◇SH1698◇アルゼンチンにおける外資規制――更なる規制緩和へ 古梶順也(2018/03/12)

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アルゼンチンにおける外資規制

更なる規制緩和へ

西村あさひ法律事務所

弁護士 古 梶 順 也

 

1. はじめに

 2016年4月にデフォルト状態を解消して15年振りに国際金融市場に復帰し、マクリ政権による規制緩和・外資導入策の下で投資環境が整いつつあるアルゼンチンへの新規展開を検討している日本企業も少なくないと思われる。

 アルゼンチンにおいては、かつては、外貨の流入量・流出量をコントロールし為替レートを安定させるための厳しい外国為替規制があり、これはアルゼンチンで事業を営む外国企業にとって大きな障害となっていた。しかしながら、マクリ政権による外資を呼び込むための一連の規制緩和策によって、当該外国為替規制は大幅に緩和された。

 本稿では、当該緩和がなされた後のアルゼンチンにおける外国為替規制の概要を、アルゼンチンにおける一般的な外資規制の概要とともに説明する。

 

2. アルゼンチンにおける外資規制[1]

 アルゼンチンにおいては、憲法上、外国投資家に対して、アルゼンチンにおける経済活動に関して国内投資家と同等な地位・権利が保障されている。実際にも、外国投資家は、原則として、アルゼンチンにおいて事業を開始する又はアルゼンチンの企業又はその事業を買収するにあたって、特に政府からの許可等は必要とされていない[2]。但し、マスコミュニケーション事業(新聞、出版、放送等)に関しては外資規制が存在し、外国投資家は、マスコミュニケーション事業を営む会社の出資・議決権について30%までしか取得できないものとされている。

 上記に加えて、アルゼンチンにおいては、外国投資家による土地取得に対する規制が存在する。当該規制もマクリ政権下において緩和されたが、概要は、以下のとおりとなっている。

  1. ・ 外国投資家が所有できるのは、アルゼンチン国内における農地(基本的に市街地の外にある全ての土地を意味する。なお、工業地帯等は除外される。)の全面積のうち15%までとされている。当該割合は、国レベルのみならず、州レベル・市レベルにおいて適用される。また、同一国籍の外国投資家が所有できるのは、外国投資家が所有できる農地のうち30%(すなわち、全体の4.5%)までとされている。
  2. ・ 外国投資家は、単体で、一定のコアエリア又はこれと同等なエリアに属する土地(主に湿潤パンパ(Pampa húmeda)と呼ばれるエリアに属する土地がこれに含まれる)について1,000ヘクタールを超えて所有できない。
  3. ・ 外国投資家は、水源(例えば、川や湖)付近の土地を所有することはできない。また、外国投資家が、国境安全エリアの土地を所有等する場合には事前の政府機関の許可が必要となる。

 

3. アルゼンチンにおける外国為替規制

 アルゼンチンにおいては、2001年に外国為替規制が強化されて以降、アルゼンチン中央銀行が発布する通達(Comunicación)に基づく外貨の流入・流出に関連する様々な規制の下で、海外への資金送金や輸出取引・ファイナンスを通じての外貨獲得に関して大きな制約があった。しかしながら、2015年12月以降にマクリ政権により実施された規制緩和策により、外国為替に関する多くの規制が廃止・緩和された。これにより、現存している主な外国為替規制の概要は以下のとおりとなっている。

  1. ・ 全ての個人・法人が自由に外国為替市場で外国為替取引を行うことができるようになった。但し、全ての外国為替取引は、認可された事業者を通じて行わなければならない。
  2. ・ 外貨の購入に関する上限や制限は廃止された。
  3. ・ 海外株主に対する配当の支払いや資本・投資に関するリパトリエーション(本国への資金還流)に対する規制がなくなり、事前の許可も不要となった。
  4. ・ 物品・サービスの輸出や海外からのファイナンスを通じて獲得した外貨は、かつてはアルゼンチン国内に還流し、国内の外国為替市場において決済(アルゼンチンペソへ両替)しなければならないものとされていたが、当該義務は廃止された。現在は、当該外貨は海外において回収しアルゼンチンペソに両替することなく保持することができるものとされている。
  5. ・ 2017年12月31日より発効したアルゼンチン中央銀行に対する新しい報告制度の下で、在アルゼンチン企業は、前年度における海外保有資産及び対外債務の変動額の合計額又は前年度末の海外保有資産及び対外債務の残高が100万USドルを超える場合に、一定の事項に関する報告義務を負う。

 

4. おわりに

 アルゼンチンは、かなり頻繁に規制内容の改正が行われる国であるため、アルゼンチンへの投資を行う際には、適切な弁護士の助言を得た上で最新の規制内容を確認するのが望ましい。

以 上

 

  1. (注) 本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地法弁護士の適切な助言を求めていただく必要がある。また、本稿記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではない。


[1] 本稿の作成にあたって、アルゼンチンの法律事務所であるMarval, O’Farrell & Mairalの諸弁護士からの協力を得たことをここに感謝申し上げる。もっとも、本稿の内容に関する責任は筆者のみにある。

[2] 但し、外国法人が、アルゼンチンにおいて法人を設立する場合又はアルゼンチン企業の株主又は出資者となる場合、事前に管轄の商業登記所において外国法人として登録を行う必要がある。当該外国法人登録手続に関しては、◇SH1526◇アルゼンチン進出時の選択肢-新しい法人形態の登場(2) 古梶順也(2017/12/04)も参照されたい。

 

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