◇SH1411◇フィリピン:ネガティブリスト改正に向けた動き 坂下 大(2017/09/27)

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フィリピン:ネガティブリスト改正に向けた動き

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 坂 下   大

 

 外国投資家がフィリピン事業への投資を行うに際しては、まず外資規制の適用の有無を確認する必要がある。フィリピンにおける外資規制は主として外国投資法(Foreign Investment Act of 1991)及びネガティブリストとよばれる大統領令において定められており、このネガティブリストに具体的な外資規制対象分野(外国人の就労が禁止されている分野を含む。)及び外資比率の上限が列挙されている。ネガティブリストはリストA及びリストBという2種類のリストによって構成され、リストAには憲法及び法律により外資の参入が制限されている事業分野、リストBには安全保障、国防、健康及び倫理、並びに中小事業主の保護の観点から外資の参入が制限されている事業分野がそれぞれ列挙されている。

 ネガティブリストは数年ごとに改正がなされており、現在有効なネガティブリストはアキノ前大統領時代の2015年5月に制定された第10次ネガティブリスト(大統領令第184号)である。(リストA及びBの概要は本稿末尾参照。あくまでも主たる規制対象事業の概要の紹介に留まり、必ずしもリストの全項目を網羅的に記載しているものではない点ご留意いただいきたい。なお、リストの(本文ではなく)脚注において一定の制限が設けられている事業分野も一部含めている。)現ネガティブリストは、実質的には従前の規制(第9次ネガティブリスト)に比して大きな変化を伴うものではないという評価もなされていたところである。

 現ネガティブリストの制定から2年以上が経過した昨今、ドゥテルテ政権下で初となるネガティブリストの改正に向けた準備が政府内で進められている。従前は、2017年9月中にはその内容が定まる予定であるとも報道されていたところであるが、去る9月14日、国家経済開発庁(NEDA)のペルニア長官は、新ネガティブリストの現在の政府草案は、積極的な外資規制緩和という方針に照らして不十分であり、さらに外資(外国人)に開かれた、かつ他のアセアン諸国に引けをとらないレベルの内容となるよう修正すべき旨の意向を関係者に伝達した旨コメントした(ネガティブリストの制定には、関係当局の提案を受けたNEDAの承認と、これを踏まえた大統領の承認が必要である。)。現在の政府草案は公開情報とはなっていないが、上記ペルニア長官のコメントによると、小売、専門職、公営事業、請負サービス等の事業分野において、さらなる外資規制の緩和が必要であると関係者に伝えられた模様である。このような次第でネガティブリスト改正は一部報道により想定されていたタイミングからは後ろ倒しになるが、ペルニア長官のコメントによると、2017年内には新ネガティブリストの内容を確定させ、これを制定すべく準備を進めているとのことであり、引き続き改正の動向を注視していく必要があろう。

 

[第10次ネガティブリストの概要]

リストA
外資上限 事業分野

全面的に禁止

  1. • レコーディングを除くマスメディア
     
  2. • 専門職
    1. ▶ エンジニア(例:航空、農業、科学、電気、電気通信、測量、機械、金属、鉱山、造船、衛生)
    2. ▶ 医療関係(例:医療技術、歯科、看護、栄養士、薬剤師)
    3. ▶ 会計士
    4. ▶ 建築士
    5. ▶ 環境設計
    6. ▶ 山林管理
    7. ▶ 地質調査
    8. ▶ 内装設計
    9. ▶ 弁護士
    10. ▶ 社会福祉
    11. ▶ 教師
    12. ▶ 農業
    13. ▶ 漁業
    14. (注:フィリピン人による当該分野への就業を認めていない国の者による就業のみが禁止されている分野も一部含む。)
       
  3. • 払込資本250万米ドル未満の小売(ただし、高級品の小売を伴う場合は除く)
     
  4. • 民間警備
     
  5. • 小規模鉱業

20%

  1. • 民間ラジオ通信ネットワーク

25%

  1. • 雇用斡旋
     
  2. • 国内で資金供与される公共事業の建築・修理

30%

  1. • 広告

40%

  1. • 天然資源の調査・開発・利用
     
  2. • 土地の所有
     
  3. • 公営事業の管理・運営
     
  4. • 教育機関の保有・設立・運営
     
  5. • 米・とうもろこしの栽培・生産・製粉・加工・販売(小売は除く)

60%

  1. • 証券取引委員会(SEC)管轄下のファイナンス会社
     
  2. • 証券取引委員会(SEC)管轄下の投資会社

 

 

リストB
外資上限 事業分野

40%

  1. • フィリピン国際警察(PNP)の許可を要する製品・原料の製造・修理・保管・流通(例:銃器、火薬、ダイナマイト)
     
  2. • 国家防衛省(DND)の許可を要する製品の製造・修理・保管・流通(例:軍用兵器、宇宙ロケット・部品、軍艦、軍用通信機器)
     
  3. • 危険薬物の製造・流通
     
  4. • 払込資本20万米ドル未満の国内市場向け事業
     
  5. • 先端技術を有する、又は50名以上を直接雇用し、資本金額10万米ドル未満の国内市場向け事業

 

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