◇SH3114◇2020年の定時株主総会とハイブリッド型バーチャル株主総会(上) 尾崎安央(2020/04/22)

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2020年の定時株主総会とハイブリッド型バーチャル株主総会(上)

早稲田大学法学学術院教授

尾 崎 安 央

目 次
はじめに
Ⅰ 3月決算会社の6月定時株主総会
Ⅱ 2020年6月の定時株主総会(2019年度決算総会)の問題点
 1 決算手続の遅滞
                     〔以上(上)掲載〕
 2 「三密」を回避した定時株主総会の開催
 (1)「三密」
 (2) 定時株主総会を開催することの必要性
 (3) 定時株主総会の開催延期
  ① 株主総会の延期または続行の決議
  ② 現行法の解釈で延期を認めることの可否
  (ⅰ) 定款所定の開催時期との関係
  (ⅱ) 定款所定の基準日との関係
                     〔以上(中)掲載〕
 (4) 規模を縮小した定時株主総会の開催
 (5) インターネットの活用
  ① テレワーク、インターネット会議
  ② バーチャル株主総会
おわりに 
                     〔以上(下)掲載〕

 

はじめに

 新型コロナウイルスの世界的大流行(pandemic)。最近のニュースのヘッドラインは、新型コロナウイルス関連で埋め尽くされている感がある。そのような状況の中、2020年4月7日、新インフルエンザ等対策特別措置法32条1項が定める「新型インフルエンザ等緊急事態」の宣言が、政府対策本部長(同法16条1項。内閣総理大臣)から発せられた。これまで新型コロナウイルスの感染を防止するためになされてきた様々な地方自治体からの要請等が、同宣言により法的根拠を持つものになったとされる。また一定の事項については、都道府県知事が強制力ある措置を採ることも可能となった。本稿では、新型コロナウイルス流行の影響下における、いわゆる3月決算の株式会社の定時株主総会を取り上げる。

 

Ⅰ 3月決算会社の6月定時株主総会

 3月決算会社の定時株主総会は、例年6月下旬に開催されることが多い。そのような会社では、4月初めから(それ以前から)、定時株主総会に向けて様々な作業が行われる。定時株主総会の重要事項は、前事業年度の決算であろう(任期満了役員等の改選もあろう)。

 3月期決算の上場会社(会社法上の大会社である公開会社)を想定すると、3月末日をいわゆる「決算日」として会計帳簿に基づいて会社法上の計算書類等の作成がなされる。このような会社は会計監査人設置会社であることから(会社328条)、計算書類は公認会計士・監査法人から選任された会計監査人の会計監査を受け、(会社によって)監査役・監査役会、監査等委員会、監査委員会(のいずれか)の会社法監査を経て、取締役会の承認を得る。監査と取締役会の承認を経た計算書類等及び監査報告・会計監査報告は、株主総会招集通知に添付されて、株主総会の日の2週間前までに株主に提供される。定時株主総会では、会社法上、計算書類の承認が必要であるとされているが、会計監査報告が無限定適正意見であって、その監査結果について監査役全員・監査役会、監査等委員会の監査等委員全員・監査委員会の監査委員全員が異議を述べないときは、特則(会社439条、会社則116条、会社計算35条)の適用があり、定時株主総会の承認は不要とされ、報告事項で処理される。これが例年の決算日から定時株主総会までの流れであろう(以上、会社435条2項~438条参照)。

 決算日から株主総会の日までの間が約3か月足らず。定時株主総会で議決権を行使することができる株主は、定款で3月末日(基準日)の株主名簿上の株主とされている会社が通常であろう。そして、その効力が基準日から3か月に限定されているから(会社124条2項)、多くの会社で6月が定時株主総会の開催時期になる(集中する傾向にある)のである。

 

Ⅱ 2020年6月の定時株主総会(2019年度決算総会)の問題点

1 決算手続の遅滞

 今年の定時株主総会の問題点の1つは、決算手続がこの期間内に終了するかどうかである。パンデミックの下、海外子会社を含め、決算手続が順調になされるのかどうか。テレワークが奨励されるところ、計算書類等の作成係る事務処理がテレワークとどれほど整合的なのかなど、期限までに計算書類等の作成を含む一連の決算手続が間に合うのかどうか、である。

 会計監査人の監査は期中の監査活動が重要であるとしても(上場会社では、金融商品取引法上の監査との関係で、四半期ごとのチェック(レビュー)がなされるのが通常である)、期末監査でもいくつかの監査のための手続を必要とする。それが順調に行えるかどうかも問題である。たとえば、いわゆる実査や確認等を必要とするならば、緊急事態宣言のもと、監査対象会社等に直接出向いてその手続を行えるかどうか。在宅勤務が奨励される現下の状況では、公認会計士・監査法人の担当者が会社等に出向けるかの問題だけでなく、監査受ける企業側も担当者がこれに応対できるかどうか。このように監査の停滞も予想される。

 加えて、連結計算書類である。会社法上の連結計算書類は上場会社では作成しなければならない会社法上の計算書類であり(会社444条3項)、上場会社の決算手続は連結計算書類を含めて行われる(同条4項~7項。定時株主総会では報告事項)。連結対象となっている子会社、上述したように、特に海外子会社の財務情報等が期限に間に合うかどうかが、まず気になるところである。会社法上の連結計算書類は、金融商品取引法上の財務書類である連結財務諸表に相当する。連結財務諸表を含む有価証券報告書の提出期限が事業年度終了日から原則3か月以内とされていることもあり(金商24条1項本文)、この点でも、6月までの期間の作業は相当タイトになることが予想される。

 なお、有価証券報告書の提出期限の延長については、個々の企業からの申請で正当な理由があるときは延長が認められる可能性があるが(金商24条1項本文、企業開示府令15条の2。金融庁「新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について」(2020年2月10日))、金融庁は、2020年4月14日に、企業側が個別の申請を行わなくとも一律2020年9月30日までの提出期限の延長を認めることとした(金融庁「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について」(2020年4月14日、4月17日更新))。

(中)につづく

[2020年4月20日脱稿]

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