(第1号)
企業法務よしなしごと
・・・ある企業法務人の蹣跚・・・
平 田 政 和
東京オリンピックが開催される年、東海道新幹線の開業が予定されていた年である1964年(昭和39年)4月に大手合成繊維メーカーに入社し、以後、中堅化学品メーカーの役員を退任するまで45年間、取引法務、組織法務、与信管理、安全保障貿易管理、内部監査、監査役監査など広い意味での企業法務全般を担当者、責任者、プレーイング・マネージャーとして担当し、役員として職務を執行してきた。
企業をリタイアし、参加していた研究会からも退会し、そして私が自己規律の意味で定めた私自身のこれら企業法務についての知識の賞味期限が過ぎ、消費期限も近づきつつある。
このような状態のもと、企業法務マンとしての45年間の生活を回顧しつつ、後進のために少しでも役に立つことを願い、私の経験を中心にそこで得た知見、知識、知恵を取り纏めようと思い立った。
エッセイになるかレポートになるか、それとも単なる文字の羅列になるかは予想しがたい。書き始める前に「まず基本的な概念を」と考えた時、「よしなしごと」と「蹣跚」が頭に浮かんだ。
吉田兼好は徒然草で「つれづれなるままに、日くらし硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとをそこはかとなく書き付くれば」と書いた。私が勝手に読書の師と思い定めている書誌学者の故谷沢永一氏には「読書人の蹣跚」という書物がある。「蹣跚(まんさん)」について私の手元にある広辞苑は「足もとがよろめいて、ひょろひょろと歩くさま」と説明している。
「よしなしごと」と「蹣跚」ではあっても、しっかりとしているものが一つでもあれば、というのが書き始めの気持である。新しく企業法務を担当される方々や現在企業法務を担当されている方々が、ここから小さな発見をしていただけるとありがたいとも思っている。
最初に企業法務という用語について振り返り、私との係わりを簡単に述べ、その後に、私の経験から得られた所感を「Freshmanのために・・・若いうちにこれだけはやっておこう」、「Sophomoreのために・・・勉強しよう、知らないということを知ろう」、「Juniorのために・・・広い視野をもとう」、「Seniorのために・・・将来を見据えよう」と分類し、書き続けることとする。
できるだけ主観を排し客観的に記載するように努めるつもりであるが、人間の性は弱いものである。無意識のうちに自らを正当化するような表現をしたり、都合の悪いことを記載忘れしたりするということが無いとは言えない。また、読者の理解を助けるために文中に記載した案件については、深く関与し当該案件について一番よく知っていると自負しているが、そうは言っても、その案件について全てのことを完全に記憶しているということも言えない。人間は自らに都合のよいものだけを記憶しており、都合の悪いこと、不利なことは忘れる傾向がある生き物だと読んだこともあるが、これは私にも当て嵌まるだろう。このようなことを自戒しながら書き進める。
資料を参照することなく記憶に残っている重要な契約書や大きなプロジェクトあるいは対応に苦慮したトラブルなどを思い出し、そのとき共に仕事をした上司、先輩、同僚や交渉相手であった他社の企業法務の仲間の顔を思い浮かべ、彼らと頭の中で議論し、回想するということを楽しみながら書き続けたいと思っている。
なお、この文章はパソコン画面に表示されることを念頭に、1回当り1,000字から1,500字を目途に綴ることを考えている。
(以上)