GPIF、2023年度の「優れた統合報告書」とともに
「選定上の考え方、評価の視点・ポイント」を発表
――「優れた統合報告書」70社・「改善度の高い統合報告書」100社の
企業規模別選定数が明らかに――
年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund.以下「GPIF」という)は2024年2月21日、2023年度の「GPIFの国内株式運用機関が選ぶ『優れた統合報告書』と『改善度の高い統合報告書』」を発表した。
GPIFにおいて例年、国内株式の運用委託機関に選定を依頼して実施する調査の最新の取りまとめ結果を公表するもので、2023年2月22日に発表された前年度(2022年度)の概況については SH4345「GPIF、2022年度の「優れた統合報告書」と併せて「統合報告書の活用状況・方法」を発表――「優れた統合報告書」は10社減、4機関以上高評価の「改善度の高い統合報告書」は今回も該当なし(2023/03/08)」を参照されたい。なお、前年度は運用機関における「統合報告書をどのように企業分析や企業との対話に活用しているか」に係る回答の掲載がなされていたところ、今年度は運用機関に対し(i)「優れた統合報告書・改善度の高い統合報告書を選定する上での考え方や評価の視点・ポイント等」につき企業から問合せが多かったとして回答を依頼。併せて(ii)「有価証券報告書のサステナビリティ開示が充実したことにより、統合報告書に求める開示内容や期待、重要性に変化はあるか」についても取りまとめられた。
今般の調査結果によると、2023年度において「優れた統合報告書」は延べ70社が選定されている。近時の推移をみると、2022年度:67社、2021年度〔2022年2月7日発表〕:77社、2020年度〔2021年2月24日発表〕:77社など。また、今般の発表では「企業規模別 運用機関選定数の分布」が図示されており、これによると今年度の「優れた統合報告書」70社中、大型(TOPIX100):36社(51%)、中型(TOPIX Mid400):30社(43%)、小型(それ以外):4社(6%)といった分布状況が判明した。
「改善度の高い統合報告書」については今年度:延べ100社が選定されており、その推移としては2022年度:95社、2021年度:100社、2020年度:94社などとなる。分布状況としては当該100社中、大型:24社(24%)、中型:60社(60%)、小型:16社(16%)であった。
GPIFでは、このような企業規模別の分布状況について(ア)「優れた統合報告書」では相対的に経営リソースが豊富な大型企業が約半数を占める、(イ)「改善度の高い統合報告書」では中小型企業が大半となるといった状況を踏まえ(ウ)「統合報告書の作成の広がりと質の向上が伺え」ると分析している。
今年度70社選定となった「優れた統合報告書」中、4機関以上の運用機関から高い評価を得たのは次の5社である。①6機関が高い評価:伊藤忠商事、②5機関が高い評価:アサヒグループホールディングス、日立製作所、③4機関が高い評価:双日、三菱UFJフィナンシャル・グループ。
直近3か年度(今年度から2021年度まで)の状況をみると、4機関以上からの高い評価を3か年度連続して獲得しているのが伊藤忠商事と日立製作所。三菱UFJフィナンシャル・グループは2021年度に続く高い評価となった。アサヒグループホールディングスに関しては評価5機関中4機関のコメントが「インパクトの可視化」について触れており(類似の表現を含む)、双日では評価4機関中のコメントとし、たとえば「女性活躍推進の取り組み」「人的資本に関する開示の模範例」といったかたちで人材(人財)に触れるものが3機関にのぼる。なお、伊藤忠商事については2017年度(2018年1月18日発表)から7か年度連続で高い評価を得ており、日立製作所も2019年度(2020年2月7日発表)から5か年度連続となっている。
一方、今年度100社選定の「改善度の高い統合報告書」について仔細をみると、4機関以上から高い評価を得たものとして2019年度:2社、2020年度:4社、2021年度:該当企業なし、2022年度:該当企業なしと推移してきたところ、今年度も該当企業なしであった。また、前年度(2022年度)においては5社が「3機関から高い評価を得た」ものの今年度はこれに該当する企業もみられず、「2機関から高い評価を得た」企業が15社と比較的高水準となっている(2022年度:10社、2021年度:15社、2020年度:17社)。
今年度発表のトピックとなる上記(i)の「優れた統合報告書・改善度の高い統合報告書を選定する上での考え方や評価の視点・ポイント等」として運用機関から寄せられた回答については、GPIFが各運用機関のコメントを類型化し、(1)内容が企業価値向上に結びついているか、(2)トップメッセージ・ガバナンス、(3)具体的な情報の内容・質、(4)報告書の見せ方――の4つに分類して掲げられている。
運用機関のコメントとして収載される件数がもっとも多いのは上記(1)となっており、ここでは計20の箇条書きにより整理して紹介。筆頭に掲載されるコメントは「『ありたい姿』に向かう中での、財務・非財務のマテリアリティが明示されているか。マテリアリティに対する短中長期の取組みが、適切なガバナンスの下、PDCAに基づいて行われているかがわかる記載になっているか」と指摘した上で、このような「一連の取組みが、企業価値向上と結びついていることがわかる記載となっているか」と述べるものである。
また、上記(ii)の「有価証券報告書のサステナビリティ開示が充実したことにより、統合報告書に求める開示内容や期待、重要性に変化はあるか」を巡っては計17のコメントが掲載されており、適宜参考とされたい。
GPIF、「GPIFの国内株式運用機関が選ぶ『優れた統合報告書』と『改善度の高い統合報告書』」を公表
https://www.gpif.go.jp/esg-stw/20240221_integration_report.pdf