◇SH0874◇冒頭規定の意義―典型契約論― 第27回 冒頭規定の意義―制裁と「合意による変更の可能性」―(24) 浅場達也(2016/11/11)

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冒頭規定の意義
―典型契約論―

冒頭規定の意義 -制裁と「合意による変更の可能性」-(24)

みずほ証券 法務部

浅 場 達 也

 

Ⅳ 小括

2. 冒頭規定説・契約の拘束力の根拠

 冒頭規定については、要件事実論において「冒頭規定説」が説かれることがある。またこれに関連して、契約の拘束力の根拠が「法規」なのかそれとも「合意」なのかが問われることがある。本稿のこれまでの冒頭規定の意義の検討を踏まえたとき、これらの点がどのように考えられるかについて、以下で検討しよう[1]

(1) 要件事実論における冒頭規定説

ア 冒頭規定説の内容
 まず、「冒頭規定説」の内容についてみてみよう。主張立証責任において、契約に基づき請求をするためには、その契約が典型契約である場合、冒頭規定の成立要件を基礎付ける事実が要件事実となる、とする考え方が「冒頭規定説」である。この考え方は、司法研修所の要件事実教育としての「要件事実論」として知られており[2]、判例はこの立場をとっているとされている[3]

イ 本稿からのコメント
 契約書作成者は、リスク増大の可能性を回避する観点から、多くの場合「冒頭規定の要件に則った」契約書を作成する。このため、契約の成立要件に関する「当事者の合意」の内容は、多くの場合、「冒頭規定の要件に則った」ものとなる(「ポイント(12)」)。この「冒頭規定の要件に則った」という部分をみる限りにおいて、これまで「冒頭規定説」は、実際上妥当な説として継続してきたといえるだろう。

 しかしながら、冒頭規定の要件に則らないいわゆる「諾成的消費貸借」が我が国の取引社会において生成されてきたことを考えると、「冒頭規定説」の妥当性には、疑問が投ぜられるだろう。【契約文例3】【契約文例4】【契約文例5】をみると、これら【契約文例】は、消費貸借の冒頭規定(587条)の要件に則っておらず、「契約の成立を示す要件事実」は、冒頭規定の成立を基礎付ける要件事実とは異なっている。契約書作成者は、リスクの増大が許容範囲内であり、かつ、得られる利点・メリットが十分に大きい場合、冒頭規定の要件を変更することがある(「ポイント(6)」)。そして、合意により冒頭規定の要件が変更された場合、を基礎付ける事実を要件事実と考える必要がある。変更後の「合意内容」を考える点で、それはむしろ(冒頭規定説でなく)「合意説」と呼ぶべき考え方といえるだろう。(「ポイント(12)」で示したように、結果的に「冒頭規定の要件に則った」場合でも、それは、冒頭規定の要件に則るという「合意」をしたからであるということになる(この点において、以下の契約の拘束力の根拠としての「合意説」に繋がるので、留意が必要である)。)



[1] 近時、「冒頭規定説」を(要件事実論の学説としてでなく、)契約の拘束力の根拠とする考え方が示されている(山本敬三・前掲第11回注[5] 『民法講義Ⅳ-1 契約』20頁)。呼称として、より適切であると考えられるが、ここでは、「冒頭規定説」を要件事実論の中の説とする従来の考え方(村田渉「要件事実論の課題――学会論議に期待するもの」ジュリ1290号(2005)38頁、石川博康「典型契約冒頭規定と要件事実論」大塚直ほか編著『要件事実論と民法学との対話』(商事法務、2005)124頁を参照)に従う。

[2] 司法研修所編『増補 民事訴訟における要件事実 第1巻』(法曹会、1998)44頁を参照。冒頭規定説に対する考え方として、「返還約束説」が挙げられるが、現在ではほとんど支持を失っているとされる。(石川・前掲注[1] 126頁を参照。)

[3] 加藤雅信・前掲第1回注[12] 『契約法』101頁を参照。

 

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