公取委、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」を改正
−−実態に即し、わかりやすく汎用性があり利便性の高いガイドラインへ−−
公正取引委員会は6月16日、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(平成3年7月11日公正取引委員会事務局。以下「流通・取引慣行ガイドライン」)を改正した。
公取委では、「流通・取引慣行と競争政策の在り方に関する研究会」(座長=土井教之・関西学院大学名誉教授)を開催して、制定から約25年経過した「流通・取引慣行ガイドライン」について、わが国における流通・取引慣行の実態に即した見直しを検討してきた。そして、同研究会が平成28年12月16日に取りまとめた報告書において、「最近の流通実態を踏まえつつ、分かりやすく、汎用性のある、事業者及び事業者団体にとって利便性の高い流通・取引慣行ガイドラインを目指すべき」とされたことを受け、4月7日にその改正案を公表し、各界に意見募集をしていたところである。
公取委は、今回の意見募集で提出された意見を踏まえて改正案を一部変更した上で、今般、「流通・取引慣行ガイドライン」を改正し、公表したものである。
今回の改正では、構成の変更、適法・違法性判断基準のさらなる明確化等が行われている。以下、改正のポイントを紹介する。
改正のポイント
1 構成の変更
(1) 三部構成について
事業者・事業者団体の利便性向上の観点等から、同一の適法・違法性判断基準に基づき判断される行為類型を統合するなどして、改正前ガイドライン第2部(流通分野における取引に関する独占禁止法上の指針)を中心として再構築した。
具体的には、改正前ガイドライン第2部の題名を、「取引先事業者の事業活動に対する制限」と改めた上で、第1部とした。改正前ガイドライン第2部第2の2「流通業者の競争品の取扱いに関する制限」に、改正前第1部のうち垂直的制限行為に係る記載(第4「取引先事業者に対する自己の競争者との取引の制限」および第6の1「対抗的価格設定による競争者との取引の制限」)を統合した。
改正前ガイドライン第1部の前述した部分以外のうち、第1「顧客獲得競争の制限」、第2「共同ボイコット」および第3「単独の直接取引拒絶」を、新たに第2部「取引先の選択」とした。
第3部については、題名を「総代理店に関する独占禁止法上の指針」から「総代理店」としたが、その位置づけは基本的に維持した。
(2) 各行為類型について
① 削除した行為類型
過去に問題となった審判決例や相談事例がない項目や、別途他のガイドラインが存在する項目は原則として削除した。
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○ 削除した行為類型
改正前ガイドライン第1部
・第5 不当な相互取引
・第6の2 継続的な取引関係を背景とする優越的地位の濫用行為
・第7 取引先事業者の株式の取得・所有と競争阻害改正前ガイドライン第2部
・第4 流通業者の経営に対する関与
・第5 小売業者による優越的地位の濫用行為
② 新たに追加した行為類型
抱き合わせ販売については、具体的措置事例や相談事例が複数あることから、項目として新たに追加した。
(3) 構成の変更に伴う一般化
消費財を前提とした「メーカーによる流通業者に対する垂直的制限行為」を中心とした整理から、「事業者による取引先事業者に対する垂直制限行為」といった、より一般的な整理の下で構成変更を行うこととした。このため、一般化できる部分については、基本的に行為者を「事業者」、被行為者は「取引先事業者」とするなどの用語の整理を行った。
2 適法・違法性判断基準のさらなる明確化
(1) 分析プロセスの明確化
ガイドラインの分析プロセスをさらに明確化するという観点から、その考え方は維持しつつ、可能な限りわかりやすくなるよう、以下のような整理を行った。
① 垂直的制限行為に係る適法・違法性判断基準の考え方
垂直的制限行為は、公正な競争を阻害するおそれがある場合に違法であるとした。その判断については、垂直的制限行為に係る取引およびそれによる影響を受ける範囲を検討した上で、
- ・ ブランド間競争の状況
- ・ ブランド内競争の状況
- ・ 事業者の市場における地位
- ・ 取引先事業者の事業活動に及ぼす影響
- ・ 取引先事業者の数および市場における地位
を総合的に判断し、競争阻害効果に加え、競争促進効果も考慮することとした。
② 公正な競争を阻害するおそれ
垂直的制限行為のうち「再販売価格維持行為」は、「通常、競争阻害効果が大きく、原則として公正な競争を阻害するおそれのある行為」であるとした。一方、「非価格制限行為」については、(ア)当該行為を行う事業者の市場における地位等から、「市場閉鎖効果が生じる場合」や「価格維持効果が生じる場合」といった公正な競争を阻害するおそれがある場合に当たるか否かが判断される行為と、(イ)原則として公正な競争を阻害するおそれがある行為に分類されるとした。
このうち(イ)については、「安売り業者への販売禁止」、「価格に関する広告・表示制限」等がこれに該当することを明記した。
