弁護士 山 田 智 希
1 はじめに
わが国において企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を目指すコーポレートガバナンス改革の実践に向けた取組みが進められている中、2024年10月18日、2020年に改訂された「『責任ある機関投資家』の諸原則 ≪日本版スチュワードシップ・コード≫」(以下「SSコード」という。)の再改訂に向け、金融庁に設置された「スチュワードシップ・コードに関する有識者会議(令和6年度)」(以下「本会議」という。)の第1回会合が開催された[1]。
本会議では、近時コーポレートガバナンス改革をめぐる議論において示されている様々な提言や取組みを踏まえ、機関投資家の行動準則として新たに盛り込むべきと考えられるものをSSコードにどのように反映していくべきかが検討されることとなる。SSコードの改訂は、機関投資家のみならず、機関投資家との建設的な対話(エンゲージメント)を進める企業も含めた多くのステークホルダーにとって重要な意義を有するものと思われる。そこで、本稿では、近時のコーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」という。)およびSSコードに関する動向を整理した上、本会議において検討されることが見込まれる内容について概観することとしたい。
2 CGコードおよびSSコードに関する近時の動向
SSコードは、機関投資家が「責任ある機関投資家」として「スチュワードシップ責任[2]」を果たすに当たり有用と考えられる諸原則を定めるものである。そして、SSコードは、上場企業の行動準則として策定されたCGコードとともに、日本における企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を促す「車の両輪」ととらえられてきた。両コードの下では、CGコードへの対応を進める企業とSSコードへの対応を進める機関投資家とが建設的な対話(エンゲージメント)を積み重ねることが求められている。こうした両コードの内容は、企業や投資家における取組みの実践状況や時代の変化に伴う新たな課題を踏まえ、それぞれ2回にわたる改訂がなされてきた。本稿のテーマであるSSコードについては、直近では2020年に改訂されており、本会議における第1回会合の事務局説明資料[3](以下「本資料」という。)において以下の図のとおり示されているように、運用機関が考慮すべき点等がアップデートされたほか、運用機関に運用を託すアセットオーナー(企業年金等)が運用機関によるスチュワードシップ活動を後押しすべきこと、また、機関投資家向けサービスを提供する主体(議決権行使助言会社や年金運用コンサルタント等)が適切にサービスを提供し、インベストメント・チェーン全体の機能向上に資するものとなるよう努めるべきであることが、新たに原則として示された。
出典:本資料3頁[4]
出典:同上4頁
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(つかもと ひでお)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー弁護士
2003年東京大学法学部卒業、2004年弁護士登録。2010年~2013年に法務省民事局へ出向し、平成26年会社法改正の企画・立案を担当。また、2016年~公益社団法人日本監査役協会「ケース・スタディ委員会」専門委員、2017年~2022年経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システム(CGS)研究会(第2期・第3期)」委員、2019年~2021年経済産業省「新時代の株主総会プロセスの在り方研究会」委員、2024年経済産業省「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会」委員。主に、M&A、取締役会改革・株主総会対策をはじめとする会社法およびコーポレート・ガバナンス、紛争対応を扱う。
(やまだ・ともき)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2017年東京大学法学部卒業。文部科学省勤務を経て、2018年弁護士登録(第二東京弁護士会)。コーポレートガバナンス、国内外のM&A・組織再編、コーポレートファイナンスのほか、宇宙・航空、教育関連のビジネスの法的サポートを中心に扱う。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。
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