◇SH3774◇契約の終了 第17回 継続的保証における契約の終了(上) 上河内千香子(2021/10/04)

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 契約の終了
第17回 継続的保証における契約の終了(上)

                            駿河台大学教授

上河内 千香子

 

Ⅰ 問題提起

 わが民法典は、保証を多数当事者の債権関係の一種として位置づけている。それは、主たる債務者と保証人という複数債務者が債権者に向かい合う形態に着目したためであるが、比較法的には、保証を債務発生原因の側からとらえて、典型契約の一つとして契約法に規定するものも少なくない[1]。また、わが国においても、かつては、446条1項において、「保証人は主たる債務者がその債務を履行せざる場合においてその履行をなす責めに任す」と定めて、保証を、専ら多数当事者間の債権・債務として位置づけていたが、2004年の民法改正の際に、上記の規定に加えて第2項において保証契約の書面要件を定めて、立法的にも契約としての視点を取り入れている[2]

 本稿においては、このような保証契約のなかでも、特に、継続的保証について、「契約の終了」を検討するものである。継続的保証契約は、貸金契約、継続的売買取引、賃貸借契約、雇用契約など、主たる債務の発生原因が継続的契約である場合の保証契約であるが、担保としての役割を担うと同時に自らも継続的契約であるという特徴を備えている。また、上記のように、民法上、保証は「債務」と位置づけているため、保証債務の履行を契約の終了に直接的に結びつけることはできないという問題もある。

 本稿においては、上記のような継続的保証の特徴に着目した上で、継続的保証における契約の終了とは何かについて考察する。具体的には、まず、において、本稿の検討対象とする保証について確認を行う。本稿のタイトルでは継続的保証という用語を用いているが、同様の保証形態について根保証という用語が用いられる場合がある。それ故に本稿の検討の前提として両者の相違を確認することとする。次に、において、継続的保証における債務の確定について検討する。継続的保証が対象とする保証は、個人保証については根保証規定(465条の2以下)に服することとなるが、その関係で継続的保証の債務はどのように確定されるのか、また、継続的保証については、判例上、保証人による解約権行使が認められてきたが、当該解約権は契約の終了との関係でいかなる意義を有するのかを検討する。その上で、においては、継続的保証における債務の終了と契約の終了の関係を検討する。で確定した債務は、履行等を通じて消滅する。しかし、上記のように、保証については、債務の消滅を継続的保証における契約の終了と考えることはできない。それ故に、従来の債務の消滅と契約の終了の見解を手がかりに継続的保証における債務の終了と契約の終了の関係を検討する。さらに、においては、で検討した債務の終了との関係以外の観点から契約の終了を考える。継続的保証について契約の終了を本格的に論じた学説は見受けられないが、身元保証法制定以前の永続的な身元保証について契約の終了に言及した裁判例、近時のものとしては、事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則において、保証契約の解約を認めるルールが存在する。本項目では、上記の事例が示す契約の終了とは何かを分析する。そして、以上の分析を踏まえた上で、において、継続的保証における契約の終了とは何かを総括することとする。

 

Ⅱ 検討対象とする保証―継続的保証と根保証―

 継続的保証は、継続的債権関係たる性質を有する保証のことであるが、「根保証」と称されることもある。継続保証は、主たる債務が、継続的契約によるものか、あるいは、一時的契約によるものかに着目した保証の区別[3]であるが、この用語の提唱者である西村博士は、継続的保証の構造について、「継続的保証にあっては、保証人は保証契約成立後その終了に至るまで、終始、継続的に、抽象的基本的保証責任を負担し、契約所定の一定の事由が発生するごとに、この基本的保証責任から派生的に発生する支分債務としての具体的保証債務を負担する」と説明している。

 一方、根保証という用語は、従来、根抵当権、根質、根譲渡担保と並列した上で「根担保」という共通理論を構築することを志向するものであった。根担保論は、金融実務家を中心に理論が展開されたものであるが[4]、その萌芽的な見解は我妻説において示されていた[5]。すなわち、我妻説では、根保証について「一定の法律関係から生ずる不特定の、多くの場合に多数の、債務の保証」と定義しつつ、保証債務について、「継続的な取引関係から生ずる数多の債務を一定の決算期において(多くは一定の限度まで)保証しようとする保証債務」、担保の付従性という観点からも、「保証人の一般財産による責任が現実の担保価値として把握され、将来その保証が実現される際に、確定された債権によってその帰属と数量が決定される」ものであり、このように解することが、「根抵当との共通理論として事柄を明確にする」と説明している[6]。上記の理解では、根保証では、確定時に存在する主たる債務が保証債務ということとなる。

