ・ジェット機を多数保有していたために、全日空等の競争相手との市場競争で不利になったとされる。2010年に会社更生法の適用を申請した日本航空では、大型機の搭乗者数が採算乗客ラインを下回っていた。

 機械装置には、次の(a)~(d)の特性を備えることが求められる。

  1. (a) 良品生産を保証できる。
    ・ 機械装置の状態と生産された製品の品質の関連が明確で、良品生産のための調整が容易である。
    ・ 工程内で製品・材料・作業等の不具合を自動的に検知し、作業員が対策をとることができる。
       ※不具合を自動検知して自動修復する構造がベストだが、高コスト化は避ける。
  2. (b) 確実、かつ、安定して稼働できる。
    ・ 点検・修理する個所が明確で分かり易い。
    ・ 故障を自己診断する設計である。
    ・ 配線・配管を含めて構造全体が簡単で無駄がなく、分解しやすい。
    ・ 部品の部分取り換えが可能で、容易にできる。
  3. (c) 作業者の安全を確保し、かつ、操作・修理が簡単である。
    ・ 製造・点検・修理の作業を容易にできる構造になっている。
  4. (d) 投資効率が高い(燃料費等のエネルギー・コストを含む)。
    ・ 機械装置自体が安価である。
    ・ 複数品種の生産に対応できる。(大量生産であれば、専用の大型機の方が経済的な場合がある)
    ・ 省資源(材料歩留まり、エネルギー効率、省スペース等)。
    ・ 使用開始後に、作業の標準化や省人化のための改造が可能である。
    ・ 長寿命である。また、解体して他の機械装置の部品として使用できるのが望ましい。

 ⑴ 機械装置の購入
 高額の機械装置の売買契約では、「売主が買主の工場に納入して設置した機械が契約で定めた性能を発揮する」ことを「売主と買主の立会いの下で確認した」ときに「売主から買主への引渡しが完了」し、同時に「所有権が移転する」と規定することが多い。
 なお、工場建設工事や大型製造ラインの機械設置の取引は、通常、発注から完成引渡しまで長期間に及ぶので、決算上は、代金の前払い又は部分的に支払った代金や経費(設計料、資材購入費等)の額を「建設仮勘定」に計上し、全ての引渡しが完了した時点で「機械」等の本勘定に振り替える経理処理を行う。建設仮勘定に同一物件の金額が長期間滞留している場合は、何らかの異常[1]が存在する可能性が高いので、精査が必要である。

 ⑵ 機械等に化体した営業秘密の保持
 多くの場合、機械装置には製品の製造に必要なノウハウが化体している。特定の機械装置を用いることによってはじめて市場競争力を有する特性やコスト力を有する製品を生産できる場合は、その機械自体を営業秘密として管理する必要がある。同じ機械を競争相手が取得して生産すると、市場における自社製品の優位性が失われ、競争力が減少する。
 外部の機械メーカーに機械製造を依頼すると、機械の仕様・設計の打ち合わせ等を通じて、製造ノウハウに係る営業秘密が少なからずそのメーカーに流出する。機械の製造委託契約の中に秘密保持条項を設けて流出を牽制しても、長期間、秘密を保持するのは難しい。
 このため、必要な設計・加工・組立・制御等の技術者及び工作機械等[2]を社内に確保して、製造ノウハウを化体した機械装置の全部(又は重要な部分)を内製する企業もある。

 ⑶ エネルギー・通信等のインフラ整備、環境維持
 新設備や新工法を導入する際には、電気・水・ガス・エアー・スチーム・排水・通信回線等の生産インフラの整備に留意するとともに、地元の公害防止に関する法令等[3]を遵守しなければならない。

  1. 〔リスク・コミュニケーション〕
    振動・大気汚染・水質汚濁・悪臭等、地域社会に悪影響を及ぼす可能性がある場合は、地元とのリスク・コミュニケーションを含めて被害の発生防止に細心の注意を払う。地元に公害防止法令がない場合でも、他地域・外国等の厳しい水準の公害規制を自発的に調査・適用して遵守する姿勢が望まれる。
  2. 〔自家発電〕
    日本では最近、原子力発電所の操業停止にともなって増大した電力の供給不安や料金上昇リスクを避けるために、常用又は非常用の自家発電を行う企業が増えている。自家発電設備を設置して稼動・メンテナンスする際には、電気工作物を規制する電気事業法、消防用非常電源及び危険物燃料を規制する消防法、建築設備の予備電源について定める建築基準法、煤煙発生施設を規制する大気汚染防止法ならびに地方公共団体が制定する火災防止条例等の関係法令を遵守しなければならない。
  1. (参考) 2016年4月から電力小売が全面自由化されて、一般家庭を含む全ての電気利用者が購入先を自由に選べるようになったのに伴い、多くの企業が小売電気事業者に登録した。

 ⑷ 機械安全、CEマーク
 機械に関しては、その製作・運搬・据付・運転・保全・廃棄の過程で、人がケガをし又は病気になるリスクがある。
 国際基準ISO12100(機械安全)は、リスクアセスメント・本質的安全設計方策・安全防護策・付加防護方策・使用上の情報を示す等して、このリスクを低減する仕組みである。
 EU域内及びその周辺国[4]では、販売する機器にCEマーク(European Conformity)を表示することが義務付けられている[5]。EUの輸入通関時にCEマーキングの要件が満たされていないと、通関が留保され、EU市場での自由流通が禁止され、製品が破棄処分されることがある。

 



[1] 機械装置等を契約通りに受け入れられない事態(納入業者の一部納期遅れ、機械装置が受入検査に不合格等)が発生、又は粉飾決算(建設仮勘定であれば減価償却費が発生しない)等。

[2] 加工機、旋盤、研削機、溶接機等

[3] 日本では、特定工場における公害防止組織の整備に関する法律(通称、公害防止管理者法)が一定規模のメーカー等に公害防止統括者の選任を義務付ける等して企業内の管理体制の整備を促している。公害防止に関しては、公害対策基本法・水質汚濁防止法・大気汚染防止法・振動規制法・騒音規制法・悪臭防止法他の法律があり、地方公共団体も条例を制定している。

[4] ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン、スイス、トルコ

[5] 1985年に欧州閣僚理事会は域内貿易障壁を除去するためのニューアプローチの導入を決議した(New Approach Directives)。この方針に従って、EMC・機械・低電圧等の多数の指令が定められ、商品が欧州規格に適合することをメーカーが宣言し(Declaration of Conformity)、その商品に「CEマーク」を貼付して表示する。商品に貼付することが困難な場合は、包装や取扱説明書に表示することも認められる。

 

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