コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(10)
――組織文化の革新の理論的考察①――
経営倫理実践研究センターフェロー
岩 倉 秀 雄
前回は、一定の成長を遂げた成熟期の組織の組織文化と経営者の行動について検討した。
成熟期の組織では、創業時の組織文化が定着すると同時に組織を取り巻く内外の環境が大きく変化する(特に、経営者が創業者(家)からゼネラル・マネージャーに交代する)ことから、事業と組織に関する様々な課題が発生することを述べた。そして、シャインの指摘から、筆者が想定する課題(本稿で今後検討することになる)についても言及した。
組織が成熟期に入ると、リーダーの役割として、成長した多用なサブカルチャーも含めた組織文化の管理が必要になり、高度に分化した組織を統合・展開する中で、機能しなくなった要素をどう置き換え、新たな環境適合的な文化的要素をいかに強化していくかが中心テーマになる。そのため、リーダーとリーダーに任命された革新チームは、これまでの組織文化の良さを維持しながら機能不全になった組織文化の革新を同時に進める困難性を克服しなければならない。
今回は、そのような成熟期のリーダーが直面する、組織文化の革新の進め方をについて、シャインの指摘[1]を踏まえて、理論面の考察を行なう。
シャインは、文化変革のモデルを、以下の3段階に分けている。[2]
目 的 | 行 動 | |
第一段階 |
解凍―変化の動機づけを行なう |
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第二段階 |
古い概念にとって代わる新しい概念及び新たな意味の創出 |
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第三段階 |
新しい概念と意味の内面化 |
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<説明>:以下、シャイン(前掲『企業文化―生き残りの指針』118頁~132頁)による。
第一段階・現状否認
人間には、学習し改善したいという本能が事前に備わっていない。成功している組織が大きな変革を行なうためには、メンバーが変革をしようとする気になる何らかの脅威・失敗したという感覚、危機感、不満が必要である。(解凍の過程)
変化が必要なら、何らかの新しい力で組織の均衡状態を揺さぶり変化を促す必要がある。
現状否認の源泉としての不満足及び脅威として、次のものが想定される。
- ①経済的脅威:自分達が変わらない限り、競争に負け市場を失い、損失をこうむる。
- ②政治的脅威:自分達が変わらない限り、より強力なグループが我々を打ち負かし、優位に立つことになる。
- ③技術的脅威:自分達が変わらない限り、時代遅れになる。
- ④法的脅威 :自分達が変わらない限り、刑務所に入れられたり高い罰金を課される。
- ⑤倫理的脅威:自分達が変わらない限り、自分本位、悪徳、社会的責任を果たしていないと見なされる。
- ⑥内面的苦痛:自分達が変わらない限り、自分達の目標や理想を実現できない。
シャインは、生き残りの不安が現れる最も強力なきっかけは、事故や不祥事の発生により、組織の標榜する理想や価値観の一部が実際には機能していない場合で、そのために、実際に働いている深層の価値観(=組織文化の第3段階、岩倉解釈)を再評価することになると述べている。[3]
また、合併・買収・ジョイントベンチャー等により2つ以上の文化が一緒になり協力しなければならない時に、文化革新の必要性に気が付くが、それは組織が一緒になった後であると指摘している。(この合併組織の組織文化に関する考察は、本稿で今後詳述する。)
そして、現状否定をするには、通常のリーダーが言っても信用されず、カリスマ的リーダーが必要であり、従業員や管理職に学習棄却を促し新たなやり方を身につけさせるためには、教育による介入しかないとする。
今回は、シャインの文化変容モデルとその第一段階について紹介した。次回は、引き続き、同モデルの第二段階以降を紹介する。
[1] Edgar H.Schein(1999)”The Corporate Culture Survival Guide(金井壽宏監訳・尾川丈一・片山佳代子訳『企業文化――生き残りの指針』(白桃書房、2004年)117頁~142頁及びEdgar H.Schein(2009)“The Corporate Culture Survival Guide:New and Revised Edition”尾川丈一監訳・松本美央訳『企業文化〔改訂版〕――ダイバーシティと文化の仕組み』(白桃書房、2016年)152頁~165頁及び167頁~182頁
[2] 前掲注[1]『企業文化――生き残りの指針』119頁、図表6・1 変容のモデルを岩倉が表化した。
[3] 前掲注[1]『企業文化――生き残りの指針』121頁。