中国:薬品管理法の改正(前編)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 川 合 正 倫
2019年8月26日、中国の立法機関たる全国人民大会常務委員会が「中華人民共和国薬品管理法」改正案(以下「新薬品管理法」という。)を採決し、同法は、同年12月1日より施行される。新薬品管理法は、現行の「中華人民共和国薬品管理法」(以下「現行法」という。)が1984年に公布されてから二度目の重要な改正となる。今回の改正内容としては、処方薬のオンライン販売、海外薬品の輸入、薬品トレーサビリティシステムといった時代の変遷に伴う注目点が多く、中国国内に限らず、海外からも大きく脚光を浴びている。本稿では、新薬品管理法の主な修正内容を紹介することとする。
なお、本稿は長島・大野・常松法律事務所の柳陽中国弁護士の協力のもとに作成している。
1.「薬品上市許可保有者」制度の全国的導入
これまで、北京、上海、広州等において試験的に導入されていた薬品上市許可保有者制度に関し、新薬品管理法施行後は、全国的に導入されることになる。薬品上市許可保有者とは、薬品登録証書を取得する企業又は薬品研究製造機構をいい、薬品の非臨床研究、臨床試験、生産経営、発売後研究、副作用監視及び報告・処理等について責任を負う(新薬品管理法第30条)。具体的には、薬品上市許可保有者は、以下のような各種の義務を負うとされている(新薬品管理法第3章各条)。
- ▷ 薬品品質保証システムを構築し、独立して品質管理を担当する薬品品質担当者を任命する。
- ▷ 生産委託先の企業、運営企業の品質管理システムを定期的に査定する。
- ▷ 自ら薬品を生産し、又は薬品生産企業に(ワクチン、血液製品、麻酔薬品、向精神薬品、医療用毒性薬品を除く)薬品の生産を委託することができる。前者の場合、薬品生産許可書を取得するものとし、後者の場合、条件を満たしている薬品生産企業に委託し、委託契約及び品質に関する契約を締結するものとする。
- ▷ 薬品に対する品質検査・審査を行う。
- ▷ 自ら薬品を経営し、又は薬品経営企業に経営を委託する。
- ▷ 薬品トレーサビリティシステムを構築する(後述)。
- ▷ 年度報告制度を確立する。
- ▷ 薬品上市許可保有者が海外企業である場合、中国国内で設立した代表機構又は指定する企業法人をして薬品上市許可保有者の義務を履行させ、かつ、共同で薬品上市許可保有者としての責任を負う。
また、薬品上市許可保有者が、国務院薬品監督管理部門の認可を得て、薬品登録証書を譲渡することができることも新たに規定された(新薬品管理法第40条)
2.GMP及びGSPの廃止
現行法では、薬品製造企業は、「薬品製造品質管理規範」(GMP)に従って製造し、薬品を販売する薬品経営企業は、「薬品経営品質管理規範」(GSP)に従って取り扱わなければならない。また、薬品監督管理部門は、これらの企業がGMP又はGSPの要求に合致するか否かについて認証し、認証に合格した企業に対しては認証証書を交付するとされている(現行法第9条、第16条)。
これに対して、新薬品管理法は、これらの規定を削除した。しかし、認証証書の取得義務がなくなったとはいえ、新薬品管理法においても、薬品製造企業及び薬品経営企業は、薬品生産/経営品質管理規範を遵守し、健全な薬品生産/経営品質管理システムを構築し、薬品の生産/経営全過程が法定の要求を満たすよう保証しなければならないと規定されており(新薬品管理法第43条、第53条)、特段の規制緩和がなされてわけではないと考えられている。
3.処方薬のオンライン販売
中国では、インターネットの普及に伴い、処方薬のオンライン販売に対するニーズが高まってきているが、その是非について議論が続いていた。現行の「薬品流通監督管理弁法」によれば、オンラインで処方薬を販売することが明確に禁止されているが、国務院の関連規定では一部の処方薬のオンライン販売が認められており、処方薬のオンライン販売の規制が緩和される傾向にあった。しかしながら、今年4月に公表された薬品管理法修正草案では、処方薬のオンライン販売が禁止されており、業界に大きな波紋を呼んだ。
これに対し、新薬品管理法は、処方薬のオンライン販売禁止の懸念を払拭し、ワクチン、血液製剤、麻酔薬品、向精神薬、医療用毒性薬、放射性薬物、及び薬品類前駆化学製品といった国で特別な管理を実施する薬品を除く薬品はオンラインで販売できることとされた。なお、オンライン販売の詳細については、別途制定される管理弁法に規定されることになる(新薬品管理法第61条)。
(後編)につづく