◇SH3217◇中国:最高人民法院の新型肺炎ウイルスに関する民事案件の指導意見二(前編) 川合正倫(2020/06/30)

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中国:最高人民法院の新型肺炎ウイルスに関する民事案件の指導意見二(前編)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

 

 前回の記事で、中国の最高人民法院が新型コロナウイルス肺炎(以下、「新型コロナ」という。)に関わる民商事案件の審理について公布した2020年4月16日付の「新型肺炎ウイルスに関連する民事案件の法律に従う適切な審理の若干の問題に関する指導意見(一)」(以下、「指導意見(一)」という。)を紹介したが、最高人民法院は、2020年5月15日付で「新型肺炎ウイルスに関連する民事案件の法律に従う適切な審理の若干の問題に関する指導意見(二)」(以下、「指導意見(二)」という。)を公布した。

 指導意見(一)は主に不可抗力等について指導意見を示したのに対し、指導意見(二)は、契約案件、金融案件及び破産案件の取扱い及び法律の適用を対象とし、契約解除や事情変更の運用方針を明らかにしている。なお、本稿の執筆にあたっては中国律師の万鈞剣弁護士の協力を得た。

 

1.契約案件の審理について

(1) 契約解除の可否

 新型コロナ及び政府の防疫措置(以下、「新型コロナ措置等」という。)によって売買契約の債務不履行があった場合における契約解除の可否について、指導意見(二)は、継続履行により契約目的が実現できるのであれば、履行遅滞やコストの増加を理由とする契約解除の請求を認めない(指導意見(二)第1条1項)。一方で、継続履行により買主の契約目的が実現できない場合には、買主は契約解除又は前払金若しくは手付金(中文表記は「定金」)の返還請求が可能であるものの、売主に対する違約責任の追求は認められないとしている(指導意見(二)第1条2項)。

 この新型コロナ措置等によって契約不履行があったとしても、契約の目的が実現できる限り、契約解除は認められず違約当事者の違約責任を認めないという方針は、次の場合等にも適用される。

  1. (i)   不動産売買において、売主が契約期限に従う不動産の引渡し、又は、買主が代金支払いをできず、相手方が契約解除及び債務不履行があった当事者の違約責任を請求する場合(指導意見(二)第4条)。
  2. (ii)  賃貸借において、賃借人の資金繰りが困難になり、又は売上高が明らかに減少し、賃貸人が賃料の不払いを理由として契約の解除及び賃借人の違約責任を請求する場合(指導意見(二)第5条1項)。
  3. (iii)  工事請負において、請負人が契約期限に従い工事を完了させることができず、注文者が請負人の違約責任を請求する場合(指導意見(二)第7条1項)。
  4. (iv) オフライン教育(学習塾や語学学校等を想定)において、オンライン実施又は実施期間の変更等によって契約の目的が実現できるにもかかわらず、役務の提供を受ける当事者が契約の解除を請求する場合(指導意見(二)第8条1項)。

(後編)に続く

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