◇SH2434◇ベトナム:日系企業のベトナムビジネスにCPTPPが与えうる影響(2) 井上皓子(2019/03/28)

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ベトナム:日系企業のベトナムビジネスにCPTPPが与えうる影響

(2)サービス分野での市場開放

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 井 上 皓 子

 

2 サービス分野での市場開放

(1) 具体的な変更内容

 1 サービス分野での市場開放にかかる諸原則では、サービス分野での市場開放の概要について説明したが、ここでは具体的な改善点について概要を述べる。

 ベトナムにおける留保事項は、2つの附属書で合計約90頁にわたり列挙されており、CPTPP発効により外資規制の緩和や撤廃の対象となる分野及びその内容は多岐にわたるが、主要なものを以下に掲げる。

分野 CPTPP発効前の規制 CPTPP発効後の規制(改善点)
流通 外資系流通業は、2店舗目以降の小売店の設立について、経済需要テスト(ENT)による個別の出店審査の規制に服する(たばこ、本、新聞、砂糖、米等は自由化の対象から除外)。 ただし、一部の指定地域での500平米未満等小売店であることの一定の条件を満たす場合は、ENTを免除。 一部の指定地域での500平米未満等小売店であることの一定の条件を満たす場合は、ENTを免除。 発効後5年間の猶予期間を経て、2店舗目以降の出店についてもENTを免除。 砂糖及び米の流通禁止の規制を撤廃。
広告業 JV設立及び、同分野の越企業との事業協力契約の形態のみ可。 規制を撤廃。
電気通信業 (非設備ベース) JV設立又は株式投資[1]のみ可。 以下の外資規制あり。 -基本サービス:65%以下 -付加価値サービス:65%以下 (ただしVPNについては70%) 発効後5年以内に、いずれの形態についても外資の出資上限及びJV要件を撤廃。
電気通信業 (設備ベース) 適法にライセンスを取得した企業とのJV設立又はそれに対する株式投資のみ可。以下の外資出資規制あり。 -基本サービス:49%以下 -付加価値サービス:50%以下 付加価値サービス:発効後5年以内に、いずれも外資の出資上限を65%まで引き上げ。(基本サービスについての外資出資上限は従前通り)
高等教育、成人教育その他の教育サービス(外国語教育を含む) 技術、自然科学、テクノロジー、事業管理、事業調査、経済学、会計、国際法律、語学訓練の各分野のみ外資に開放。 国家安全、政治経済、宗教、ベトナム文化等ベトナムの公衆倫理に関わるものを除き、外資に開放。
劇場、ライブハウス、サーカス等の娯楽サービス 外資49%以下のJV設立又は株式投資の形態のみ。 発効3年後に、JV設立又は株式投資の形態による外資の出資上限を51%まで引き上げ。
電子ゲームサービス 事業協力契約又はJVの形態のみ可。 JV設立の場合の外資の出資比率は49%以下。 事業協力契約、JV設立又は株式投資の形態を許可。 このうち、インターネット経由で提供される電子ゲームサービスについては、以下のとおり緩和。 -発効後2年以内:51%まで引き上げ
-発効から5年後:外資規制を撤廃
海運補助サービス (通関サービス) 出資比率100%未満のJV設立のみ可。 外資規制を撤廃し、100%外資企業にも開放。
運送に係る補助的サービス (貨物運送仲介・貨物検査・コンテナ保管・倉庫等) ベトナム企業とのJV又は出資(出資比率100%未満)に限定。 外資規制を撤廃し、100%外資企業にも開放。
海上運送(旅客、貨物) 外資会社の提供できる業務内容を限定。 カボタージュは約束無し 業務内容に関する限定を解除。 但しカボタージュを除く。
不動産の賃借及び転貸(また貸し) 自由化約束無し。 不動産(倉庫、工場、事務所等)の賃貸及び転貸について自由化。
研究・開発サービス(自然科学以外) 自由化約束無し。 留保せず、自由化。
運転者を伴わない賃貸サービス(航空機以外) クロスボーダーでのサービス提供については、工業機械の賃貸サービスのみ約束。 クロスボーダーによるサービス提供については、工業機械に限定せず全て留保せず、自由化。 投資の形態によるものについては留保。
製造業(自動車、紙生産) 自動車の製造・組立や紙生産などは一括して将来留保。 座席数29席以上のバス等の運送用車両の組立・製造及び紙生産について将来留保。
オーディオ(録音) 自由化約束無し。 外資の出資上限を51%まで引き上げ。

 この中でも、以下の2点については特に従前から特に関心の高かったところであり、規制の緩和が注目される。

  1. a. 小売流通分野におけるENTの将来的な廃止
  2.   スーパー等の小売流通サービスについては、WTOコミットメントにより、2009年1月から100%外資企業にも開放されることとなったが、他方で、2店舗目以降の小売店を設立する場合には、出店地域の店舗数や当該地域の規模等に基づいて出店の可否が審査されるという経済需要テスト(いわゆるENT)によって個別にその可否が判断されるという規制が課せられた。しかし、その判断基準が法令上必ずしも明確ではなく、当局の広範な裁量によって判断されることとなる結果、外資企業は2店舗目以降の店舗の開設計画を立てることが事実上困難な場合があるとされてきた。ENTについては、2013年6月に施行した通達08/2013/TT-BCTにより、面積500平米未満等の一定の条件を満たす店舗については免除され、昨年1月15日に施行した政令09/2018/ND-CPにより免除の要件が多少変更されるといった変遷を経てきたが、未だ不透明な部分も残されており、外資企業がベトナムで小売流通業を拡大する大きなハードルの一つとなってきた。
    CPTPPの発効により、ENTは段階的ではあるものの5年後には廃止されることが約束され、今後は外資小売流通業の積極的な進出・拡大が期待される。
     
  3. b. 通関サービスの外資開放
  4.   従来、海運補助サービスのうち通関サービスについては、ジョイントベンチャー又は同分野へのベトナム企業への出資(100%未満)を通じてのみ行うことができるとされていたが、これらの外資規制が撤廃されることとなった。今後は、通関サービスについても、日本企業の100%出資により行うことが認められる。

[1] WTOコミットメントにおいては、JV設立のみを認めており、株式投資については明示的には認められていなかった。ただし、実務的には、法令上の根拠はないものの、JV設立がコミットされている分野については、株式や持分購入などによるM&Aも認められてきた。今般のCPTPP発効によって、株式等の購入による投資形態が明示的に認められ、法令上の根拠をもって行うことが可能となった。

 

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