ベトナム:労働法Q&A Covid 19と労働問題に関するオフィシャルレター①
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 井 上 皓 子
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Q. COVID-19問題のために事業場の閉鎖などを迫られた場合、労働者に対してどのように対応すべきでしょうか。
- A. 先月、労働法第98条第3項の休業補償とCOVID-19による事業所閉鎖等の関係について取り上げました。その後、2020年3月25日に、労働傷病兵社会問題省がCOVID-19に関連して生じる労働問題について公文書第1064/LDTBXH-QHLDTL号(「公文書1064」)を発行しました。以下に、その主要な内容と実務的な対応策についてご紹介します。
1 休業と減給
前回ご紹介したとおり、労働法第98条第3項は、危険な疫病等により労働者を休業させた場合、地域別最低賃金を下回らない範囲で労働者と合意した水準の賃金を支払えば足りるとされています。労働協約等で予め一定の水準を合意している場合には、当該条項を用いて、個別の同意を得ることなく減給が可能となります。
しかし、公文書1064は、同条の適用対象となる場合を、単にCOVID-19に関連する休業では足りず、「COVID-19の直接的な影響」を受けた場合に限定しています。その上で、「COVID-19の直接的な影響」の例示として、①当局の要請により、就労目的でベトナムに入国することができない外国人労働者、②当局の要請により、隔離措置の対象となり休業せざるを得ない労働者、③同じ企業や部署の雇用者もしくは従業員が隔離もしくは職場復帰できないため、企業(もしくはその一部)が操業することができず、それにより休業をせざるを得ない労働者について、COVID-19の直接的な影響により休業をせざるを得ない者として、減給が認められるとされています。
この公文書1064の発行後に、外出自粛・一定の事業の営業停止等を要請する首相指示第16/CT-TTg号(「指示第16号」)が公布されました。指示第16号に基づき、営業を停止せざるを得ない事業にかかる労働法第98条第3項の適用の可否についても、基本的には同様の考え方が妥当するものと考えられます。すなわち、同条に従い減給が認められる場合とは、「COVID-19の直接的な影響による場合」、具体的には、当局の指示・要請により事業場の閉鎖をせざるを得ず、それにより労働者が休業せざるを得ないことになったかどうかがポイントになるものと考えられますので、関連する人民委員会等の指示を確認する必要があります。
実際には、工場や民間事業所等は、完全閉鎖までは求められていないところが多いように思います。その場合でも、自主的に営業自粛等の措置を講じられていることもあるかと思いますが、このような当局の指示・要請ではない閉鎖の場合、労働者を休業させたとしても一方的な減給をすることはできないとされる可能性が高いように思われます。また、当局の要請により事業場を閉鎖した場合でも、予め一定水準の賃金額について労働協約等で合意していない場合には、減給後の金額について個別の同意を得る必要があります。これらの場合は、以下で述べるように、最終的な解雇等があり得ることを従業員によく説明し、雇用を維持する代わりに、一部減給に応じてくれるよう、根気強く説得する他ないものと考えられます。
労働法第44条に従い、労働者使用計画を作成し、30日前までに省級の労働管理機関に対して届出を行うことにより、2人以上の労働者の普通解雇を行うことができます。労働者使用計画の作成にあたっては、労働組合(社内組合がない場合はその上部組合)との協議も必要になり、全ての手続きを完了させるために2~3か月ほど要することもあります。
②につづく