インドネシア:特許権者の特許技術使用義務
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 小 林 亜維子
2016年8月26日に改正特許法(2016年法律第13号)が施行されたことは、前川陽一弁護士の記事SH0799インドネシア:特許法の改正(2016/09/15)において解説がなされたが、同法20条の規定する特許権者が当該特許を受けた物を製造し、又は方法を使用する義務に関する大統領令の案(以下、「本法令案」という。)が法務人権省の知的財産総局によって2016年8月に公表され、現在、政府において審議がなされている。そこで、今回は、本法令案に定める特許権者の義務について紹介する。
1. 特許権者の義務
本法令案は、技術の移転、投資の実現及び国内における雇用の機会の確保を究極的な目的としており、特許権者にインドネシア国内における特許技術を使用することを義務付けるとともに、当該義務の履行を延期することができる場合を規定している。
本法令案が定める特許権者とは、特許保有者である発明者、特許保有者から当該特許にかかる権利を受継いだ者、及びその他特許権を有し、特許一般登録簿に登録された者である。そして、本法令案は、特許権者に対して、インドネシア国内において特許を受けた物の製造又は方法を使用する義務を規定し、かかる特許技術の使用によって、技術の移転、投資の実現及び雇用の機会が提供されなければならないとしている。
2. 義務履行の延期
もっとも、特許権者が特許技術を使用することができない場合には、特許使用の延期を申請することができる。特許使用の延期が認められうる特許技術を使用することができない場合とは、(ア)特許権者が特許を使用する能力を有していない場合、又は(イ)特許使用によって特許権者が当該使用に応じた経済的価値を得られない場合である。
特許使用の延期の申請は、法務人権省の大臣に対して、特許が付与された日から24か月後、30か月以内に行う必要がある。法務人権省の大臣によるかかる申請に対する承認は、特許が付与された日から36か月より後にしか行われない。また、特許使用の延期の申請は、1回につき1つの特許についてのみ行うことができる。
特許使用の延期の申請がなされた場合、法務人権省の大臣によって選定されたチームによって審査され、法務人権省の大臣は、当該審査を経て、申請を承認するかどうかを判断する権限を有している。
特許使用の延期の申請に関するより具体的な手続きについては、法務人権省の規則によって定めるものとされている。
今回公表された本法令案には、不明確な規定がなお存在しているため、現在知的財産総局は本法令案に対するフィードバックを受けている。そのため、実際に大統領令として施行されるまでに本法令案には修正が加えられるものと考えられ、今後も経過を追う必要がある。