 上記のような継続的保証と根保証の構造上の違いは、具体的には確定前の保証債務の随伴性及び履行請求の可否にも影響する。この点について、最二判平成24・12・14民集66巻12号3559頁は、上記のような継続的保証の理解が当事者の通常の意思と解するのが合理的であるという理解より随伴性及び履行請求を容認しつつ、当事者間の別段の合意を通じて履行請求を否定することも可能とした[7]

 根保証と継続的保証については上記のような構造上の差異があるものの、学説においては、根保証(継続的保証)と併記することも多く[8]、かつ、継続的保証と(広義の)根保証は、視点は異なるものの想定している保証は同一であると解されている[9]。また、2017年改正後の根保証規定(465条の2以下)では、「根保証」「確定」という用語が用いられているものの、上記の根保証説の立場に立脚するものではなく[10]、かつ、基本的にはすべての個人根保証(継続的保証)に適用するものである。このため、本報告では、継続的保証と根保証については上記のような構造上の差異は存在するものの、対象とする保証は同一という前提で検討をすすめる。

 

Ⅲ 継続的保証における債務の確定

 上述のように最二判平成24・12・14は、元本確定前の段階における保証債務の履行請求を容認しているが、学説は、さらに履行を通じて極度額が縮減するものと解している[11]。この理解によると、保証債務の履行を反復することにより保証債務は終了するとも考えられる。上記のような事情がない場合には、(1)元本確定期日(465条の3)、(2)元本確定事由(465条の4)、(3)保証人からの解約権行使により継続的保証の債務が確定することとなる。

1 元本確定期日

 継続的保証における保証期間は、基本的には保証契約の当事者間で自由に定めることができるため、当該契約で定めた期間が満了すれば保証債務は確定することになる。しかし、根保証規定においては、465条の3で元本確定期日を設けているため[12]、本条により、貸金等根保証契約については、期間の定めがない、あるいは、5年を超える期間を定めた場合には、保証契約締結時から3年経過する日に元本が確定することとなる。ただし、本条は、貸金等根保証を対象とするものであるため、それ以外の根保証すなわち、賃貸借契約から生じる賃借人の債務の根保証や、継続的売買における代金債務の個人根保証などには適用されないため、上記の原則通り、契約期間の満了により保証債務が確定することとなる。

 

2 元本確定事由

 すべての個人根保証は、465条の4で定められている元本確定事由が生じることにより保証債務が確定することになる。まず、本条の1項では、個人根保証一般に適用される元本確定事由として、債権者による保証人の財産について、金銭の支払いを目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき、②保証人の破産開始手続き開始の決定、③主たる債務者又は保証人の死亡が挙げられている。さらに、2項においては、個人貸金等根保証にのみ適用される元本確定事由として、債権者が、主たる債務者の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき(1号)、主たる債務者が破産手続き開始の決定を受けたとき(2号)を定めている。

 以上のような元本確定事由が生じて保証債務が確定した場合には、保証人は、確定した債務についてのみ責任を負い、以後発生する主たる債務については保証責任を免れるということになる。

 

3 解約権行使

 継続的保証における任意解約権と特別解約権は、継続的債権関係の解約告知権の延長線上のものである[13]。両解約権は、当初、身元保証契約についての大判大正4・10・28刑録21輯1677頁において、身元保証の存続期間が定められていない場合には、「身元保證人ノ一方ノ意思表示ニ依リ將來ニ向テ解約ヲ申入ルルヲ得ヘク且各場合ノ事情ニ從ヒ解約ノ申入後相當ノ期間ヲ經過シタル時期ヲ以テ解約ノ效力ヲ生スルモノ」(任意解約権)、「身元保證契約ニ一定ノ期間アルトキト雖使用者ニ於テ被使用者ノ背任行爲ニ因リ損害ノ生スルコトアリテ法律上解雇ノ原因發生シタルニ拘ハラス解雇スル(……)ヲ得ルモノト云ハサルヘカラス」(特別解約権)という形で認められた。上記のような身元保証における解約権は、身元保証に関する法律(身元保証法)の制定を通じて一応の立法的解決を見るに至ったが両解約権は、その後の判例を通じて継続的保証一般の解約法理となっている。

