◇SH1133◇ブラジル商標制度の概要(1) 谷口 登(2017/04/26)

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ブラジル商標制度の概要(1)

西村あさひ法律事務所

弁理士 谷 口   登

 

1 はじめに

 ブラジルGDP成長率は、2015年は、-3.8%、2016年は、-3.6%と2年連続でマイナス成長を記録しているとはいえ、依然として中南米の経済規模の国であり、市場的に魅力のある国であることには変わりはない。

 一方、2016年12月に世界税関機構(WCO)から公表された情報によると、2015年にブラジルにて摘発された模倣品等の数量は、世界第6位と多い。知的財産権のうち、模倣品対策上、特に重要となってくるのは、商標権と著作権である。本稿では、ブラジル商標制度のうち、まずは、出願・登録の状況、登録の対象並びに出願から登録までの手続を俯瞰したい。

 

2 ブラジル商標出願・登録の状況

 ブラジルへの商標出願の件数は、INPI及びWIPOの情報によると、2014年は157016件、2015年は158709件、2016年は166368件と1年間に15万件以上の商標出願がされている。登録件数は、2014年は85738件、2015年は116050件となっている。

 ブラジルは、商標出願の審査遅延、未処理案件の数が多いことが問題となっているが、2014年から未処理案件数は減少傾向にある。これは、査定、審決の件数は2014年は157600件、2015年は189916件、2016年は195896件と、出願件数以上の案件につき、査定等がされていることからも伺える。

 とはいえ、現在、出願から最初の査定までは、異議申立がない場合であっても3年以上、異議申立があった場合は、査定までに5-6年程度かかっている案件があり、依然として審査期間は長い。これは、2015年10月の時点で審査を開始していない案件が471565件、2016年10月の時点では428889件と膨大な未処理案件があるためである。審査遅延の問題が解消するまでには、もう少し時間がかかりそうである。2016年12月時点の情報によると、2014年5月までに出願され異議申立がなかった案件と2011年7月までに出願され異議申立がされた案件について集中的に審査を行い査定をしているようである。

 

3 登録の対象

 保護対象となる商標は、視認できる標識であって識別力を有するものである。具体的には、文字、図形等の商標の他、立体商標、2色以上の色彩商標、位置商標、動く商標、ホログラム商標について登録を受けることが可能である。しかし、視認性が要件となっているため、音の商標、香りの商標や味の商標については登録を受けることができない。

 また、団体商標、証明商標として登録を受けることも可能である。

 

4 商標出願

 ブラジルにて商標権による保護を受けるためには、商標出願をし商標登録を受ける必要がある。

 商標出願はブラジルの管轄官庁(INPI)に行う。INPIに出願書類を提出する場合の他、日本と同様、オンライン出願をすることも可能である。

 ブラジルはマドリッド協定議定書(マドプロ)の加盟国ではないため、マドプロルートの出願をすることはできない。

 ブラジルでは、多区分一出願が認められていないため、区分の異なる商品・役務を指定商品・役務として保護を求めるためには、出願商標は同一であるととしても区分毎に複数の商標出願をしなければならない。

 

5 出願から査定までの手続

 商標出願後、INPIにて方式審査が行われ、その後、商標出願は出願公告される。出願公告後60日以内に第三者は異議申立が可能である。

 異議申立がされた場合は、公報に異議申立通知が公告され出願人は公告後60日以内に答弁書の提出が可能である。

 異議申立がない場合は、当該申立期間経過後、異議申立があった場合には、前記答弁書の提出期間経過後に実体審査が開始される。

 実体審査では、識別力の有無、抵触する(同一又は類似の)先行商標の有無等不登録事由に該当するか否かが審査され、登録査定か拒絶査定のいずれか一方がされる。

 ただし、同一又は類似の先行商標の出願が存在し、当該先行商標の出願の審査を先に行う必要がある場合は、INPIにより審査の一時停止の通知がされる。当該一時停止の通知には、同一・類似の先行商標出願が列挙される。この場合、先行商標の出願の査定が確定次第、(後願の)一時停止の通知が解除され、登録査定か拒絶査定のいずれかがされることになる。

 一時停止の通知が不当な場合、先行商標の出願の審査を待つ必要がない等といった申立を行うことも可能だが、INPIはこの申立に従う必要はなく、出願人はINPIの審査再開を待つしかないのが実情である。

 また、INPIは、必要のあるとき、例えば、指定商品の一部に区分が異なるものが含まれている場合、出願人に対して指令を行い、60日以内に応答手続を行う機会が与えられる。この指令に対して応答手続が行われない場合、商標出願は取り下げされたものとみなされる。

 

6 査定後の手続

(1) 登録査定の場合

 登録査定の場合、査定の公告後60日以内にINPIに登録料を納付すれば、商標登録が公報に掲載され登録証が発行される。

 出願商標の一部に識別力のない部分が含まれている場合、登録証に権利不要求(Disclaimer)の記載がされる。

 従前は、権利不要求の決定がされた場合、不服申立を行うことができた。しかし、2016年5月31日に新たな決議が公表され、権利不要求の記載は、すべて同じ文言のものが登録証に記載され、不服申立ができなくなったことに留意が必要である。

 これより、商標出願の審査遅延の解消は期待できるものの、どの部分について権利不要求がされたのか分からず、権利範囲が不明確になる、といった新たな問題が生じることとなった。 

(2) 拒絶査定の場合

 拒絶査定の場合は、査定の公告後60日以内に拒絶査定不服審判を請求し拒絶査定の当否を争うことができる。

 拒絶の理由が識別力が欠くこと理由とする場合、使用により識別力を獲得したことの主張・立証を試みることが可能である。もっとも、不服審判においてこの主張等が認容される可能性は低いようである。

 拒絶の理由が同一又は類似の先行商標が存在することを理由とする場合、非類似の主張の他、先行商標の権利者との併存登録契約の締結や先行商標に対する不使用取消審判請求、無効請求等の対応策もある。

 先行商標の権利者との併存登録契約との交渉の場合、単なるコンセント(同意書)を取得するだけでは拒絶解消をさせる手段としては十分ではない。取引者・需要者が誤認混同が生じることがないように指定商品を限定することや両商標の使用態様等につき併存登録契約書に規定し、出願人と先行商標の権利者が署名した場合にはじめて、審査官等の裁量により、拒絶を克服できる可能性がでてくる。

 ただし、現在、滞貨の案件が多いこともあり、併存登録契約書について十分な考慮をした上で判断されるケースは少ない、という情報もある。

 先行商標に対する不使用取消審判請求や無効請求をすることにより、先行商標の登録を消滅させることに成功すれば、拒絶を克服できる。不使用取消審判請求や無効請求をした場合、各々の事件が終了するまで、出願の審査や拒絶査定不服審判の審理の中止を求めること可能である。中止される場合は、その旨が公報に公告される。

 拒絶査定不服審判の審理が終結したときは、拒絶査定を維持するか拒絶査定を破棄する審決がされ、その審決が公報に公告される。

 拒絶査定を破棄する審決が公告されたときは、登録査定がされたときと同様、その公告日から60日以内に登録料を納付することにより、商標登録が公告され登録証が発行される。

 拒絶査定を維持する審決がされたときは、連邦裁判所に不服申立をし引き続き争うことが可能である。

 

つづく

 

  1. (注) 本稿は法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地弁護士の適切な助言を求めていただく必要があります。また、本稿記載の見解は執筆者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所又はそのクライアントの見解ではありません。

 

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