◇SH1413◇日本企業のための国際仲裁対策(第55回) 関戸 麦(2017/09/28)

未分類

日本企業のための国際仲裁対策

森・濱田松本法律事務所

弁護士(日本及びニューヨーク州)

関 戸   麦

 

第55回 国際仲裁手続の終盤における留意点(10)-仲裁判断その2

7. 仲裁判断

(3) 仲裁判断の記載事項等

 仲裁判断には、必要な記載事項等の要式がある。この要式は、仲裁地の仲裁法規によって定まる。また、当事者の合意と、当事者の合意によって指定された仲裁機関の規則によっても、定められる。

 この要式を欠くことは、仲裁判断の無効、取消等の原因となり得る。日本の仲裁法は、仲裁手続が仲裁地の仲裁法規又は当事者間の合意に違反することを、仲裁判断の取消事由として定めているところ(44条1項6号)、仲裁判断の要式違反はかかる取消事由に該当し得る。

 この要式の具体的な内容であるが、日本の仲裁法は、①書面で作成されること、②仲裁判断をした仲裁人が署名すること、③理由を記載すること(但し、当事者が反対の合意をしたときは、理由は不要となる)、④作成の年月日と、⑤仲裁地を記載することを求めている(39条1項から3項)。

 仲裁機関の規則では、この要式について細かなことは定められないことが多く、例えば、ICCの仲裁規則では、仲裁判断に理由を記載することが求めらる程度である(32.2項)。日本の仲裁法より多くを定めているものとして、JCAA規則があるが、上記①から⑤のほかに求められているものは、⑥当事者の氏名及び住所、⑦代理人がある場合は、その氏名及び住所、⑧主文である(61条2項1号から3号)。

 なお、上記のほか、仲裁判断に一般的に記載される事項としては、以下のものがある。

  1.    仲裁人の氏名及び住所
  2.    仲裁合意の内容ないし引用
  3.    準拠法及び適用される仲裁規則の特定
  4.    仲裁手続の経緯(時系列を記載)
  5.    当事者の主張の要旨

 仲裁判断の中で、最も注目を集めるのは、言うまでもなく主文(結論部分)である。主文の形式としては、当事者の請求を全て認容するもの、一部認容するもの、棄却するものの三通りがある。当事者の請求を認容するものの典型は、金銭の支払いを命じるというものであるが、それ以外にも、物の引渡等の履行(specific performance)を命じるもの、差止を命じるもの(injunctive relief)、具体的な行為は命じずに確認的な判断をするもの(declaratory relief)等がある。

 また、主文では、申立人及び被申立人間のコストの負担(いずれの当事者が、いかなる割合で、いかなるコストを負担するか)について、示されることが通常である。国際仲裁では、弁護士費用の敗訴者負担が命じられることが多く、すなわち、勝訴当事者が支出した弁護士費用の負担を、敗訴当事者に命じられることが多い。

 なお、日本の民事訴訟の判決では、主文は冒頭に記載されるが、国際仲裁では、主文は仲裁判断の末尾に記載されることが一般的である。

(4) 仲裁判断に関する仲裁廷の義務と権限

 仲裁判断に関する仲裁人の義務としては、仲裁判断が有効となるように努力するべき義務がある。仲裁判断の有効性が否定される(無効、取消等の対象となる)ことは、仲裁手続の成果が無意味になる事態であるから、避けるべきものである。かかる仲裁人の義務が、仲裁機関の規則で明示されている例もある(例えば、HKIAC規則13.8項)。

 仲裁判断の有効性を確保する上で重要なこととしては、まず、前記(3)の要式を満たすことがある。また、一般に仲裁判断の記載が不明確である場合には、有効性が否定されるおそれが高まることから、明確な記載を意識することも重要である。

 仲裁廷の権限に留意することも重要である。仲裁廷の権限は、当事者の仲裁合意の内容と、仲裁手続における当事者の請求内容の範囲内に限定される。仲裁判断がこの範囲を超えた場合には、仲裁判断の取消事由となる(日本の仲裁法44条1項5号参照)。

 仲裁廷の権限は、最終の仲裁判断(final arbitral award)を発した後は、基本的に失われると解されている(「functus officio doctrine」と呼ばれている)。したがって、最終の仲裁判断を発した後に、その内容を仲裁廷が修正することはできない。日本の仲裁法も、仲裁廷が最終の仲裁判断を発することによって、仲裁手続が終了し、仲裁廷の任務が終了すると定めている(40条3項)。その後仲裁廷ができることは、後記(5)の仲裁判断の誤記等の訂正、解釈、追加判断に限られる。

(5) 仲裁判断の訂正、解釈、追加判断

 日本の仲裁法は、仲裁廷が、当事者の申立てにより又は職権で、仲裁判断の訂正をすることができると定めているところ、その対象は、計算違い、誤記その他これに類する誤りに限られている(41条1項)。前記(4)のとおり、仲裁廷は、最終の仲裁判断を発した後に、その内容を修正することはできない。訂正の対象が、形式的な点に限られることは、仲裁機関の規則上も同様である(ICC規則36.1及び36.2項、SIAC規則33.1及び33.2項、HKIAC規則37.1から37.3項、JCAA規則63条)。

 また、仲裁判断の訂正には、少なくとも当事者からの申立による訂正については、期間制限がある(日本の仲裁法上は、申立期間は仲裁判断の通知を受けた日から30日間である。41条2項)。

 次に、仲裁判断の解釈というのは、当事者からの申立に基づき、仲裁判断の特定の部分について、仲裁廷が解釈を示すというものである。これは仲裁判断の内容を何らか変えるものではなく、仲裁判断の特定の部分についてその意味ないし内容を明確にするものである。この仲裁判断の解釈についても、期間制限がある(日本の仲裁法上の定めは、申立期間は仲裁判断の通知を受けた日から30日間である。42条3項、41条2項)。 

 追加判断とは、前回(第54回)の7(1)項において述べたものであり、最終の仲裁判断に漏れがあり、本来判断するべき事項について判断がなかった場合には、仲裁廷がこれを補充する仲裁判断を発するというものである。これは、当事者の申立に基づき行われるところ、この申立についても期間制限がある(日本の仲裁法上は、申立期間は仲裁判断の通知を受けた日から30日間である。43条1項、41条2項)。

以 上

タイトルとURLをコピーしました