◇SH1023◇シンガポール:仲裁費用の第三者負担(Third Party Funding)を合法化とする法改正 青木 大(2017/02/17)

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シンガポール:仲裁費用の第三者負担(Third Party Funding)を
合法化とする法改正

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 青 木   大

 

 「Third Party Funding」とよばれる、仲裁費用を第三者が肩代わりすることを可能とする民法等を改正する法律(Civil Law (Amendment) Bill)が2017年1月10日にシンガポール国会を通過した。

 一般に「Third Party Funding」とは、紛争と何ら関係のない資金提供者が、仲裁の申立人との間で、弁護士費用を含む仲裁費用を負担する代わりに、申立人が勝訴した場合に得られる賠償額の一部を受け取ることができるという取り決めを行うことを指す。申立人が敗訴した場合には資金提供者は資金の回収を図れないこととなるため、資金提供者は仲裁手続の帰趨を巡り一定のリスクを負うことになる。他方で、資金力に乏しい申立人にとっては、仲裁を遂行する費用を賄うことができる有効な手段となる。

 従来シンガポールにおいては、中世以来の伝統的な英国コモンロー上の「訴訟幇助禁止の原則(Maintenance and Champerty)」に基づき、Third Party Fundingの取り決めは執行不能と解されてきた。「Maintenance」とはある紛争に関して利害関係を有さないものが当事者を援助すること、「Champerty」とは当該紛争から得られる利益の分配を受領することと引き換えに援助を行うことを意味するが、これらの行為は伝統的にコモンロー上の不法行為を構成し、あるいは、公序に反するため無効と考えられてきたのである。

 しかし、これらの考え方は母国英国及び一部のオーストラリアや米国などでは既に放棄され、現在、英国ではこのような資金提供を行う企業が複数存在し、自主規制を図る事業者団体(Association of Litigation Funders)も設立されている状況である。香港においても合法化に向けた法整備が検討されている。このような状況を受けて、シンガポールとしても法改正に乗り出したものと考えられる。

 改正法はまず、Third Party Fundingがコモンロー上の不法行為を構成するものではないことを明確にし、また、これが公序違反で無効とならないための要件を下位法令に定めることとした。更に資金提供者についても一定の規制を設けることとし、資金提供者となることができる要件等を下位法令に定めることとしている。

 また、弁護士規則(Legal Profession (Professional Conduct) Rules)の改正により、弁護士は依頼者が資金提供者から資金提供を受けている場合には、かかる事実を開示しなければならない義務を負うこととなるものとされている。

 なお、Third Party Fundingは当面、国際仲裁並びにこれに関連する裁判手続及び調停手続においてのみ利用することができ、シンガポール国内仲裁や国際仲裁に関連しない訴訟・調停手続には依然利用することができないものとされている。

 同改正法の施行日は別途官報にて告知されることとなる。具体的にどのような状況においてThird Party Fundingが認められるかについては、今後制定される下位法令の内容を待つ必要がある。

 改正法施行後は、SIACその他シンガポールを仲裁地とする国際仲裁においてもThird Party Fundingの活用事例が出てくることになろうが、Third Party Fundingを活用した申立人から仲裁を提起された場合、勝訴したとしても仲裁費用をその申立人ないしは資金提供者から果たして回収できるかどうかが一つの懸念点となる。仲裁合意の当事者ではない資金提供者に対して仲裁費用の支払いを命じる仲裁判断を得ることは現行法制上は困難が伴う。仲裁手続の早期の段階において、仲裁費用担保提供(Security for Costs)の申立の是非を検討する必要があろう。

 

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