◇SH3208◇健康経営の効果的実施と開示・対話に向け「健康投資管理会計ガイドライン」が策定・公表――経産省、「作成準備作業用フォーマット」を添付して自主的取組みの活発化を期待 (2020/06/23)

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健康経営の効果的実施と開示・対話に向け
「健康投資管理会計ガイドライン」が策定・公表

――経産省、「作成準備作業用フォーマット」を添付して自主的取組みの活発化を期待――

 

 経済産業省は6月12日、「健康投資の見える化」検討委員会(主査・森晃爾産業医科大学産業生態科学研究所教授)における検討に基づいて策定した「健康投資管理会計ガイドライン」を公表した。

 健康経営については「従業員等の健康の保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」と定義されている(ガイドライン2頁【解説1】参照)。ここにいう「従業員等」には「経営に関わる全ての働く人、つまり従業員だけでなく管理職、経営者といった立場の人」を含む。従業員等の健康の保持・増進は「労働生産性の向上、企業等のイメージの向上、さらには医療費の適正化等につながる」とともに、このような取組みに必要な経費は「単なる『コスト』ではなく、将来に向けた『投資』である」と位置付けられる。未来投資戦略(2017年6月9日・2018年6月15日閣議決定)における言及もあり、経産省では東京証券取引所と共同で「健康経営銘柄」の選定を継続して行っているほか、経産省が制度設計を行ったうえで日本健康会議が認定する「健康経営優良法人認定制度」では本年6月1日現在、すでに「大規模法人部門」のみで1,476法人の認定がなされている。なお「健康経営」は、特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標である。

 健康経営の促進のため、これまでに①企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~(主に大企業・経営者向け、2014年策定・2016年改訂)、②健康経営ハンドブック(中小企業向け、発行・東京商工会議所、2016年版・2017年版・2018年版の閲覧が可能)、③経済産業省の読むワークショップ「元気な会社は始めている 健康経営を考える会議」(大企業の取組事例など、2015年作成)などの資料が用意されているところ、今般のガイドラインは民間主導の取組みのさらなる活発化が求められているとして策定された。

 ガイドラインでは(A)企業等が従業員等のために創意工夫し、健康経営をより継続的かつ効率的・効果的に実施するために必要な内部管理手法を示すとともに、(B)その取組状況について企業等が外部と対話する際の共通の考え方を提示。経産省では「あくまで一定の枠組みであり、各企業等がその意義を理解した上で、企業等の管理会計の実務や健康経営手法等を踏まえて、柔軟に活用することができる」としたほか、特に小規模・零細企業においてすべて実施することは困難と想定されることから「健康経営を進める上での考え方の参考としていただき、実施可能な箇所から着手し、健康経営の取組自体や健康投資管理会計の進展や習熟に合わせて範囲を拡大していくことを期待する」とし、自主的かつ柔軟な取組みを促すものとなっている。

 ガイドライン本文は(1)健康投資管理会計とは、(2)健康投資管理会計の基本事項、(3)健康経営戦略について、(4)健康投資の考え方、(5)健康投資効果の考え方、(6)健康資源の考え方、(7)企業価値の考え方、(8)社会的価値の考え方、(9)健康投資管理会計の作成と活用、(10)健康投資管理会計に関する情報の開示――の全10章で構成される。各章で定義・目的・効果等を示しながら、より具体的な留意点・派生論点・事例・キーワードについては全50項目を【解説】として掲げた。

 上記(4)によると、健康投資を巡っては(ア)「健康経営戦略に基づき、従業員等の健康の保持・増進を目的として投下された取組の費用を健康投資として計上」し、(イ)「費用には、単に外部へ支出する費用だけでなく、働く環境や健康意識の向上に向けた企業等の内部における様々な取組等の費用を含む」とされる。(ウ)複数の課題解決につながる施策が健康投資に含まれる場合には「合理的な按分を行う等、前掲の目的適合性や信頼性、明瞭性等を重視し、企業等が説明責任を果たせる形で分類することが適切」としている(ガイドライン15頁「4.1 健康投資の範囲」参照)。

 「健康投資額」については(エ)「毎年、企業等が財務諸表において費用として計上するものを主として指し、企業等の資産の減価償却費も含む」とし、また(オ)「人的リソースのみを活用した投資(人件費)も含」み、(カ)健康資源への蓄積に寄与するものについて「特に有形資源には減価償却費を除いた資産価値が計上」される。なお、健康投資額の把握は内部管理を主な目的としたものであることから、健康投資の状況は金額の多寡で判断すべきものではないこと、健康投資額を外部に開示する際には金額の多寡が重視されないように工夫が必要であることが強調されている(ガイドライン15頁「4.2 投資額の概念」参照)。

 健康投資額を支出方法により分類すると、①外注費(セミナーの講演料、健康経営コンサルへの報酬等)、②減価償却費(社内で設置されたジムや診療所、健康管理を行うためのソフトウェア等)、③人件費(健康経営担当者の給与、健康経営戦略の策定に費やした人件費等)、④その他の経費(会場費、印刷費等)の4種類となる。この点、機会費用については【解説23】を設けて「健康投資効果として捉えることができる」とし、健康投資に位置付けた場合には「健康投資全体に占める割合が非常に大きくなることが考えられる(投資対効果を誤って低く見せてしまう等、投資自体を取り止める判断につながるおそれがある)」と注意を促した(ガイドライン16頁「4.3 投資額の分類」(1)参照)。

 本ガイドラインでは、上述のような(a)ガイドライン本体に加え、別添として(b)健康投資管理会計の作成に際して活用する「健康投資管理会計作成準備作業用フォーマット」が用意されている。ガイドライン本体の上記「(9)健康投資管理会計の作成と活用」と対応しており、Excel形式によっても用意された同フォーマットは、「記入をする際の一例」を示しつつも、企業等の実態に即した柔軟な作成が推奨されるものとなっている。

 フォーマットには、①戦略マップ、②健康投資作業用シート、③健康投資シート、④健康投資効果シート、⑤健康資源シートの5種類があり、段階を追って作成できるようにした。たとえば「健康経営戦略」をすでに策定している企業等においては、①・③・④・⑤の各シートを用い、健康経営の状況分析、施策等の見直しといった「内部機能としての活用」が想定されるとともに、①・③・④・⑤で取りまとめた情報を目的に応じて整理、適切な手法により外部に開示するといった「外部機能としての活用」をも想定するものとなっている(ガイドライン50頁「9. 健康投資管理会計の作成と活用」参照)。

 

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