商事法務メルマガについて
東京大学教授
白 石 忠 志
商事法務メルマガが2000号を迎えるとのことで、思いがけず、エッセイを寄稿することとなった。いつも上のほうだけを見てメールソフトでアーカイブしてしまう私は必ずしも良い読者ではないが、この機会に、少し遡って、上から下まで目を通してみた。
この種の仕事は、根気が必要であろう。週に2回、火曜と金曜に、記事の題名とリンクが大量に並んだメールが届いている。根気が必要とされる割には、普段は誰からも声を掛けられない月見草のような立場ではないかとも想像される。
商事法務メルマガには、次のような長所を容易に看取することができる。
第1に、狭い分野を探究するに際しても、有益な情報源となっている。
言うまでもなく最近は情報が過剰となっており、官庁のウェブサイトは飽和気味である。私が自分で頻繁に巡回するウェブサイトの数は限られているが、それでも、このところ、そうしたウェブサイトに出ていたはずの情報を見逃していたということが多い。官庁ウェブサイトにおける新情報の見せ方の問題もあるが、やはり、情報が増えていることが最大の原因であろう。
商事法務メルマガの編集者は、そのあたりの勘所をよくわきまえているし、実はオフレコ情報を持っていたりするのではないかとも思われるため、関係者が知りたい情報を拾い上げ、必ずしもそうではない情報を片付けて、知らせてくれる。今回、少し遡って読み返してみて、私が専門としているはずの分野についてもいくつか、取り逃していた情報を得ることができた。有り難いことである。
第2に、視野を広げるための強力なシグナルを与えてくれる。
私のような者でも、もっと様々なことを知り守備範囲を大きくすれば更に楽しいのではないかと、思うことがある。しかし、他の分野でどのようなことが起きているのかは、SNSなどで断片的に知る程度にとどまる。もう少ししっかりと知りたいと思っても、何を頼りに情報を集めればよいのか、よく分からない。
商事法務メルマガには、官庁・企業・裁判所・官報・書籍・雑誌・イベントなど、様々な切り口からの多彩な情報が満載である。しかもそれらは、広い範囲に目の利く編集者らがある程度の選別をかけたものであるに違いない。僅か週に2回なのであるから、時間を惜しまず上から下まで軽く目を通すだけで、今、何が起きているのか、何となく見たことがあるという程度には、視野を拡張できるように思われる。人に内緒のブルーオーシャンの種が発見されるかもしれない。
もちろん、そのようなことそれ自体を大きな楽しみとして、週に2回、ゆっくりと、上から下まで見て、いくつかのものをクリックしたりすることが前提となる。
第3に、蓄積型の情報メディアとしても、優れているのではないか。
週に2回、流れるように消費するだけでは勿体無い。私の手元でも、2000回のうち1200回分くらいは現在使用中のメールソフトに保存されている。これを上手く検索すれば、10年分を超える巨大なデータベースとして活用できる。著作権法上の問題がない範囲で工夫を凝らせば、更に力を発揮するかもしれない。そう思っただけで心が躍っている。
私個人としても、Scrapboxというオープンな場で、自分の専門分野に関する細かなリンク等を日々細々と積み上げてきたところ、現在では1400ページを超える雑多なデータベースが出来上がっている。商事法務メルマガの幅広さと組織性の成果を個人の手元で蓄積型データベースとして使えば、かなりの威力を発揮するのではないか。これまで、メールソフトで人名等を検索すると商事法務メルマガのバックナンバーが多くヒットして困っていたのであるが、それを逆手に取ればよいわけである。
誰でもすぐに思いつくような使い道を三つほど挙げてみた。とにかく、週に2回のメルマガのために毎日地道に情報の収集と吟味を続けている関係者に敬意を表したい。私的なコミュニティでも、SNSでも、しっかり貢献し、場を作り上げ、多くの人たちの交流の交差点となっている人は、普段は明示的には何も言われないとしても、心の中で、一目置かれ、愛され、尊敬されている。それが、商事法務メルマガの一番の狙いであるのかもしれない。この機会に、これまでより更にもう少し商事法務メルマガを活用することをひっそりと誓い、感謝の気持ちを新たにするものである。
以 上