SH4567 Legal as a Service (リーガルリスクマネジメント実装の教科書) 第13回 石橋をたたいても渡らない事業部にぴったりのプレゼント:「コンティンジェンシープラン」を贈ろう 渡部友一郎/東郷伸宏(2023/07/27)

そのほか法務組織運営、法務業界

Legal as a Service (リーガルリスクマネジメント実装の教科書)
第13回 石橋をたたいても渡らない事業部にぴったりのプレゼント:「コンティンジェンシープラン」を贈ろう

Airbnb Japan株式会社
渡 部 友一郎

合同会社ひがしの里・セガサミーホールディングス株式会社
東 郷 伸 宏

リーガルリスクマネジメントの教科書 バックナンバー

 

©弁護士・グラフィックレコーダー 田中暖子 2023 [URL]

 

1 共通の悩みの特定

 今回の共通する悩みは、石橋をたたいても渡らない慎重な事業部門に対し、批判的な観点ではなく、どうすればよりサポーティブな形で安心してリスクテイクをしてもらえるのかという点についてです。

 「うちの会社はリスクに敏感で、法務部門がリスクを取れるようにさまざまな工夫をしても、細かな点に目がいってしまい、最終的には案件が見送られることもあるんです……。」

 法務部門のこのような話を、耳にされたことはないでしょうか。

 今回、低減化されたリスクが、万・万・万が一に顕在化した場合に備えた、Contingency Plan(コンティンジェンシープラン)という新しいリスク低減策(リスク管理)の手法を皆様にお伝えしたいと思います。

 

2 共通の悩みの分析

 はじめに、リーガルリスクマネジメントのゴールは、経営者・事業部門のinformed decision(十分な情報に基づく意思決定)を可能ならしめることです。法務部門がビジネスジャッジを代行するのは組織全体のリーガルリスクマネジメントを意図せず弱化させることも以前に一緒に議論しました(連載第11回)。そうであれば、事業部門が「リスクテイクをしない」と意思決定したのであれば、法務部門には、これ以上、支援できる仕事はないようにも思われます。

 しかし、本当に何もやることは残されていないのでしょうか。

 このような場面での事業部門の気持ちを読み解いてみましょう。まず、事業部門には、リスクテイクを決断できない不安があることは確実です。

 ケース別で考えてみましょう。

 事業部門がリスクテイクをしないという場合には大きく2つのケースがあると考えられます。

 第1の可能性は、法務部門と事業部門のリスク評価の食い違いです。法務部門はリスク低減策が十分であり、リーガルリスクマネジメントにおける「リーガルリスクの評価」のプロセスにおいて、事業または事業部門が許容しうるリスクレベル(risk torelance)に照らすと、リスクが取れないものではないと考えています。その一方で、 事業部門は、リスクの低減策をすべて講じても許容しうるリスクレベル(risk torelance)を超えていると考えています。この場合、問題の所在は、両者の「許容しうるリスクレベル(risk torelance)」が100%綺麗に一致していないことであり、リーガルリスクマネジメントにおける、協議およびコミュニケーションのプロセスを通じて、「許容しうるリスクレベル(risk torelance)」を一致させれば、解決できるでしょう。具体的には、事業部門の真の「許容しうるリスクレベル(risk torelance)」にあわせて、より豊富で手厚いリスク低減策を提案することができます。

 第2の可能性は、残された人間の直感的な不安です。法務部門と事業部門の「許容しうるリスクレベル(risk torelance)」がぴったり合致している場合であっても、残留リスクに対して心理的な不安が生じる場合があります。たとえば、5x5のリーガルリスクマトリクスにおいて、「許容しうるリスクレベル(risk torelance)」のスコアは9であり、起こりやすさ「1」x結果の大きさ「4」(総合のリスクスコアは「1x4=4」)のケースでは、総合のリスクスコア4は、9を大きく下回っており、客観的なことだけを言えば、リスクテイクできるという意思決定をすべきです。しかし、このとき、事業部門は、法務部門のリスク低減策によってリスクがかなり低いところまで下がっていることは「頭」では理解できるが、万が一、リスクが顕在化した場合にはどのような状況になるのかについて解像度が高くなく、不確実性に気を取られてしまい、消極的になります。

 

3 共通の悩みの評価

 上記の後段(残留リスクが気になる)という不安・悩みは、人間の誰しもが不確実なものに対して抱く思いですので、正当であり、法務部門もロジックを押し付けて無視するようにと迫ることは適当ではありません。企業の「許容しうるリスクレベル(risk torelance)」とは別に、人間各個人にはそれぞれの「許容しうるリスクレベル(risk torelance)」があるからです。

 ではこのような場合に、法務部門としては、どのような追加のサポートを提供することができるでしょうか。 

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(わたなべ・ゆういちろう)

鳥取県鳥取市出身。2008年東京大学法科大学院修了。2009年弁護士登録。現在、米国サンフランシスコに本社を有するAirbnb(エアビーアンドビー)のLead Counsel、日本法務本部長。米国トムソン・ロイター・グループが主催する「ALB Japan Law Award」にて、2018年から2022年まで、5年連続受賞。デジタル臨時行政調査会作業部会「法制事務のデジタル化検討チーム」構成員、経済産業省「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」法務機能強化実装WG委員など。著書に『攻めの法務 成長を叶える リーガルリスクマネジメントの教科書』(日本加除出版、2023)など。

 

(とうごう・のぶひろ)

金融ベンチャー役員を経て、2006年サミー株式会社に入社。以降、総合エンタテインメント企業であるセガサミーグループの法務部門を歴任。上場持株会社、ゲームソフトウェアメーカー、パチンコ・パチスロメーカーのほか、2012年にはフェニックス・シーガイア・リゾート(宮崎県)に赴任。部門の立ち上げから、数十名規模の組織まで、多種多様な法務部門をマネジメント後、2022年には組織と個人の競争力強化を目的とする合同会社ひがしの里を設立。2023年からはセガサミーグループにおける内部監査部門を担当。

 

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