経産省、「企業における営業秘密管理に関する実態調査」の結果公表
岩田合同法律事務所
弁護士 森 駿 介
経済産業省及び独立行政法人情報処理推進機構は、営業秘密の保護強化に資する有効な対策の検討を進めるために、企業における秘密情報の漏えいの実態や営業秘密の管理に係る対策状況を把握するための調査(以下「本件調査」という。)を実施し、平成29年3月17日、その調査結果をまとめた「企業における営業秘密管理に関する実態調査-調査報告書-」(平成29年3月17日)(以下「本件報告書」という。)を公表した。本件調査が実施された背景には、最近も様々な業種・規模の企業において営業秘密の漏えい被害が発生していることが報道される中、その漏えいルート・手段が多様であるがゆえに企業側も対策に苦慮し、必ずしも有用な対策が実施されていない状況があった。
本件調査は、調査期間を平成28年10月~平成29年1月とし、無作為に抽出した12,000社に対してアンケート調査票を郵送する方法により行われ、2,175社から有効回答を得ている。その内訳は下表のとおりである(ただし、業種又は従業員数が無回答の24社は表に含まれていない)。
製造業 | 非製造業 | |
大規模企業(従業員301名以上) | 449社 | 599社 |
中小規模企業(従業員300名以下) | 433社 | 670社 |
本件報告書によれば、8.6%の企業が過去5年間に営業秘密の漏えいを経験しているとのことだが、漏えい対策については、中小規模企業では大規模企業と比較して、全体に取組が遅れている実態が明らかとなった。ただし、大規模企業においても、「不自然なアクセスの上司/本人への通知(20%前後)」といった対策にはまだ十分に取り組めていなかった。
また、営業秘密の漏えいが発生した場合に不正競争防止法上の保護を受けるためには、漏えいした情報が、①秘密管理性、②有用性、③非公知性の3要件を満たし、同法2条6項の「営業秘密」に該当する必要がある。このうち、秘密管理性は、秘密保持のために必要な管理をされていたか(アクセス制限の存在)や情報にアクセスした者にそれが秘密であると認識できるようにされていたか(認識可能性の存在)により判断されるが、全ての情報について秘密管理性が肯定されるレベルで厳格に管理することは管理コストの増大や業務への支障の点から現実的ではない。したがって、営業秘密として管理する対象とそうでない対象を区分し、前者についてのみ厳格な管理を行うのが実務的かつ効率的であるが、本件報告書では、こうした情報区分がしっかりできている企業ほど具体的な漏えい対策に関する取組も進んでいる傾向が指摘されており、その重要性が再認識された。
さらに、情報保護体制を巡る注目すべき動きとしては、経産省が、本件調査と並行して、データ保護を強化する不正競争防止法の改正作業を進めていることが挙げられる(平成29年3月15日付日本経済新聞朝刊5頁)。本件報告書においても、漏えいリスクを感じる社会動向変化として、「スマートフォン・タブレット機器等の急速な普及(51.4%)」(2位)や「データの活用機会の増加(41.8%)」(3位)などが上位に挙がっているが、上記改正作業の背景にも、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」技術やスマートフォンの普及で価値を生むデータの取引が増えている実態がある。現行の不正競争防止法は、上記のとおり、世に知られていない非公知性が認められる情報のみを保護の対象としているが、経産省は、同法を改正し、売買の対象となり非公知でなくなったデータについても、これを不正に取得する者に対して損害賠償やデータ利用の差止めを求められるようにし、データ保護を強化する方針である。また、経産省は、不正競争防止法の改正作業と並行して、同法の運用指針も改定し、データや人工知能(AI)の保護を手厚くすることを予定しているとのことであり、今後も情報保護体制強化の動きから目が離せない。
以 上