 

⑴ 任意解約権

 継続的保証における任意解約権は、期間の定めのない継続的債権関係一般における解約の自由の現れである[14]。当該解約権は、判例により、貸金債務の保証、売掛取引その他一定の継続的取引の保証などについて認められてきたが[15]、その一方で、賃料債務の保証については、身元保証契約とは異なり、契約上の責任限度が月々の賃料であり、身元保証と同様には扱うことができないという理由で否定されてきた[16]。任意解約権は、期間の定めのない保証契約に保証人が長期間拘束され続けるのは酷であるという観点から認められている解約権であるため、契約締結後相当期間を経過すれば行使可能であり、解約申入れ後、相当期間の経過により効果が生じ、既発生の債務についてのみ責任を負うこととなる。

 もっとも、上記のように判例上の法理である任意解約権は、貸金等根保証については、465条の3の元本確定期日の規定に服することになったため存在意義を失ったという指摘もされている。この点については、465条の3は任意解約権を規定したものと解する見解[17]がある一方で、従来の判例は2年程度で任意解約権を認めてきたことを鑑みると元本確定期日の規定により3年経過まで根保証人は責任を免れないとするのは、従来の判例の不利益変更にあたるため、極度額が不相当に高額な事例については、任意解約権を認めるべきであるという見解も存在するところである[18]。いずれにせよ、元本確定期日の規定が置かれた現在においても、当該規定に服する貸金等根保証以外の根保証については、任意解約権行使が問題となり得る。

 

⑵ 特別解約権

 継続的保証については、上記のような任意解約権のほかに、判例上、事情変更や信頼関係破壊に基づく特別解約権が認められてきた[19]。事情変更による特別解約権が認められたものとしては、主たる債務者の資産状態が著しく悪化したり経営状態が変化したりしたために、将来において保証人を拘束することが信義則に反すると認められる場合に直ちに保証契約を解除できるとしたもの[20]、会社債務を保証していた会社役員が退職した場合のように、保証人の職業や地位を前提に保証がされていたが保証人がその地位を離れた場合に解約権行使を認めたものがある[21]。後者の信頼関係破壊による解約権行使としては、信用保証契約における委託を受けた保証人が、主債務者への信頼を喪失したために解除権を行使することを容認した判例が存在する[22]。特別解約権は、上記のような事情が存在していたとしても行使しなければ解約の効力は生じない。解約の効力が生じた場合には、保証人は解約権行使後に生じた債務については責任を免れる。

 もっとも、2017年の民法(債権法)改正後は、すべての個人根保証について包括根保証が禁止されたため(465条の2第2項)、現行法の下での当該解約権の必要性については懐疑的な見解も存在する[23]。しかし、多数説は、特別解約権は事情変更の原則、あるいは、信頼関係の破壊を理由とする解除権であるため認められるものと解している[24]

(下)につづく

 


[1] この点は、潮見佳男『新債権総論Ⅱ』(信山社、2017)636頁。内田貴『民法Ⅲ〔第4版〕 債権総論・担保物権』(東京大学出版会、2020)など多くの文献で指摘されているところである。

[2] 加賀山茂『債権担保法講義』(日本評論社、2011)133頁参照。それ以前は、「保証契約」という視点に基づく保証規定は、特殊な場合に関する449条ないし451条だけであった。

[3] 西村信雄『継続的保証の研究』(有斐閣、1952)76頁、同編『注釈民法(11)債権(2) 多数当事者の債権・債権の譲渡』(有斐閣、1965)144頁。西村説によると、継続的保証とは、継続的金融取引・継続的売買契約、代理店契約の保証、借地借家の保証のような継続的契約から発生する債務を保証するものであり、通常の売買の代金債務の保証などの一回的給付を保証する「一時的保証」に対置するものである。

