◇SH1754◇実学・企業法務(第129回)法務目線の業界探訪〔Ⅱ〕医藥品、化粧品 齋藤憲道(2018/04/09)

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実学・企業法務(第129回)

法務目線の業界探訪〔Ⅱ〕医藥品、化粧品

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

〔Ⅱ〕医薬品、化粧品

〔Ⅱ-1〕医薬品

1. 業界の特徴

 医薬品は、健康・生命に直接係わるものであり、益と害を併せ持つものが多い。優れた効能を発揮する医薬品でも、過剰摂取すれば有害になり、他の物質との取り合わせで害を生じることもある。

 このため、医薬品の取扱いについては、次のように、国等の厳しい承認・許可制度と、国家資格等を有する専門家集団が役割分担するとともに連携して安全性を確保する仕組みができている。

  1. ① 医薬品(モノ)を生産・販売・使用することを、国等が一定の条件の下で承認する。
    医薬品は、「国が承認した物」だけを「国が承認した工場」で製造することが許される。
    医薬品を他人のために処方又は調剤できる者を、国家資格を有する者(医師、歯科医師、獣医師、薬剤師)に限る[1]
    医薬品は、原則として「国が許可した者(事業者等)」だけが販売することができる。
  2. (注) 安全性が確立された一定の医薬品については、製造販売等の承認権限が都道府県知事等に委任されている[2]
     
  3. ② 生産・販売を行う事業者に、管理体制の整備を義務づける。
    製造過程における品質管理(GQP[3])、製造販売後の安全管理(GVP[4]
     
  4. ③ 事業者に、危害の発生・拡大の防止に必要な措置の実施を義務付ける[5]
    薬局・病院・診療所・医師・歯科医師・薬剤師・獣医師等に対して安全性に関する情報(副作用・  感染症等)を厚生労働大臣に提供させる。
    厚生労働大臣が指定する医薬品は、直接の容器又は直接の被包(箱、包装、ボトル等)に「貯法」「使用の期限」等を表示する[6]
    廃棄、回収、出荷・販売停止、関係者(行政を含む)への情報提供、その他必要な措置を講じる。

     
  5. ④ 国等の許可・承認の条件を遵守させるために、行政命令等を行う[7]
    立入検査、廃棄・回収の命令、責任者変更命令、業務停止命令、製造販売業許可取消等。
     
  6. ⑤ 医薬品には副作用等の可能性があることを前提にして、副作用等被害者の救済制度を設ける[8]
    適正使用にも係わらず重篤な健康被害が生じた者に対して、医療費・年金等を給付する。
    資金は、医薬品製造販売業者(一般拠出金、付加拠出金)や国(補助金<事務費>)が拠出する。

 ①~⑤の仕組みを適切に運用するため、医薬品を取り扱う者には、高い倫理観や道徳観が求められる。 

 昔から、医薬品の商売では、困った人の弱みにつけ込む誇大広告等の(場合によっては詐欺まがいの)営業活動が絶えず、これを排除するために、さまざまな法令や民間の規約が定められている。

 また、新薬の開発は長期にわたり、開発が完了しても、国の承認がなければ事業化できず、薬価も国が決める(医療保険制度)等、規制が多い。

 このような医薬品業界では、各種の規制を逃れて事業を少しでも有利に進めようとする誘惑が多い。このため、企業では、次のような点に留意してコンプライアンスの徹底を図っている。

  1.   材料特性や治験データの捏造、薬剤の目的外使用、誇大広告等が発生しやすい。
  2.  • 長期間の研究開発過程で多額の資金が動き、流用(横領・背任等)等の不正が生じやすい。
  3.   企業が医師に対して行う販売促進活動は、消費者等に不透明で、不信感を持たれる。
  4.   医薬品業界の不祥事は大きく報道される傾向がある。一旦、不祥事として報道されると、企業イメージは著しく傷つく。
  5.  
  6. 〔広告・景品を規制する法令等の例〕
    医薬品医療機器等法10章(医薬品等の広告)66条~68条
    景品表示法、医療用医薬品業等告示(内閣府)
    医療用医薬品製造販売業公正競争規約(医療用医薬品製造販売業公正取引協議会)
  7.  
  8. 〔コンプライアンス規範の例〕
    コード・オブ・プラクティス[9](日本製薬工業協会〔略称、製薬協〕)
    医療用医薬品製造販売業公正取引協議会の内規
      寄附に関する基準、親睦会合に関する基準[10]、調査・研究委託に関する基準、他
  9.  
  10. (参考)国の医療制度との関係
  11. ・ 患者の医療費の一部は、国や自治体、健康保険組合等が負担している。
  12. ・ 国内の医薬品市場は、1961年に国民皆保険制度が始まって以降、拡大している。
  13. ・ 日本の国民医療費は40兆円(年間)を上回り、その約20%を調剤が占めている。
    (注1) 国民医療費の3分の1強を、後期高齢者(老人)の医療費が占める[11]
    (注2) 日本の近年の国家予算(年間)約100兆円の中で医療費が増加し続けており、その抑制が課題とされている[12]


[1] 医師法20条、22条。歯科医師法20条、21条。獣医師法18条。薬剤師法19条、23条1項

[2] 医薬品医療機器等法施行令80条

[3] 「医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の品質管理の基準に関する省令」の通称。(Good Quality Practice)

[4] 「医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の製造販売後安全管理の基準に関する省令」の通称。(Good Vigilance Practice)

[5] 医薬品医療機器等法68条の9、68条の10

[6] 医薬品医療機器等法50条9号、14号

[7] 医薬品医療機器等法69条~75条の5

[8] 医薬品医療機器総合機構法16条~26条

[9] 「国際製薬団体連合会」の「コード・オブ・プラクティス(2012年改訂)」に基づいて、2013年1月に制定された。

[10] 贈答・接待への対応について規定する。

[11] 2016年度の国民医療費は41.3兆円。うち、調剤は7.5兆円(18.2%)。なお、41.3兆円の37.2%(15.3兆円)が75歳以上の医療費である。審査支払機関(「社会保険診療報酬支払基金」及び「国民健康保険団体連合会」)で審査される診療報酬明細書のデータに基づく。(「2016年〔平成28年〕度 医療費の動向」厚生労働省保険局調査課)

[12] 2017年度(平成29年度)の国家予算は、一般会計総額97.5兆円であり、この内、社会保障関係費が32.5兆円(うち、医療費11.5兆円)である。

 

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