欧州議会、EU AI Actを2024年3月13日に正式承認
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士 中 崎 尚
1 はじめに
2024年3月13日、欧州の立法機関である欧州議会は、賛成523、反対46、棄権49で、EU AI Act(「AI規則」)を承認した。「AI規則」は、正式名を「AIに関する整合的規則(AI法)の制定及び関連法令の改正に関する欧州議会及び理事会による規則」(REGULATION OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL LAYING DOWN HARMONISED RULES ON ARTIFICIAL INTELLIGENCE (ARTIFICIAL INTELLIGENCE ACT) AND AMENDING CERTAIN UNION LEGISLATIVE ACTS)という。名前にあるとおり、GDPR(一般データ保護規則)と同じく「指令」ではなく「規則」に位置づけられている。「指令」が加盟国の国内法制化を経ない限り、直接効力が生じないのに対して、「規則」は、それだけで直接に効力が生じ、国内法制化を経なくとも効力が生じることになるもので、日本法でいう「法律」に近い。
同規則は、近時社会で広く普及しつつあるAIシステムに内在するリスクから、基本的権利、民主主義、法の支配、環境の持続可能性を守るべく、そのリスクと影響の度合いに応じて、AIにたずさわる事業者の義務を定めるリスクベースト・アプローチの手法を採用することで知られている。その内容は複雑多岐にわたり、紙幅の関係上、紹介し尽くすことはできないため、概要のみ言及するにとどめる。詳細は筆者の別記事あるいは近刊予定の『生成AI法務・ガバナンス――未来を形作る規範』(商事法務、2024年4月刊行予定)をご参照いただきたい。
日本における法律の成立までの流れが頭にあると、議会が議決したのであれば、「成立」ではないのか、なぜ「承認」なのか、という疑問をお持ちの読者もいらっしゃると思う。今回のAI規則を含むEU法の成立に至る過程はやや特殊でわかりにくい点も多いため、本記事ではこの点も解説する。
最後に、欧州議会はAI規則の承認のリリースにおいて、「この分野のリーダーとして確立することを目的とするものである」とし、その野心を隠そうともしていない。これは現在、世界各国でAIをめぐるガバナンスのあり方をめぐって、大競争時代に突入していることの裏返しとも言える。本記事では、この状況についても簡単に触れていく。
2 AI規則の適用範囲
⑴ 適用されるAIシステム
AI規則では、AIシステムを「さまざまなレベルの自律性で動作するように設計されたマシンベースのシステムであって、配備後に適応性を示す可能性があり、明示または暗黙の目的のために、物理環境または仮想環境に影響を与え得る、予測、コンテンツ、推奨、または決定などの出力を生成する方法を、受け取った入力から推測するものをいう」と広めにカバーする定義を採用している。
⑵ 適用される事業者
AI規則では、AIにたずさわる事業者(自然人や公的機関を含む)を、プロバイダ(開発者や市場投入者)、デプロイヤ(使用者)、インポーター(輸入者)、ディストリビュータ(プロバイダ、インポーター以外の、サプライチェーン上の販売者)等に分類し、それぞれの義務を定める。さらに、これらの事業者を総称して、オペレータとし、その義務を定める。
⑶ 日本国内の事業者への影響
AI規則では、域外適用に関するルールが正面から定められている((2)②の(a)および(c))。EU域外の事業者であっても、EU域内でAIシステムを市場に投入するかまたはサービス提供している場合や、当該システムにより生み出された成果がEU域内で使用される場合には、「プロバイダ」(前者および後者)または「デプロイヤ」(後者のみ)に該当する可能性が生じ、日本企業にもAI規則が適用される可能性は否定できない。適用される場合は、EU域内に授権代理人(Authorized Representative)を設置する必要がある。
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(なかざき・たかし)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所スペシャルカウンセル。東京大学法学部卒、2001年弁護士登録(54期)、2008年米国Columbia University School of Law (LL.M.)修了、2009年夏まで米国ワシントンD.C.のArnold & Porter法律事務所に勤務。復帰後は、インターネット・IT・システム関連を中心に、知的財産権法、クロスボーダー取引を幅広く取扱う。日本国際知的財産保護協会編集委員、経産省おもてなしプラットフォーム研究会委員、経産省AI社会実装アーキテクチャー検討会作業部会構成員、経産省IoTデータ流通促進研究会委員、経産省AI・データの利用に関する契約ガイドライン検討会委員、International Association of Privacy Professionals (IAPP) Co-Chairを歴任。2022年より内閣府メタバース官民連携会議委員。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
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