コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(35)
―困難なテーマに取り組んだ運動推進事務局員の反応―
経営倫理実践研究センターフェロー
岩 倉 秀 雄
前回は、運動の第2ステップである「『新生・○○』を考える」として「総合的に見て一番望まれる組織の姿は何か」、「それを実現するための課題は何か」に関する職場討議結果について述べた。今回は、職場討議としては抽象的で困難性の高いこのテーマに取り組んだ現場の運動推進事務局員の声について述べる。
【困難なテーマに取り組んだ運動推進事務局員の反応】
職場討議は、具体的なテーマの方が進めやすい。しかし、時には組織の未来に関わる抽象的なテーマに取り組むことも必要になる。組織成員にとって、単なる組織に対する不平不満ではなく、自分の属する組織の未来やあるべき姿を考え、それを経営が汲み取るかもしれないと期待をいだきつつ討議できる機会は、あまり多くはない。
この組織文化革新運動を企画・推進した筆者の意図は、不祥事をきっかけとして組織の存在価値を確認し不祥事により求心力を失いつつある組織の結集力を強化するとともに、不祥事を発生させた組織の在り方を反省し組織本来のあるべき姿を考え、それを職場討議により共有化して組織文化に浸透させ、今後の経営に役立つ組織戦略やその実行を支える諸制度の改革に反映させることにあった。
運動の第2ステップは、組織はどうあるべきかという普段はあまり議論しないが、未来につながる重要テーマについての討議だった。普段は業務に忙殺されている現場にとって、議論のハードルは上がった。しかし、中心となって議論をリードした現場の運動推進事務局員は、意見を引き出すのに苦労しつつも手ごたえを感じ熱心に取り組んだ。
その運動推進事務局員の現場の声を下表にまとめて示す。
表.第2ステップ「組織のあるべき姿」に取組んだ運動推進事務局員の声
(チャレンジ「新生・○○」運動NEW No.2を基に筆者がまとめた)
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以上の感想を受け、筆者は、「この組織は健全であり、この運動を継続できれば、これまでの酪農と乳業という事業ごとで異なる閉鎖的な組織文化を改め、事件を踏まえて今回作成した新たな組織理念と行動規範を基に、組織全体が一体となって結集する組織文化を構築することができるのではないか」という手ごたえを感じた。
このように、第2ステップの「新生・○○を考える」は、難しいテーマであったが、組織成員の熱心な議論により盛り上がった。
しかし、次の第3ステップ「行動を考える」の議論を始めた頃、事件を発生させた両工場の関係者が書類送検され、元工場長と法人としてのこの組織は起訴された。
そのため、メディアの大々的な報道が再燃し組織は再び社会的非難を浴び、組織成員は意気消沈した。
次回は、厳しい状況下で出発した運動の第3ステップ「行動を考える」について述べる。