◇SH1410◇最二小判、県が求償権の一部行使しないことが違法な怠る事実に当たらないとした原審判断が違法とされた事例 徳丸大輔(2017/09/27)

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最二小判(菅野博之裁判長)、県が求償権の一部を行使しないことは
違法な怠る事実に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例

岩田合同法律事務所

弁護士 徳 丸 大 輔

 

 最高裁判所第二小法廷(菅野博之裁判長)は、平成29年9月15日、大分県(以下「県」という。)教育委員会(以下「県教委」という。)の職員らによる教員採用試験の不正行為(以下「本件不正」という。)について、県が本件不正により不合格となった受験生らに対して支払った損害賠償金に関して、県の職員らに対する求償権(以下「本件求償権」という。)を一部行使しないことが違法に財産の管理を怠るものであるとする住民訴訟(地方自治法242条の2第1項3号、以下「本件訴訟」という。)につき、原審[1]を破棄差戻しする判決を行った(以下「本件判決」という。)。

 本件不正の概要は、平成19年度及び平成20年度採用に係る教員採用試験の受験生ら(親等の関係者を含む)から賄賂を供与され、同試験における便宜を図るように依頼を受けた県教委の教育審議監ら幹部が、同試験を担当する義務教育課人事班に所属する部下職員に指示して、依頼の趣旨に沿って当該受験生らを合格させたというものであり、当事者の関係は以下の図のとおりである。

 本件不正に関し、県は、本件不正により不合格となった受験生らに対して損害賠償を支払った後に、平成23年8月、①職員らのうち既に退職をした者について、退職手当の支給の返納命令に基づき返納された事実、②職員らのうち退職をしていない者について、懲戒免職処分を受けたため退職手当が支給されなかった事実、及び③本件不正に関与していない県教委の幹部職員や教育委員有志等から寄付を受けた事実を踏まえ、求償権行使に当たって上記①ないし③に係る額(以下「本件返納額」という。)を考慮することとして、同額分を控除して、本件不正に関与した職員らに求償した。

 県の上記判断について、原審は、県教委には本件不正について一定の責任があることや、公務員の退職手当に賃金の後払いという性格があること等をも考慮すると、本件返納額を求償権行使に当たって考慮することは、過失相殺又は信義則上の制限として合理性を有するから、県がこれに相当する額を求償しないことは違法ではないと判断した。これに対し、本件判決は、本件不正の重大悪質性に鑑みれば退職手当の返納命令及び不支給は正当なものであって、求償すべき金額から当然に控除することはできず、また、原審の指摘する事情は抽象的な事情であり、直ちに過失相殺又は信義則により県による求償権の行使が制限されるということはできないとして、県の教員採用試験において不正が行われるに至った経緯や、本件不正に対する県教委の責任の有無及び程度、本件不正に関わった職員の職責、関与の態様、本件不正発覚後の状況等に照らし、県による求償権の行使が制限されるべきであるといえるか否か等について、更に審理を尽くさせるため、破棄差戻す旨の判断をした。

 本件判決は、県の本件不正に関与した職員に対する求償権を行使するに当たり考慮されるべき要素を挙げており、当該要素自体は本件事案特有のものであると思われる。もっとも、自治体における不祥事のいわゆる後始末としての職員に対する求償権行使を検討するに際し、本件判決が挙げた要素が参考となると思われたことから、紹介する次第である。

 なお、本件判決には、山本裁判官の意見も付されており、求償権から寄付を控除するに当たっての視点が示唆されている点でも参考となると思われる。



[1] 福岡高等裁判所平成27年10月22日判決(平成27年(行コ)第27号、判例秘書登載)

 

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