◇SH3113◇ミャンマー:ミャンマーにおける新たな倒産処理の枠組み(後編) 酒井嘉彦(2020/04/22)

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ミャンマー:ミャンマーにおける新たな倒産処理の枠組み(後編)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 酒 井 嘉 彦

 

 本稿では、前編に続き、2020年2月14日付で成立し、同年3月25日付で発効したミャンマー倒産法(「新倒産法」)の概略を紹介する。なお、本稿の執筆にあたり、長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィスのWin Shwe Yi Htunミャンマー弁護士の協力を得ている。

 

4. 新倒産法の特色及び概要

(2) 再建型手続の新設(つづき)

 再建型手続では、有担保債権者も強制的に手続に取り込まれ、手続外で担保権を行使するいわゆる別除権は否定されており、手続が係属している間は、裁判所の許可又は再建管理人の書面による同意がない限り担保権実行が制限される。その一方で、再建管理人は、債務者の財産について有担保債権者の利益を害するおそれのある取引を行うことができないとされており、債務者の救済・再生のための企業救済再建計画の適切な作成・履行と、債権者(特に有担保債権者)の債権回収への期待との利害の調整が図られている。

 なお、再建型手続では有担保債権者による別除権の行使が否定されている点が、日本の民事再生手続との大きな相違点である。また、日本の会社更生手続との相違点としては、例えば、有担保債権者を手続に取り込みつつも、債権者の同意要件の簡略化(債権者集会における出席債権額及び出席債権者数の過半数の同意で足りる)等、簡素化された手続により迅速な企業救済・再生が企図されていること等を指摘することができる。

 

(3) 企業の救済・再生に重点が置かれていること

 新倒産法の再建型手続を定める章の冒頭において、再建型手続の目的について、継続企業としての債務者の救済・再生という目的を、債権者の債権回収の最大化という目的(債務者を清算させるよりも事業継続させることで債権者全体にとってより良い結果を達成するという目的)よりも優先させることが明示されている。また、上記(2)において述べた通り、再建型手続が係属している間は、原則として、有担保債権者による担保権実行が制限されている。さらに、再建型手続が清算型手続に優先する構造となっており、再建型手続が係属している間は清算型手続が自動的に停止し、再建型手続が不調に終わった場合に初めて清算型手続に移行することとされている。これらの規定からも、経済的困難を抱える企業の清算や債権者の債権回収の最大化よりも、企業の救済・再生に重点を置いている立法者の政策判断が読み取れる。

 なお、新倒産法における清算型手続は、会社法に規定される従来型の清算手続の枠組みを基本的に踏襲する内容になっている。

 

(4)中小企業の保護に焦点をあてた特別の制度(中小企業再建手続)の新設

 新倒産法では、国の経済を支える中小企業に対して、より適切な救済・再生のプロセスを提供することを目的とした独立の規律(中小企業再建手続)を設け、中小企業の事業継続及び生産性の維持が企図されている。

 中小企業再建手続の特色として、中小企業自らが手続を開始することとされており、有担保債権者や裁判所による手続の開始は認められていない。また、中小企業の経営陣は、再建アドバイザー(Rehabilitation Adviser)を選任しつつ、資産の管理処分権限を失わず、引き続き自ら事業を継続することができるとされている。

 なお、「中小企業」とは、債務総額が法定基準額以下の法人又は個人事業主若しくはパートナーシップをいうと定義されているため、大規模な企業や外資企業であっても、借入額を含めた債務総額が小さければ「中小企業」の定義に該当し、中小企業再建手続を利用できることとなる。

 

(5) 倒産実体法のルールの整備

 債権者の有する担保権の処遇についての規定が設けられたり、また、廉価取引、申立前2ヶ月間の偏頗行為及び詐害行為について、清算型手続における清算管財人や再建型手続における再建管理人等の一定の者が否認権を行使し、裁判所が取消命令を発する制度が新設されたりする等、倒産実体法のルールも整備された。

 

(6) 国際倒産処理の枠組みの提示

 新倒産法は、国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)の国境を越えた支払不能に関するモデル法を採択しており、複数の国に債権者や資産を持つ企業の倒産処理を解決するための枠組みを提示している。

 

5. おわりに

 新倒産法の成立及び施行により、経営破綻に陥った企業をとりまく関係当事者の権利関係の帰趨に関する予見可能性が高まり、倒産処理のメニューが増え、また、倒産処理手続が明確化されることになり、事業環境が改善されることが期待される。このように、ミャンマーでは、これまで他のASEAN諸国に遅れをとっていた法制度の整備やビジネスインフラの改革への取り組みが行われており、海外の企業や投資家の呼び込みの効果を上げつつある状況にあるため、今後もその動向に注目していきたい。

以上

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