さらに、ビジネスモデルの多様化に対応できるようにするために、内容をさらに明確化し、特に「市場閉鎖効果」の考え方について、経済学的な考え方を踏まえ、内容を充実化した。また、原則として違法となる行為類型の考え方や、セーフ・ハーバーの対象となる行為類型についても明確化した。
(2) オンライン取引に関連する垂直的制限行為
インターネットを利用した取引は、実店舗の場合と比べ、より広い地域やさまざまな顧客と取引することができるため、事業者にとっても顧客にとっても有用な手段である旨や、インターネットを利用した取引か実店舗を利用した取引かでその考え方を異にするものではない旨を明記した。
また、プラットフォーム事業者による垂直的制限行為についても、基本的な考え方は同じであり、その適法・違法性判断に当たっての考慮事項として、ネットワーク効果を踏まえた市場における地位等も含まれる旨を明記した。
(3) 審判決例や相談事例の積極的な活用
事例については、可能な限り事業者の理解の助けになるよう、以下のようなものを追加した。
- ① 相談事例において独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例(萎縮効果を緩和し、一層の利便性の向上に資する)
- ② 審判決例について、抱き合わせ販売(主たる商品・従たる商品の具体例)、共同ボイコット(不公正な取引方法または私的独占を適用したそれぞれの具体例)等の事例
改正後の「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」の構成
はじめに
第1部 取引先事業者の事業活動に対する制限
1 対象範囲
2 垂直的制限行為が競争に及ぼす影響についての基本的な考え方
3 垂直的制限行為に係る適法・違法性判断基準
第1 再販売価格維持行為
1 考え方
2 再販売価格の拘束
3 流通調査
第2 非価格制限行為
1 考え方
2 自己の競争者との取引等の制限
3 販売地域に関する制限
4 流通業者の取引先に関する制限
5 選択的流通
6 小売業者の販売方法に関する制限
7 抱き合わせ販売
第3 リベートの供与
1 考え方
2 独占禁止法上問題となる場合
第2部 取引先の選択
第1 顧客獲得競争の制限
1 考え方
2 事業者が共同して行う顧客獲得競争の制限
3 事業者団体による顧客獲得競争の制限
第2 共同ボイコット
1 考え方
2 競争者との共同ボイコット
3 取引先事業者等との共同ボイコット
4 事業者団体による共同ボイコット
第3 単独の直接取引拒絶
1 考え方
2 独占禁止法上問題となる場合
第3部 総代理店
第1 総代理店契約の中で規定される主要な事項
1 独占禁止法上問題となる場合
2 独占禁止法上問題とはならない場合
第2 並行輸入の不当阻害
1 考え方
2 独占禁止法上問題となる場合
(付) 親子会社・兄弟会社間の取引
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公取委、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」の改正について(6月16日)
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h29/jun/170616_01.html -
○「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」の改正について
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h29/jun/170616_01.files/170616_1.pdf -
○ 別紙1 改正前との対比
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h29/jun/170616_01.files/170616_2.pdf -
○ 別紙2 意見の概要及びそれに対する考え方
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h29/jun/170616_01.files/170616_3.pdf -
○ 別紙3 改正(案)からの主な変更点
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h29/jun/170616_01.files/170616_4.pdf -
○ 流通・取引慣行ガイドライン改正のポイント
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h29/jun/170616_01.files/170616_5.pdf -
○ 改正後の「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」全文
http://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/ryutsutorihiki.html -
○ 同PDF版
http://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/ryutsutorihiki.files/ryutsutorihikigl_2017.pdf