◇SH0173◇中国:国有資産譲渡手続 角谷直紀(2014/12/25)

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中国:国有資産譲渡手続

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 角 谷 直 紀

 中国に古くから進出していた企業に関しては合弁事業について相当な期間が経過し、様々なプロジェクトが一段落着く時期であること、及び中国側の企業も事業を整理する過程から、合弁事業等についてその持分を譲渡したり、合弁会社を清算する等の必要に迫られていることを理由に、既存の合弁会社の再編等に関する事案は依然として増え続けている。

 このような案件において、特に相手方が国有企業である場合には、中国においては様々な法律上の制約があり、仮に当事者間で合意に至った場合でも、当該合意を最終の結果とするために工夫が必要な場面も多々ある。

 そこで本稿では、国有資産譲渡に関する手続及び交渉上留意すべき点を簡単に説明する。

1.国有資産譲渡に関する手続

 中国において国有資産(国有企業が有する株式や持分を含む。)の譲渡に関しては、「企業国有資産譲渡管理暫定弁法」等で、・国有資産の監査、・国有資産の評価、・国有資産管理部門の認可又は届出、・産権取引所へ譲渡を申請、及び・産権取引所にて公開入札等の手続きが定められており、特に国有資産の評価については取引価格が評価価格の90%を下回った場合、取引を一時停止し、認可機関の承認を得なければならないこととなるため、事実上譲渡価格の下限を画するものとして注意が必要である。特に、自社にて合弁の相手方たる国有企業の持分を買い取ろうと考えているような場合で、当該資産の評価を行う第三者(資格を得ている会計事務所等)の決定方法について合弁契約等に定めがないような場合には、その選定方法について相手方と十分に協議する必要がありこれに多大な時間が必要となることがある(地域や事案にも拠るが、国有資産管理部門が「公募、指名、抽選」等の方法を通じて最終的な決定をする場合もある。)。

 また、最終的に産権取引所における公開入札手続き(投票によるオークションの場合やハンマープライス方式の場合もある。)が必要となることから、下記にて説明するように当事者間で、何らかの合意をしたとしても、第三者が介入してくる可能性を完全に払拭できないことにも留意しなければならない。

2.国有企業との交渉について

 中国における合弁会社(特に中外合弁の場合)の持分譲渡についても、司法解釈の規定により一定の条件下では合弁相手の同意なく譲渡することが許容されていると考えられているが、現段階の実務上の扱いでは相手方の同意及び協力がない場合、(非常に強い力がある国有企業を除き)一般的には審査認可機関等での手続きが滞ることとなる。

 そのため、国有企業側が自己の持分を譲渡しようとする際においても、通常はその合弁相手方に協力を求めて来ることが多い。この様な場合における交渉内容は基本的には通常の持分譲渡の場合と同様に譲渡の価格や条件面での内容が主となるが、上記のように、例えば持分を買い取ることに関して、最終的にある価格で合意に至った場合でも産権取引所における公開入札手続きにおいて、より高額な入札を行う別の第三者が介入してくる可能性があるため、当事者間の合意を実効性があるものにする必要がある。一例としては、当該持分が有する決議事項等を調整し(例えば、法令上定められている全会一致事項以外についての拒否権を制限する)、場合によっては派遣できる董事の人数を制限する等の合意を為し、入札に参加してくる第三者にとっての当該持分の価値を極小化する、又は国有資産管理部門若しくは産権取引所とも相談し、入札参加条件をできるだけ厳しいものとする等の方策を検討する必要がある。

 この点、特に後者については国有企業側のコネクション等も有用な場合があるので、相手方国有企業の政府部門への影響力等についても交渉過程において綿密に確認する必要がある。

 以上、非常に簡単に説明したが、国有資産が絡んでくる問題は多種多様であり、制度に反しない範囲で意図したスキームを実現させていく過程については、正に中国実務を象徴したような案件となることが多い。

 

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