◇SH1418◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(14)-組織文化の革新の理論的考察⑤ 岩倉秀雄(2017/10/03)

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 コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(14)

――組織文化の革新の理論的考察⑤――

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、古い概念に変わる新しい概念を学ぶメカニズムについてシャインを基に検討し、(1)組織が組織文化の革新を成功させるためには、新しい概念や価値観を組織成員に内面化  させる必要があること、(2)そのためには、組織の成員に心理的安全性を生み出すとともに、新しい行動を明確に定義し、その行動が自分と組織にとってより望ましい結果をもたらすという確信を持たせる必要があること、(3)経営トップが、行動を主導し、社会の求める方向と一致していることを認識させる必要があること等、を述べた。

 今回は、成熟期の組織における組織文化革新のメカニズムについて考察する。

 

1. 組織文化革新のメカニズム

 成熟期の組織における組織文化の革新では、様々なサブカルチャーが発達し機能不全となる文化的要素も生まれていることを踏まえ、古い考え方や行動様式の学習棄却が必要になるが、それに対する抵抗も生まれる。

 筆者の実践経験では、リーダーの強力なコミットメントとリーダーにより任命された革新チームの移行過程の管理が、特に重要になると思われる。シャインは、これを「計画・管理された文化変革」と呼び、チェンジリーダーと革新チームが同時並行的に作用する体系的プロセスが必要であるとする。[1] その際、革新チームを組織の境界に位置づけ、新しい考え方に触れさせることにより、既存の文化の強みと弱みを客観的に判断できるようにすることが重要であると述べている。

 文化革新の手順は、1.革新の必要性の確認→2.どんな組織になりか(理想的将来像)→3.そのために誰が、何をしなければならないか(現状と理想のギャップを埋める方法を考える)→4.移行過程の管理(移行過程で生じる混乱・抵抗・対立を削減する)(下図参照)となる。

 

2. 各段階における留意点

 上記の各段階における留意点は、以下の通りである。

(1) 革新の必要性の確認

 否定的確認がある程度まで高まると、リーダーは革新の必要性を認識し革新チームを始動する。革新チームはそれまでの行動様式を再確認し、否定的確認のデータは有効であり、革新プログラムの始動が必要であることを保証しなければならない。革新のための組織としては、革新のための委員会を組織して革新チームがその事務局になるケースもある。

(2) どんな組織になりたいのか

 組織の理想的将来像は、リーダーによって既に示されている場合も委員会によって示される場合もある。革新チームは、コンセプトを評価して、将来ビジョンを明確で行動につながるものに評価・翻訳し、保証なければならない。

(3) そのために、誰が、何をしなければならないのか

 革新チームは、現状を評価して組織の理想とのギャップを明らかにし、やるべきことを計画する。その際、客観性を確保するために、並行学習システムの構築や理想像を理解した上で現状を評価することが重要である。[2]

(4) 移行過程の管理

 革新チームは理想の将来像を実現するための、推進力と抑止力を明確にして、それに対処しなければならない。筆者も、拙著[3]で「移行過程のマネジメント」のテーマで革新を阻むものとして、抵抗、混乱、対立の発生とこれに対する対応について考察した。(これらについては、後に詳細に検討する) なお、革新は、推進力>抑止力でなければ推進できない。

 なお、抑止力を削減するためには、抵抗や学習不安を取り除き心理的安全性を確保することであることは、既述したとおりである。

 

図. 組織文化革新のメカニズム

※シャイン[4]をベースに岩倉が作図

 

 今回は、成熟期の組織の文化革新のメカニズムについて、概略を考察した。次回以降は、近年増加している合併組織の組織文化について、筆者の経験を踏まえて実践的に考察する。



[1] Edgar H.Schein(2009)“The Corporate Culture Survival Guide : New and Revised Edition ”尾川丈一監訳・松本美央訳『企業文化〔改訂版〕――ダイバーシティと文化の仕組み』(白桃書房、2016年)150頁。

[2] シャイン・前掲[1] 156頁。

[3] 岩倉秀雄『コンプライアンスの理論と実践』(商事法務、2008年)。

[4] シャイン・前掲[1] 145頁~156頁による。

 

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