インドネシア:投資調整庁の新投資規則の施行(4)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 福 井 信 雄
弁護士 小 林 亜維子
前稿に引き続き、本稿は、投資調整庁(Badan Koordinasi Penanaman Modal, BKPM)規則2017年第13号(以下「新規則」という。)による外国投資企業が遵守する必要のある投資調整庁における手続き等の主な改正点について概説する。
7. ベンチャーキャピタルの利便性の向上
外国投資家による投資が禁止又は制限されている事業分野に投資する手法としてベンチャーキャピタルを設立するという方法が以前から許容されていた。ベンチャーキャピタルをインドネシアで設立する場合、外国資本による株式保有割合の上限は85%とされており、残る15%の株式についてはインドネシアの内国資本が保有する必要がある。しかしながら、このベンチャーキャピタルの有用性は、このベンチャーキャピタルを通してインドネシア法人に投資を行う場合、かかる投資は完全に内国資本として扱われるという点である。したがって、ベンチャーキャピタルの過半数を確保しておくことで実質的なコントロールを維持しながら、間接的に外資規制業種に対しても投資を行うことが可能となる。
ただし、このベンチャーキャピタルを通した投資には期間制限が設定されており、旧規則においては原則10年間で最大5年の延長が認められていたところ、新規則においては原則10年間、その後2回の延長で最大10年の延長が認められることとなった。期間満了後は、対象会社を上場させるか第三者への売却等により保有株式を手放すことが義務付けられているが、保有可能期間が15年から20年に伸びたことにより、ベンチャーキャピタルの利用可能性が高まったと評価できる。
8. 名義株主の禁止
2008年に施行された投資法において、インドネシア人又はインドネシア法人を名義上の株主とし外国投資家が実質的な株主としての権利を保持するいわゆるノミニーアレンジは無効であることが明記されているところ、新規則では、投資調整庁から求められた場合には、問題となる株主が名義株主ではないとする陳述書を作成する義務が投資家に課せられた。この陳述書は、公証人の認証を必要とするものであり、法に反して名義株主を利用しようとする外国投資家を一定程度牽制する効果を狙った制度と解される。名義株主の利用に関しては、これまでは明文上禁止されてはいるものの投資調整庁がその投資の実態を詳細に審査して名義株主かどうかの判断をしていたわけではなく、その実効性については必ずしも十分とは言えなかったが、新規則の施行に伴い、投資調整庁の審査もより実効性のあるものに改善されていくことが期待され、外国投資家は法令遵守により留意した投資活動が求められる。
9. 特別経済特区並びに自由貿易地域及び自由港における許認可取得の特例
新規則は、新たに特別経済特区並びに自由貿易地域及び自由港における事業について、事業を開始し運営するために必要な許認可をより迅速に取得できる規定を設けた。旧規則は、一定の条件を満たす投資について、申請から3時間で投資基本許可を発行するという制度を設けていたが、新規則では、迅速に外国投資企業を設立することのできる事業範囲を拡大したものと評価できる。この新規則は、該当する事業は、新規則の別紙として添付されているチェックリストの項目を満たすことを条件に、外国投資登録と共に法務人権省の発行する設立証明書、納税者番号、会社登録書、外国人雇用計画、外国人就労許可、輸入者番号、及び通関へのアクセス権を取得することができるとしている。具体的な手続きについては不明瞭なところが多く、今後の運用が待たれる。