[4] 例えば、石井眞司「根保証の法律構成の再検討(その1)~(その8・完)」手研286号4頁以下、288号22頁以下、299号18頁以下、302号4頁以下、315号16頁以下(1979~1980)、同「根保証への根抵当権の類推適用」手研334号(1982)143頁など。

[5] 荒川重勝「根担保論」星野英一編集代表『民法講座 別巻1』(有斐閣、1990)145頁参照。

[6] 我妻榮『新訂 債権総論(民法講義Ⅳ)』(岩波書店、1964)462頁以下。我妻博士は、自説を改説した上で本文の見解に至っている。

[7] もっとも、本判決については、事案の特殊性故に事例判決と解する余地がある。

[8] 例えば、奥田昌道『債権総論〔増補版〕』(悠々社、1992)414頁、中田裕康『債権総論〔新版〕』(岩波書店、2011)494頁、平野裕之『債権総論』(日本評論社、2017)291頁。

[9] 例えば、中田・前掲注[8] 495頁では、「信用保証、身元保証、賃貸借の保証は、いずれも継続的な関係から生じる不特定の債務についてなされるものであり、継続的保証又は根保証と呼ぶ。継続的保証は、主たる債務の発生原因となる関係に着目したものである。根保証は、主たる債務が不特定で増減変動しうることに着目した、根担保(根抵当など)と共通点のある概念である。いずれも多義的であり、両者の視点も異なるが、内容として想定される保証はほぼ同じである」と述べている。

[10] 平野・前掲注[8] 293頁。 座談会「保証制度の改正」ジュリ1283号(2005)67頁〔野村発言〕では、「個々の債権との関係は議論していない」と述べている。

[11] 齋藤由起「根保証における元本確定前の履行請求と随伴性」窪田充見=森田宏樹編『民法判例百選Ⅱ 総則・物権〔第8版〕(別冊ジュリ238号)』(有斐閣、2018)51頁。

[12] 吉田徹=筒井健夫編著『改正民法の解説[保証制度・現代語化]』(商事法務、2005)34頁は、本条が根抵当権と同様に元本確定期日という用語を導入したのは、保証期間という用語は、期間の満了をもって保証人が一切責任を負わないという誤解を招きやすいという指摘があったためと説明している。

[13] 奥田・前掲注[8] 416頁。

[14] 西村・前掲注[3] 『継続的保証の研究』88頁は、賃貸借・雇用、組合等の規定である617条、627条、678条等は、長い年月の間生じる契約の基礎となる諸般の事情の変化を考慮することなく当事者を契約上の義務に拘束することは適切ではないという理由から設置されているものであり、この趣旨は、片務・無償であり、情誼的動機によって締結される保証契約にさらに該当するものと解している。

[15] 大判大正14・10・28民集4巻656頁、大判昭和9・2・27民集13巻215頁等。

[16] 大判昭和7・10・11新聞3487号7頁。

[17] 「特集・平成16年度民法改正 座談会 保証制度の改正」ジュリ1283号(2005)64頁〔野村発言〕。

[18] 平野・前掲注[8] 295頁。前掲注[17] 63頁以下〔平野発言〕も元本確定期日の適用がある貸金等根保証への適用を肯定する。

[19] 潮見・前掲注[1] 750頁以下、同『プラクティス民法 債権総論〔第5版〕』(信山社、2018)671頁。

[20] 大判昭和9・2・27民集13巻215頁、大判昭和9・5・15新聞3706号9頁〔会社債務を会社の重役が保証していたが、重役を辞任した上で業績悪化を理由として解約申し入れをした事例〕。

[21] 大判昭和16・5・23民集20巻637頁。

[22] 最二判昭和39・12・18民集18巻10号2179頁〔小麦粉の継続的売買契約における代金債務について債務者の叔父が保証人となっていた事例〕。

[23] 例えば、商事法務編『民法(債権関係)部会資料集第1集〈第1巻〉――第1回~第6回会議 議事録と部会資料』(商事法務 2011年)347頁〔道垣内発言〕。

[24] 潮見・前掲注[1] 750頁参照。なお、特別解約権については2004年及び2017年の民法改正の際に立法化が議論されたが実現には至らなかった。

 

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